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彼は月の光と共に - 孤高のカラス 2007/03/26(Mon) 05:28 No.48

彼は月の光と共に 投稿者:孤高のカラス 投稿日:2007/03/26(Mon) 05:28 No.48
―イージスへの道、某時刻。

「くっ・・・・」
一人の男が、足を引きずりながら歩いている。
森は音も無く静まり返り、まるで全ての生き物が死に絶えたようだった。
「街にさえ・・・つくことが出来れば・・・・」
彼は、自分自身に言う。

月は煌煌と輝き、彼を夜の森にて照らしだす。


―バプテスマの塔。

2人の剣士が対峙していた。
黒い髪を持つ男と、銀に光る髪を持つ男が、剣を構えている。
彼らは間合いを詰めて行き、お互いの切っ先が届く程になった。

そして次の瞬間、黒髪の男は銀髪の背後に移動していた。

「・・・!」
銀髪の男は声にならない声を出す。

「最終奥義・・・【刹那】・・・・」
黒い髪の男はあくまで冷静に言い放つ。

「なっ・・貴様、自爆する気か!?」
銀髪は迫る死への恐怖と彼の行動への驚きから、振り向く。
だが、振り向く前に、その時は訪れた。

「カイン・・・あとは・・頼んだぞ・・・・」
彼は、最後に、彼の -聞こえないはずの- 弟子に呟いた。
そして、次の瞬間には、響き渡る轟音と共に、2人分の血痕が残されいた。

彼の名は、【ジェラルド・ヴァンス】。
かつて最強の将軍と謳われ、仲間の裏切りによって死なれたと思われていた人物である。


―イージスへの道、某時刻。

彼は、歩いていた。
血を流し、何度よろめいても、歩きつづけている。
いつも着用しているはずの鎧は鉛の様に重く、彼を地へと引きずり落とそうとする。

「死ななかっただけでも・・・幸運か・・・・」
彼は誰もいない森で、一人呟く。
「あと少し・・・あと少しだ・・・・」

―ドサッ・・・・

次の瞬間、彼は倒れていた。
当然である。
体は既にボロボロ、体力はとうに限界に達していた。
彼を突き動かしていたのは、すでに気力だけだったのだ。
「ここまで・・・か・・・・・」
彼は誰にでもなく -彼自身でもなく- 言う。
「カ・・・イ・・・・ン・・・」

月は、何事もなかったかのように、煌き続ける。




ドサッ・・・・

「誰っ・・・!?」
青い髪の女性は、振り向いた。
この誰も居ないはずの -魔物すらもいない- 森で物音を聞き取った。
それは幻聴とは思えず、確かな音だった。

「・・・何・・・・?」
彼女は好奇心からか、音のしたほうへと歩を進めていく。

月は彼女を照らし、森は彼女を奥へと誘い込む。

「・・・・・!!」
そこには、一人の男が倒れていた。
黒い髪を持ち、漆黒の鎧を纏い、月の光で輝く剣を携えていた。
ただ、彼には普通とは違う所があった。
体中から出血しているのだ。

「・・・・・。」
彼女は黙ったまま、彼を手当てし始めた。
幸いにも彼女は医者として旅をしていたため、医療を心得ていたのだ。

彼女は手当てをし続け、終わったころには森さらに漆黒に染まっていた。

「ふぅ・・・。終わった・・。」
独り言のように呟く。
「全く・・・この人は一体・・・・。」
普段はこのような疑問をもたない彼女も、持たざるを得なかった。
彼の傷は深く、常人であれば既に死んでいるはずだったのだ。

そして、闇がさらに深くなった時間に、彼は目を覚ました。

「・・・・私を助けてくれたのか?」
「あぁ・・・そうだよ。」
「・・・・・礼を言う・・・。」

そう言って、彼は立ち上がろうとする。
だが、傷は深く、彼はよろめき、立ち上がることが出来なかった。

「ちょっと焦りなさんなって。傷は完全に癒えてないんだよ。」
「・・・・。」

彼は黙り込んだが、数秒後にまた話し出した。

「名は・・何という?」
「リスティ。【リスティ・ホワイト】だよ。そういうあんたは?」
「私は・・ジェラルド・・・【ジェラルド・ヴァンス】だ。」

彼女は、名を聞いて記憶を掘り起こそうとする。
「ヴァンス・・・ねぇ。」
「・・・・なんだ?」
「いや、なんでもないんだよ。」

カイン・ヴァンス。
彼女はその人に会っていた。
だが彼女は、
(苗字が同じなんて、よくあることだろう。)
と思い、気にも止めなかった。


「少し・・・静かな所へ行くか・・・・。」
「どこでもいいけどさ、ちゃんと休みなよ。で、どこだい?」
「カラクム大聖堂にある・・Lavi-en-Roseと呼ばれる場所だ。」
「私も、医者として着いて行くからね。あんたの傷は深いんだから。」
「・・・あぁ・・・。」

そして、数十秒の沈黙のあと、ジェラルドが聞いた。
「この傷は・・・どのくらいで治るか・・分かるか?」
「多分、5日くらいでとりあえず動けるようにはだろうね。」
「・・・・・あぁ・・・・。」

月は煌きを増し、彼らの行く先を見守っていた。

これは、カインが師匠に再会する数日前の話である―


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