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タイトル釣りロ○ンを求めて(1)
投稿日: 2006/11/27(Mon) 15:10
投稿者にょにょも

ある土曜日の午後、ダーク参謀は聖ヘレンズ城内にある図書室で
調べ物をしていた。
ありとあらゆる酒を揃えた通好みの店を開く事が彼の夢だったからだ。
 当然、酒には肴が付き物。通をうならせ、感動をあたえる為にも
食材に関する知識は持っていなくてはならないだろう。
 仕事が早く片付いた日はこのように図書室で酒や食材の勉強をしているのだった。
『幻の珍味』そのタイトルに惹かれてページをめくっていたが、やがてある項目に
釘付けになってしまった。
                   −珍魚レギョン−

その体表はアンコウの如くブヨブヨと弾力に富んでいる。身のほうは
まるでフグのような旨みを持っていてじつに美味い。
肝はフォアグラ以上に濃厚でなめらか。火を通してもその食感は変わらない。
だが、それだけではないのだ。その特筆すべきは卵にある。あのキャビアの
王様と呼ばれる「ベルーガ」ですら敵わないという。イクラなんて問題外だ。
小生はこれをP・P(パニュール・ピニョール)と共に食したことがあるが
(勿論、禁止令がでる以前の話である。念の為)口の中に広がる香りは何とも
素晴らしく、天にも昇るとはこのような事なのかと大変感激したのであった....。
....残念な事に乱獲によって数が激減したため、現在では保護の指定を受けている。

「なんということだ。じつに、じつに残念な話だ....。」
ダーク参謀は目頭をそっと指で拭うと、本を閉じて大きくため息をついた。

 その夜、ダーク参謀はカインとユウを連れてエスタ・デルソルの酒場に入った。
正確に言えばユウだけは逃げ損ねたのだ。リナは部下を連れて商業都市へ買い物に
出かけていて留守。シェイドはといえば一日中、兵に剣の稽古をつけていた為に
早めに就寝してしまっていた。
「参っちゃうよなァ?一食浮いたには違いねぇけどよ〜」
と、ユウは熱く語り合うダークとカインの背中を見ながらルカに問いかけた。
カウンター席にダークとカインが座り、ユウ達は食事をとる為近くのテーブル席についていた。
「ダークしゃんはいい人ダニ。何でも好きなものを頼みなさいっていってくれたダニ」
大きな骨付き鳥モモにかぶりつきながらルカが答える。
テーブルの上はクロスが見えなくなる程料理を盛られた皿で埋まっていた。
「あのなあ....。」
「ユウしゃんはさっきネコ缶をルカに食べさせようとしたダニ。
ルカはネコじゃないダニ〜!」
「経費削減の為に、土曜日の夜から月曜日の朝まで食堂が
利用できなくなったのはお前も知ってるだろう?
給料だって減らされちゃったし、俺だってパンの耳で乗り切ろうと....。
ネコ缶の方がパン耳より高いんだからな〜!ゼータク言うな〜。」
そんな言い合いをしながら食事を済ませると
ユウ達はカウンター席に移動した。

「P・Pの最高の肴が珍魚レギョンですか....。
うわさではレモリア大陸で養殖実験が行われているようですね。
実用化には後数年はかかると....。」
「だがなあ、カインよ。あの魚は警戒心が強くなかなか養殖しにくい。
私が生きているうちに実現するとは思えんよ。
闇商人ぺぺでも入手は困難だそうだ。非常に残念でたまらないよ....。」
どうもダーク参謀は泣き上戸らしい。、彼の目の前には涙で水溜りができていた。
 ユウはバーテンに「何回目?」と尋ねた。
バーテンは澄ました顔で「16回目です」と答え飲み物を差し出した。
「うあ。今日のは特にひでぇなあ〜。
あ、それとミルクも貰えるかい?....ありがとう。」
ルカにミルクを手渡そうとしたときに
「ちょっと、
大の男がメソメソメソメソとうっとおしいったらありゃしないよ。
酒がまずくなるじゃないか。」
カウンターの端で赤い髪の女が飲んでいた。声の主はこの女性らしい。
「あ、お魚釣りのお姉しゃんダニ〜♪」
「ぶはあっ」
急にルカが立ち上がったので、ユウはミルクを思いっきり
自分の顔面に浴びせてしまった。
「ダークしゃん、このお姉しゃん釣りの名人ダニ。
レギョンもきっと釣れるダニ〜♪」
「なにっ!?」
ダークとカインは同時に叫んだ。
そんな二人を赤髪の女はせせら笑うように見ながら答えた。
「釣り以外の暇つぶしの方法を知らないだけさ。
それと、『お姉しゃん』はよしとくれ。
なんだかこそばゆくってね。あたしはディアだ。
本名?....ふ、そんなものは忘れたよ」
白い雫をぽたぽたと滴らせながらユウは
「なんだァ?そりゃ」と心の中でちいさな突っ込みを入れていた。
「レギョンのメスを釣り上げてくれたら1万ペイン出そう。
引き受けてもらえないだろうか?」
身を乗り出すようにして懇願するダークにディアは一瞥ををくれると
「断るね」
落胆するダーク。すっかりしおれてしまった様はとても参謀様には見えない。
「リスクの大きな仕事をさせるんなら、それなりの金額になるっていってるんだよ。
1万程度じゃ、誰に頼んだって引き受けちゃくれないよ」
「一体幾らなら請けるんだ?」
カインは不安げな表情でディアを見る。
「5万。」
「!!!!!!」
「と、いいたいトコだけど3万ペインに負けとくよ」
負けてくれたとはいえども薄給のカイン達には信じられない金額であった。
ダーク参謀といえどもそう簡単には出せないだろう。
しかし、ダークは静かな微笑を浮かべて答えた。
「いいだろう。だがそれは成功した時点で支払う。前金は一切無しだ。
それでいいかね?」
「構わないよ。貰えるんなら問題ないさ。
ただ、準備が必要なんでね。すぐにはできないよ」
「いつになりそうだね?」
「来週の土曜、ライドネル湖に来な。潮まわりが最高の時なんだ」
そう言うとディアはカウンターに代金を置いて去っていった。

 そして釣行前夜。ユウはカインの部屋を訪ねた。
カインはなにやら大きな箱を準備しているところだった。
「何だァ?それは」
「これか?この中には『解けない氷』が入っている。
ダグラスの錬金で作らせたんだ。レギョンの鮮度を保つためにな」
「よくやるよな〜。俺は魚よりお肉に愛を感じちゃうんだけどね。
カトレアさんのビビンバステーキ最高!」
「なんたってレギョンは『レア』だからな。万全の準備をしなくては....」
「レギョンをどうするつもりなのです?」
「勿論P・Pの肴にって....うっ?リナ!?」
「や、やっべえ....」
 ユウがドアをきちんと閉めておかなかったのが原因のようだった。
二人の会話はすっかりリナに聞かれていたのだ。正義感の強いリナの瞳は怒りに燃えていた。
が、対照的にカインとユウの全身は『解けない氷』よりも更に凍り付いていた。
「あなた達、天然記念物のレギョンを食べる事は禁じられているのよ!
犯罪よ!いますぐに中止しなさい!!さもなくば....」
リナはすばやく剣を抜き、身構える。
「リナ、れ、冷静に話し合わないか?」
女とはいえ4将軍の剣だ。凄まじい威力がある。
「こっちに向けるな!俺はカンケーねえって〜」
「見逃した時点であなたも同罪よ。ユウ、覚悟しなさい!」
「そりゃねえだろ〜!?」
「待ちたまえ。リナ将軍、君には是非食べてもらいたいのだよ。
レギョンは美容効果を高めるコラーゲンが豊富でな、それは若さと美しさを保つ成分だよ。
昔から高貴な女性達が奪い合ったという魚なのだ。」
それは立派なガウンを羽織ったダーク参謀だった。
既に就寝していたようだが騒ぎを聞きつけて来たらしい。
「美しい君だけが最高の美を得る資格がある。と、私は思っているのだがね」
 「え?あ....、その、こ、光栄です。あ、あの、
....私で何か、お力になれることがございましたら
喜んでお手伝いいたします。」
先ほどの気迫はどこへやら。すっかり大人しくなってしまったリナをカインとユウは
ただただ唖然として見つめる他無かった。
「では、城下町のレストランに予約を入れておいてくれたまえ。
勿論、貸しきりでだ」
「早速手配いたします。では私はこれで失礼いたします。」
リナが去った後、カインとユウは安堵のため息をついた。それを見てダークは
「女性を口説くには『美容』、『ヘルシー』、『オシャレ』、
『ゴージャス』、『カワイイ』これらのいずれかが
確実に効くんだ。覚えて置いて損はないぞ」
「....お見事でした。」
「明日は早い。きちんと寝ておくようにな」
スリッパの足音を響かせ、ダークは寝室へと戻っていった。
「お前はどうするんだ?」
「ん〜、ルカがどうしてもいきたいって言うからさあ。付き合って
やろうかと思ってさ」
「そうか、集合は4時に直接現地だ。寝坊するなよ」
「え!?そんなに早いのかよ」
「人目につくとマズイっていうのもあるが、早朝が狙い目らしい」
「わかった、じゃあな。おやすみ〜」
ユウはあわてて部屋へ戻っていった。彼の事だから向こうで寝るつもりなのだろう。
カインは窓際に立ち、カーテンを開いて外を見上げた。
月がくっきりと夜空に浮かんでいる。雨の心配はなさそうだ。
「ん?確かユウって....ま、いいか」
再びカーテンが引かれ、部屋の明かりが消えた。その数分後、聖へレンズ城から
大きな荷物を背負った銀髪の青年が出て行く姿を何人かの人たちが目撃する。
後に『待遇の悪さに、とうとう将軍様まで夜逃げされたのだ』というウワサがたつのだが
ひどい政治のせいもあってか、しばらくの間消えなかったという。

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釣りロ○ンを求めて(1) - にょにょも 2006/11/27(Mon) 15:10 No.36


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