遠きまだ見ぬ空の歌(中編) 投稿者:氷雨 投稿日:2006/11/27(Mon) 15:08 No.32
──翌朝。 小鳥のさえずりで目を覚ましたユウは、欠伸を噛み殺しつつベッドから抜け出した。 「う〜……眠い……」 昨日はイーサの視線の恐怖に眠気が勝るまで中々寝付けなかったためか、いまいち頭が すっきりしない。 (……顔でも洗うか) ユウはベッドから這い出て、そばの台に置かれていた洗面器に水差しから水を入れる── 恐らくどちらも先に起きていたリリィが用意しておいてくれたものなのだろう──と、片手で じゃばじゃばと顔を洗った。 「っくぅ〜っ、つめてぇ〜っ!」 汲み上げたばかりだったのか、その水は氷のように冷たく、顔を洗っただけでも凍えそうだ。 それだけに、頭のぼうっとしていた部分はあっという間にどこかへ行ってしまう。 一緒に置かれていたタオルで顔を拭き、気分がすっきりしたところで顔を上げると、イーサが 止まり木でこっくりこっくりと舟を漕いでいるのが目に入った。 「ったく……昨日はあれだけ人に睨みきかせやがったくせに、調子がいいヤツだぜぇ」 よっぽど突付いて起こしてやろうかとも思ったが、それも後で何をされるか分からないと 思い返したユウはそのままにしておいた。
コンコンッ
奥の部屋と繋がるドアからのノックの音に気付き、ユウはそちらに振り返る。 「起きてるぜ〜」 彼の応えにドアが開くと、そこにはリリィが立っていた。 「おはようございます。よく眠れましたか?」 「お、おう。もうばっちりな」 まさか「イーサが怖くて中々寝付けなかった」などとは、口が裂けても言えない。 「朝食の支度が出来てますから、今持ってきますね」 「あ、いや……俺がそっち行くわ。何度も持ってきてもらうのも悪いしよ。 ──って、俺がそっちの部屋に行っても平気なら、だけどさ」 「そうですか? では、こちらにどうぞ」 リリィの案内で奥の部屋に行くと、そこはユウが寝泊りしていた部屋とほぼ同じ造りに なっていた。ただ、内装や置かれている小物などはやはり少女らしい。色々な植物の鉢植えも、 ユウのような素人目で見ても丁寧に手入れされているのが分かる。 「へえ……色んな花があるんだな〜。これ全部リリィが世話してるんだろ?」 「ええ。私のちょっとした自慢なんです。育て方の難しい花とかもありますし……。 でも、花は見た目だけじゃなくて、香りでも楽しめるでしょう? だから好きなんです」 「……なるほど、もしかして──だから薬草にも詳しいとか?」 「はい。よく分かりましたね?」 しげしげと花々を眺めながら問うユウに、リリィは少し驚いたようだった。 「俺の手当てをしてくれた、って言ったろ? 普通の傷薬とは、においが違ったからな。 傷薬に使える草は色々な種類があるけど、それがどの草かってことまで把握してるのは 本当に詳しい人間くらいだろうし」 ユウはリリィの顔を振り仰ぎ、けろっとした顔で答える。 ──剣士であるユウにとって傷薬は必需品なのだから、少し気を払えば分かる事だ。 「確かにユウさんの言うとおり、森で花や草を摘んでいる内にもっと詳しく知りたいと思って、 人に教わったりして薬草のことも少しずつ勉強したんです。 薬草の知識があれば、困っている人を助けることも出来る──そう、思って」 「それで、俺も助けられたってわけだ。大したもんだな〜……」 「いえ、そんな……それより、早く朝食にしましょう。料理が冷めてしまいますから」 「──それもそうだな。飯!飯!飯!」 リリィの言葉にユウも顔を上げると、くるっと踵を返して席に着く。 テーブルの上には、森の近くだけあって──焼きたてのクルミ入りのパンや木の実が彩りを 添えるサラダやスープなどが並べられていた。 「そんじゃ、いっただきま〜っす!」 「はい、どうぞ召し上がれ」 元気よく、きちっと両手を合わせるユウにリリィも微笑んで答える。 「しっかし、ほんっとリリィは料理上手いよなぁ。誰かに教わったのか?」 香ばしいパンにぱくつきながら、ユウはふとした疑問を投げかける。 「はい。シーナさん──このすぐ近くに住んでいる人に教わりました。 薬草とかについても、その方に教わったんですよ」 「ふ〜ん……もしかして、この家の前で洗濯物干してたおばちゃん?」 「会われたんですか?」 「ああ。手当てをしてくれたのがリリィってことと、リリィの居場所を教えてくれたんだ」 ──程なくして、テーブルの上を彩っていた料理の数々は大半がユウによって平らげられた。 「ごちそうさま〜。──さてっと、そろそろ出発の準備でもするかな」 「あ……そうですね。ちょっと待っててください」 リリィは食器をさげて戻ってくる時に奥からユウの荷物袋、鎧などの装備品、そして一振りの 剣を一つずつ持ってくると律儀にテーブルの上に置いていった。 それと、両手の上に載るぐらいの木箱を持ってくる。 「悪い、重かったか?」 「え、ええ。私がユウさんを見つけた時は、他の人達がユウさんをここに運び込んで くれたんですけど……剣とかって、結構重いんですね。初めて知りました」 「まあ、初めてだったらそう思うかもな。でも、それでも軽い方なんだぜ。 俺、あんまり重い鎧とか大剣とか好きじゃねえし」 事実、持ち前の身のこなしの素早さに重きを置くユウは、正統な剣士としては軽装ともいえる 装備をしている。愛剣──光剣ヘブンズ・ブレイドにしても、刀身は細身な方だ。 「そうなんですか? それでも、こんな剣を軽々と扱うなんて……やっぱり、ユウさんって凄いんですね」 「そ、そうかぁ?」 (……な、なんかそうやって改まって言われると照れるぜぇ……) 心から感心しているらしきリリィの賞賛に、ユウはぽりぽりと頬を掻きながらこそばゆい 思いであさっての方に目を逸らした。 ──元々、そのお調子者な言動から、相手に甘く見られることが多いユウにとって、 これだけ率直な賞賛を受けることは少なかった。 普段ならここでふざけて「当然」と言い切ることも出来ただろうが、ユウを「上辺」で 見ていないリリィに対しては、どうもそんな取り繕い方は通用しない気がした。 「……敵わねえな、まったく」 「え?」 苦笑しながら呟いたユウに、リリィは疑問符を浮かべる。 「いや、独り言さ。 ──そうだ。世話になった礼に、良いものやるよ」 ふと何かを思い出したようにユウは荷物袋をごそごそ漁ると、布で丁寧に包んだ何かを リリィに手渡す。 布からは微かに、甘い香りが漂ってくる。 「なんですか?」 「ワイルドストロベリー、っていう花だ。なんか、すっげえ珍しい花らしくてさ。 あの森の中で偶然見つけたんだ。 なんでも、幸せを呼ぶとか、願いを叶えてくれるとか言われているらしいぜ」 荷物袋の口を閉めながら、ユウは前に聞いた話を思い出しながらそう説明した。 「本当は、知り合いのレア物好きにくれてやろうかってつもりだったんだけどな。 ……ま、見つけただなんて言わなきゃバレねえし?」 意地の悪い笑みを浮かべて、ユウはしゃあしゃあと言いのける。 リリィはしばらく布に包まれた赤い小さな花を目の前に近づけて見つめていたかと思うと、 再び大事そうに布に包んでぺこりと頭を下げた。 「ありがとうございます。大切にしますね」 「こっちこそ、ホントに世話になりっぱなしだったからな」 それに、とユウは胸中で付け加えた。 ──本当のことを語らずに、自分は彼女の前から立ち去ってしまうのだから。 勿論そのことに良心は痛むし、出来るなら本当のことを話していきたい。 だがしかし。今、彼女に本当のことを話すのは簡単だが、それによって彼女を不安に させてしまうだろう。 彼女を不安にさせたまま立ち去るぐらいなら、己の心の痛みなどどれほどのものだというのか。 (後味が良いとは言えねえけど……仕方ねえよな) そんな想いは露ほどにも出さずに、ユウは鎧や剣を装備しようとして──そういえば左手が 使えないのだということを思い出す。 「あ、お手伝いしますよ。それに、先に傷の包帯も替えないと」 どう装備しようか悩むユウに、それに気付いたらしきリリィはそう声をかけて先程の木箱の ふたを開けた。中には、乾燥された草──薬草だろう──と包帯が入っていた。 「あー……じゃあ、頼んだ」 自分のふがいなさに多少落ち込みつつも、ユウは傷口の包帯の交換と鎧の装備をリリィに 手伝ってもらう。 傷の方は元々、大したことがなかったので大抵が塞がりかけていたが、左腕はさすがに そういう訳にもいかない。疼きは大分治まっていたが、改めて添え木でしっかり固定される。 「あくまで応急処置ですから、ちゃんと他の所で治療を受けてくださいね。 特に左腕は骨折の症状自体は軽いみたいですけど、当分は無理に動かしたら駄目ですよ? 一応、荷物袋にも傷薬を多少入れておきましたから」 「お、おう。そうする……」 その手際の良さに──普段から他の村人も看ているのだろうか?──感心しつつ、ユウは リリィの念押しにこくこく頷いた。 そして、鎧の装着も終えると腰に愛剣を提げる。 「よし、準備完了〜っと」 一通り装備を確認するとユウは椅子から立ち上がり、家の外に出た。 リリィもその後ろから続いて外に出る。 ──旅立ちの空は、突き抜けるような快晴。じんわりと冷ややかな空気を暖めていく太陽が、 我が物顔で輝いている。 「それじゃあ、そろそろ行くな。世話ンなったぜ」 「いえ……私も色々話が聞けて、とても楽しかったです」 にっこりと笑って答えるリリィに、ユウも照れくさそうに笑った。 「じゃあ……またいつか、な」 そう言ってユウはリリィに背を向けて歩き出す。 「……ユウさん!」 しばらくその背を見送っていたリリィは、不意にユウを呼び止めた。 「ん?」 肩越しにユウが振り向くと、リリィは何かを言おうと口を開き──しかし、結局何も発さずに 俯く。ユウには、その表情に戸惑いのようなものが見えた気がした。 しばらくして、小さく左右に頭を振ると彼女は笑顔で顔を上げる。 そこに一瞬前までちらついていた戸惑いは、どこにもなかった。 「いえ、なんでもありません。──お気をつけて」 「……ああ。リリィも、元気でな」 荷物袋を担ぎなおすと、ユウは今度こそリリィの前から立ち去った。
「……ユウさん、行っちゃったね」 しばらく立ち尽くしていたリリィは、部屋の中から近づいてくる気配に気付き、そう 話しかけた。 「そういえば、どうして昨日ユウさんにあんなことしちゃったの?」 音もなく自分の横に着地した白い影を見下ろして、リリィは彼に尋ねる。 「──な〜んて……聞いても仕方ないか。ふふっ」 そう言って笑う彼女を、イーサは見上げたようだった。 そして、地を打つ勢いで翼をはためかせて高く飛び上がると、ユウの後を追うように森の 方へと飛び立っていった。 「……お別れの挨拶にでも行くのかしら……?」 空の蒼と森の緑の狭間に消えていく白い点を見送ってからリリィは部屋に戻ると、 イーサがいつ戻ってきてもいいように窓を開け放っておく。 ──村の子供たちがあの青年が去った事を知ったら、さぞ残念がることだろう。 皆、まだいっぱい話を聞きたがっていたのだから。それは彼女自身も同じだ。 でも、同時にこうも言ってあげよう。「あの人は必ずまた来てくれるよ」、と。 (私も、もっと料理の腕を磨いておかなきゃ) リリィはそう心に決めると、彼からもらった小さな赤い花を部屋にあった花瓶にさして、 優しく笑いかけた。
彼との「約束の証」は、窓からの春風にさやかに揺れていた。
名もなき森に再び戻ってきたユウは、早速「相棒」を探すべく自分が崖から落ちた所へと 向かっていた。 「しっかし、ルカのヤツ……どこにいるんだぁ?」 なにしろ、ほぼ丸一日自分は森から姿を消してあの村にいたのだから、ルカも完全に彼を 見失って途方に暮れていることだろう。 (……むしろ、俺の方が心配かけちまってるんだよな……) これで村で介抱されてぬくぬくベッドで一夜を過ごしたなんてことを言ったら、本気で どつかれるかもしれない。いや、絶対どつかれる。 ルカにその事を言おうか言うまいか真剣に悩んでいると、
バサッ
「ん? どこかで聞いた音が……」 頭上からした音にユウが上を見上げると、そこには── 「げっ! い、イーサ!?」 ぎょっとしてたじろぐユウを尻目に、イーサは堂々と彼の肩に着地する。 「な、なんだよ……まだどつき足りないってのかぁ?」 内心びくつきながらも虚勢を張るユウに、しかしイーサはじろっと相変わらず鋭い眼光で 見下ろしてきた。 (こ……怖っ!!) 正直、泣きたいような心持ちでユウはイーサから目を逸らす。 なにはともあれ、この膠着状態をどうにかしなくてはならない。 ユウは悩んだ末、再度歩き出しつつちらっとイーサを見上げる。──そろそろ、頃合だろう。 「……もしかしなくても、リリィには隠してるのか?」 「…………」 ユウの言葉に、勿論反応はない。──ように見えた。彼はなおも畳み掛ける。 「ここまで来て、だんまりも無いんじゃねえの? ……周りに他の人間の気配が無いことぐらい、分かってるんだろ?」 木々の葉擦れの音が、訪れた沈黙を覆う。しばらくして、ユウの肩の上の気配が変わった。 「……いつから気付いていた?」 低い──落ち着いた響きのその声は、わずかに驚きを含んでいた。 その瞳に宿る輝きは、人のそれさえも凌ぐかのような知性に満ちている。 「わりと最初っから、な。 なんていうか、俺の愛と愛と愛にかかれば、それぐらいお見通しっていうか?」 おどけて答えるユウに、容赦ない視線の刃が突き刺さる。これにはさすがにユウも怯んだ。 「だ、だから、睨むなってば怖いから。 俺の出身、ラティスの村でよ。何回か聖魔の森には行ったことがあるから、分かるんだ。 それに俺の連れも、聖魔だし」 「当たり?」と目で尋ねるユウに、イーサも観念したらしく溜息とともに答える。 「……いかにも。私は、水の聖魔だ」 「やっぱな〜。……っていう所で、なんでお前がこんな所に──しかも正体隠してリリィと 一緒にいるのか、すっごく疑問な俺なんですけど?」 「…………」 ユウは上目遣いにイーサを見上げるが、イーサは彼を見ようともせずに黙り込む。 そのまま答えずにいるのかと思いきや、 「……私の一族は、昔からこの森で人目を忍んで生活していた」 淡々と語り出したイーサの口調に、感情は読み取れなかった。 「だが、あるとき森に一人の男が入ってきた。最初は、旅人か村の人間だろうと私も他の者も 大して気にも留めなかった。……が──」 そこでふつりと言葉を区切ると、イーサからにじみ出るような怒りの気配が湧いて出る。 「奴は私達の一族の者を、次々と殺していった。笑いながら、いたぶるように。 無論、我らも対抗したが……まったく歯が立たなかった。たった一人の男に。 ……奴は、旅人でも村の人間でもなかった。──それどころか……『人間ですらなかった』」 「──!?」 これには、ユウも驚愕に目を見開いた。 脳裏に、子供のときの記憶がまざまざと蘇る。 聖魔の森──子猫の聖魔を──黒いマント──薄い冷笑──血に染まった父の、背中──。 後に知ったあの者の正体もまた──。 「ま、さか……そいつは……」 口の中が、からからに乾いていた。喉の奥がひりつくようで、飲み込む唾もない。 「人の形を取ってはいたが、恐らく──魔族。それも、かなり高位のな」 (やっぱり……) 奴だ、と直感がそう告げていた。あの時の──事も無げに父を切り捨て、見下ろしていた 混沌と狂気が渦巻く冷たい瞳を、忘れたことなど一度もない。 「そのときまだ子供だった私も奴に向かっていったが、敵うはずもない。 一族の者すべてを殺され、虫の息だった私に奴はとどめもささずに笑って言った。 『絶望に支配されながら、みじめに死に逝け』──とな」 ぎりっ、と小さな音を立てて、イーサの爪がユウの肩当てを引っ掻いた。 今だ冷めやらぬ怒りと憎しみと悔しさを、無理矢理鎮めようとするように。 「……そうして奴が立ち去った後、私はただ死を待つだけとなった。 そこに駆け付けたのが──リリィだった」 少女の名が出た辺りで、少しずつではあるがイーサから怒りの気配が引いていく。 「我らが襲撃を受けたのは、村から大分離れた場所だったが……彼女は目が見えない分、 他の感覚に優れているのだろう。何かの音を聞きつけたに違いない。 彼女は瀕死だった私を拾い上げ、村で介抱してくれた。 それ以来……私は彼女の側にいる。聖魔である事を隠して、な……」 語り終え、イーサは再び沈黙した。そこに、怒りの気配は既にない。 ──彼が、リリィによってどれだけ救われたか、知れようというものだ。 一方のユウは今だ衝撃が治まらない様子だったが、なんとか平静を取り戻す。 イーサが語った魔族が──父を殺したあの男であるか、改めて確認したい気もしたが、 したところでどうなるわけでもない。何年かは過去の話だ。 「……なるほど、な。それでリリィと一緒にいるってわけか。よーく分かった。 でも、──自分で聞いといてなんだけど──まさか本当に話してくれるとは思わなかったぜ」 「フン……貴様が信用に足る人物か否か、ぐらいは分かる。馬鹿にするな」 にべもなく突っぱねるイーサに、ユウは複雑な表情でぼやく。 「……なんか、褒められてるんだか貶されてるんだかよく分からねー台詞だな……。 ──まあ、それはともかくとして、だ……」 思いの外、すぐに立ち直ったユウは不意に足を止めると上を見上げる。 相変わらず、背の高い木々がさわさわと囁きあいながら頭上を覆い隠していた。 一見、何も変わりないようだが── 「……そういや、なんでわざわざ俺を追ってきたんだ?」 上を見上げたままふとした疑問を投げかけるユウに、イーサはすこぶる不機嫌な口調で答える。 「決まっている。 ……貴様が運んできた『災厄』が何かを、確かめるためだ」 「『災厄』?」 イーサの口から出た思いもかけない単語に、ユウは視線を戻しておうむ返しに問い返す。 「この森に確かに崖はあるが、そう簡単に落ちるほどのものではない。 それに、昨日から森の木々が異様にざわめいていれば──何かがおかしいと思うのは当然だ」 「なるほど、それでえらく俺のこと目の敵にしていたわけね。 ……つっても、『俺が運んできた』ってまたヒドイ言われようだぜぇ」 そうは言い返しつつも強い調子に出れないのは実際の所、ユウ自身もイーサの言い分が あながち間違ってはいないと思ったからだ。
ゥオォ……ォン……
遠く、しかし二人の周りの大気まで震わせるそれはまるで大地の唸りのよう──。 しかし、それが何者かの「咆哮」であることはユウもイーサも気付いていた。 辺りの気配をうかがいながら、ユウは荷物袋を木の脇に置いて鞘から剣を抜く。 細身の刀身が主に応えるように、木漏れ日を照り返して眩く煌いた。 「しかし……いったい、お前とヤツはどういった関係だ?」 イーサの問いに、ユウは頬を引きつらせるとあさっての方を見ながら白々しく答えた。 「い、いっや〜……仕事でな。ちょちょいのちょいっと退治してやろうと思ったんだが、 ちょっくら油断して崖から突き落とされちまって……あの時はホントに死ぬかと思ったぜぇ」 苦り切った顔でぼやくユウに、イーサは心底呆れたような溜息を吐く。 「……それであのザマか。見た目に違わず迂闊な男だな、お前」 「やかましい。……けど、確かにな。 ヤツが俺の血のにおいを追って、ここまで来たことは明白だ」 ユウの口調に隠し切れない苛立ちが混じる。 イーサの言うとおり、油断せずにいればとうにけりは着いていたはずの相手だ。
ズンッ……ズズッ……
「責任は取る。それが男ってもんさね。 ……どっちにしろ、さっさとヤツを倒さないことには俺もどうにもならないしよ」 「こちらとしても、お前にこのまま尻尾を巻かれては村に危機が訪れるだけだ。 ──仕方が無い、加勢してやる」 意外な一言にユウはきょとんとイーサを見るが、この聖魔がそんな冗談を言うはずもない。 「……魔獣とやりあった経験は?」 「あるわけがなかろうが。だが……退くつもりもない」 「上等。お手並み拝見と行きますかね」 不敵に笑ってから、ユウは大地を鳴動させながら徐々に近づいてきている「それ」に向かい、 剣を構えた。 「さあ、来やがれ!!」 高らかに響き渡ったユウの声に応じるように──森の奥から「それ」は姿を現した。
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