Back


第30話「それぞれの旅立ち」


―――――魔王城ヘルズ・キッチン―――――――

「あの方……サキが姿を眩ませたようです。
 この城のどこにも姿が見あたりません。
 こちらの指示無く勝手に動くなんて、許されない事では?」
魔将軍ソフィアが魔王に報告した。
「あの女は初めから信用していないさ。
 何を企んでいるのかはしらんが、放っておけ」
「ですが……」
「では、あの女の処置はソフィア、お前に任す。好きにしろ」
「はい、ありがとうございます」
「それで、バジルとキリトからの連絡は?」
「……まだ何も」
「そうか」
「彼等が城へ戻るまで、下手に動かないほうが賢明かもしれませんね」
「あいつ等がいようといまいと、別に関係ないさ。俺だけで充分だ。
 奴等は所詮、捨て駒。俺が魔王の肉体を取り戻すまでのな。
 そして、ついに自分の、魔王の肉体を手にする事が出来たんだ。
 これで奴等には、もう用はない……はっはっは」
「私も……ですか?」
ソフィアが困惑した顔で魔王に質問した。
「ん?いいや、お前は私にとって必要な存在だ。傍にいてくれ」
「そのお言葉、嬉しく思います。ずっと御傍に居させてください」
ソフィアに笑顔が戻り、魔王に再び質問した。
「ところでガルドゥーン様、ヴェイク将軍の処遇はどうしましょうか?
 現在、意識はありませんが、いずれ目覚めるでしょう」
「ふむ……カインやシェイド達と組まれては、後々厄介になるな。
 修羅の渓谷へ幽閉しておけ」
「解りました」

―――――北クロス城―――――――

謁見の間では、この先の主力となるであろう者達が集まっていた。
全員揃ったのを確認すると、北クロス王は全員に命令した。
「いいか、これだけの勢力をもって攻めれば、魔王軍など赤子も同然だ!
 必ずや、我が国に勝利をもたらせてくれ!
 いいか、これだけは忘れるな!魔王はあくまで第一目標に過ぎん。
 本当の黒幕は、南クロス国だ!気を引き締めて行けい!」
その後、それぞれの将軍達の気合いの入った声が響いた。
「よーっし!テンション上がるわねっ!気合充分っ!」
ザリアは腕を振り回して、やる気を周りにアピールした。
「別にテンションは上がらないけどなぁ……」
「ええっ!?こんな雰囲気の中でもテンションが上がらないなんて、
 きっとレヴィンはタチの悪い病気なのね。可哀相に……。
 ……ていうか、あんたは今回、一番重要な存在なんだから、
 もっとテンション上げていけっちゅーのっ!!」
この後、レヴィンが殴られたのは言うまでもない。
「いよいよだな、ルイ兄。終わりが見えてきたんじゃねえか?
 へへっ、ここから先は楽勝だな!」
ユウがルイに嬉しそうに話しかけた。
「このまま魔王ヴェイクが何もしないまま、敗れるとは思えない。
 油断していると、こちらが危ういかもしれない」
「ルイの言う通りだ。いつ、いかなる時でも油断は禁物だ」
「はいはい、シェイドもルイ兄も心配性だなぁ。もっと気楽にいこうぜ?
 あまり心配性だとハゲちまうぜ?くくくっ……」
「その笑い方はやめろ。嫌な奴を思い出す」
ルイは苦笑しながらユウをこずいた。
「お久しぶりですね、シェイド様」
レモリア国将軍のハルカとグレイスがシェイドの傍に近づいた。
「2人とも、参戦を決めたのだな。これは心強い」
「私達だけ黙って見ている訳にはいきませんから」
「……レモリア王の命令ですけどね」
「グレイス、余計な事は言わなくていいのよ」
「ふん……」
グレイスは不機嫌な顔をしながら、奥へと去っていった。
「相変らず、仲は良くないようだな……」
「そういえば、ジェラルド様は?来ていらっしゃるんですよね?
 一度、ご挨拶しておこうと思いまして……」
「いや、私も見かけてはいないな。どこへ行かれたのだろうか……」
そこにジェラルドの姿はなかった。

―――――北クロス国付近の"とある丘"―――――――

「以前に俺が言った言葉を覚えているか?」
「え?」
「自分自身に討ち勝て。真の敵は、目の前にはいない……ですか?」
「そうだ。憎しみからは、決して何も生まれない。
 今のままでは、お前は魔王に勝つ事は出来ないだろう」
「…………」
「俺は……どうすれば?」
「ならば、俺と一緒に来るか?"彼"に会えば、何か変わるかもしれん」
「どこへですか?彼というのは?」
「修羅の渓谷へ行く」
「修羅の渓谷?それは?」
「ヴェイクが、そこに幽閉されているそうだ。
 魔将軍ソフィアから聞いた話だが、おそらく真実だろう。
 当然、罠だろうが、俺は今から奴を助けに行く」
「……魔王が肉体を取り戻したという事ですか」
「だろうな。用済みになったヴェイクを殺さずに幽閉した理由は、
 俺にそれを伝えた事と関係しているのではないかな。
 おそらくその場所で、俺を殺すつもりだろうがな」
「俺も行きます」
「解った。必ずヴェイクを救い出すぞ、カイン。彼は必要な存在だ」
「はいっ!」


魔王ガルドゥーン側、各国連合軍側、そして南クロス帝国との
歴史上に残る戦いが、まもなく始まろうとしていた。


第30話「それぞれの旅立ち」終わり