―――――魔王城ヘルズ・キッチン――――――― 「あの方……サキが姿を眩ませたようです。 この城のどこにも姿が見あたりません。 こちらの指示無く勝手に動くなんて、許されない事では?」 魔将軍ソフィアが魔王に報告した。 「あの女は初めから信用していないさ。 何を企んでいるのかはしらんが、放っておけ」 「ですが……」 「では、あの女の処置はソフィア、お前に任す。好きにしろ」 「はい、ありがとうございます」 「それで、バジルとキリトからの連絡は?」 「……まだ何も」 「そうか」 「彼等が城へ戻るまで、下手に動かないほうが賢明かもしれませんね」 「あいつ等がいようといまいと、別に関係ないさ。俺だけで充分だ。 奴等は所詮、捨て駒。俺が魔王の肉体を取り戻すまでのな。 そして、ついに自分の、魔王の肉体を手にする事が出来たんだ。 これで奴等には、もう用はない……はっはっは」 「私も……ですか?」 ソフィアが困惑した顔で魔王に質問した。 「ん?いいや、お前は私にとって必要な存在だ。傍にいてくれ」 「そのお言葉、嬉しく思います。ずっと御傍に居させてください」 ソフィアに笑顔が戻り、魔王に再び質問した。 「ところでガルドゥーン様、ヴェイク将軍の処遇はどうしましょうか? 現在、意識はありませんが、いずれ目覚めるでしょう」 「ふむ……カインやシェイド達と組まれては、後々厄介になるな。 修羅の渓谷へ幽閉しておけ」 「解りました」 ―――――北クロス城――――――― 謁見の間では、この先の主力となるであろう者達が集まっていた。 全員揃ったのを確認すると、北クロス王は全員に命令した。 「いいか、これだけの勢力をもって攻めれば、魔王軍など赤子も同然だ! 必ずや、我が国に勝利をもたらせてくれ! いいか、これだけは忘れるな!魔王はあくまで第一目標に過ぎん。 本当の黒幕は、南クロス国だ!気を引き締めて行けい!」 その後、それぞれの将軍達の気合いの入った声が響いた。 「よーっし!テンション上がるわねっ!気合充分っ!」 ザリアは腕を振り回して、やる気を周りにアピールした。 「別にテンションは上がらないけどなぁ……」 「ええっ!?こんな雰囲気の中でもテンションが上がらないなんて、 きっとレヴィンはタチの悪い病気なのね。可哀相に……。 ……ていうか、あんたは今回、一番重要な存在なんだから、 もっとテンション上げていけっちゅーのっ!!」 この後、レヴィンが殴られたのは言うまでもない。 「いよいよだな、ルイ兄。終わりが見えてきたんじゃねえか? へへっ、ここから先は楽勝だな!」 ユウがルイに嬉しそうに話しかけた。 「このまま魔王ヴェイクが何もしないまま、敗れるとは思えない。 油断していると、こちらが危ういかもしれない」 「ルイの言う通りだ。いつ、いかなる時でも油断は禁物だ」 「はいはい、シェイドもルイ兄も心配性だなぁ。もっと気楽にいこうぜ? あまり心配性だとハゲちまうぜ?くくくっ……」 「その笑い方はやめろ。嫌な奴を思い出す」 ルイは苦笑しながらユウをこずいた。 「お久しぶりですね、シェイド様」 レモリア国将軍のハルカとグレイスがシェイドの傍に近づいた。 「2人とも、参戦を決めたのだな。これは心強い」 「私達だけ黙って見ている訳にはいきませんから」 「……レモリア王の命令ですけどね」 「グレイス、余計な事は言わなくていいのよ」 「ふん……」 グレイスは不機嫌な顔をしながら、奥へと去っていった。 「相変らず、仲は良くないようだな……」 「そういえば、ジェラルド様は?来ていらっしゃるんですよね? 一度、ご挨拶しておこうと思いまして……」 「いや、私も見かけてはいないな。どこへ行かれたのだろうか……」 そこにジェラルドの姿はなかった。 ―――――北クロス国付近の"とある丘"――――――― 「以前に俺が言った言葉を覚えているか?」 「え?」 「自分自身に討ち勝て。真の敵は、目の前にはいない……ですか?」 「そうだ。憎しみからは、決して何も生まれない。 今のままでは、お前は魔王に勝つ事は出来ないだろう」 「…………」 「俺は……どうすれば?」 「ならば、俺と一緒に来るか?"彼"に会えば、何か変わるかもしれん」 「どこへですか?彼というのは?」 「修羅の渓谷へ行く」 「修羅の渓谷?それは?」 「ヴェイクが、そこに幽閉されているそうだ。 魔将軍ソフィアから聞いた話だが、おそらく真実だろう。 当然、罠だろうが、俺は今から奴を助けに行く」 「……魔王が肉体を取り戻したという事ですか」 「だろうな。用済みになったヴェイクを殺さずに幽閉した理由は、 俺にそれを伝えた事と関係しているのではないかな。 おそらくその場所で、俺を殺すつもりだろうがな」 「俺も行きます」 「解った。必ずヴェイクを救い出すぞ、カイン。彼は必要な存在だ」 「はいっ!」 魔王ガルドゥーン側、各国連合軍側、そして南クロス帝国との 歴史上に残る戦いが、まもなく始まろうとしていた。 |