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第29話「限界速度」


「貴方とこうして1対1で戦うのは、聖ヘレンズ国以来でしょうか」
「ああ、そうだな。ようやくケリをつける時が来たぜ!
 フリージアを騙し、殺したお前を俺は許さねえっ!!」
ユウが剣を抜き、キリトも彼に対抗して鞘から剣を抜いた。
辺りには、この2人以外は、誰もいない。
ルイとバジルは別の場所で、戦っている頃だろう。
此処はシェイドが待つ場所からも離れた場所の為、彼の助けが入る事はない。
勿論、彼の性格上、助けには来ないだろう。
「ふっ、カイン将軍と同じ事を言いますね。
 いいですか?彼にも言いましたが、騙される方が悪いのですよ」
「なんだとっ!!」
「カイン将軍とゼロが同一人物だと知っていれば、
 あのような事にはならなかった、……そうですよね?」
「へっ、よく言うぜ!
 フリージアがその事実を知らないってのを予め知っていたから、
 あの計画を思いついたんだろ?」
「……ふっ」
「さあ、剣を抜いてどうするつもりだ?魔獣の姿になるんじゃねえのか?
 それとも、あの時のように最初は様子見かい?
 だったら、魔獣に変化する前にお前を倒してやるぜっ!!」
ユウが剣を握りしめ、キリトに向かって駆けてゆく。
「力だけの戦いなんて、私は好みませんからね。
 あの時の戦いでは後悔しています」
「醜い化け物がお前の本当の姿だろうがっ!!てえいっ!!」
ユウの紅蓮がキリトを襲うが、キリトは軽く交した。
「ふ、まだまだですね」
「ちいっ!素早さだけは一流だなっ!!!」
「さあ、始めましょうか。哀愁のカタストロフィーを……」
そう言いながらキリトは、詠唱し始めた。
「ターム!」
「なんだ?何の魔法だ?」
「貴方に、この私の動きが見えますか?ほらっ!」
「奴が……消えたっ!?ぐあっ!!」
ユウは瞬時に後方の岩までに吹き飛ばされた。
「速度が……」
キリトの唱えた魔法は速度を何倍も増幅させる効果のあるもの。
人の目ではなかなか追う事は出来ない程、彼は速く動いている。
「ふふ、見えますか?見えないでしょう。
 私のこの速度についてこられる者等、いませんからね。
 さあ、どうします?素直に負けを認めますか?
 勿論、どう答えても此処から生きては返しませんけどね」
「へへっ、何言ってんだ……そんなの簡単な事じゃねえか!
 お前の速度を超えればいいんだろっ!」
「出来る訳がありません」
「甘くみてんじゃねえよ!そらっ、光陣突で限界まで飛ばすぜっ!」
「光の渦に飲まれたまま体当りですか?かなりの速度ですが、
 その程度では当たりはしませんよ」
キリトが軽々と交すが、その先にはユウが剣を構えて立っていた。
「バーカ!そいつは囮だっ!俺はこっちだよっ!!」
「なっ!?何故そこにっ!!」
「初めから勝負を長引かせるつもりはねえっ!キリト!
 これで終わりだっ!うおおおぉっ!月よ出ろーっ!俺的・月光翼っ!!」
凄まじい爆音とともに、月光翼に似た技がキリトに炸裂した。
カインが聖ヘレンズ城にてラーハルトを倒した、あの技である。

「ぐっ……ユウ将軍……強くなりましたね……」
「へっ、あれから何もしていなかった訳じゃねえよ。
 これで少しは俺の実力を認めたかよ?」
「ええ、ですが、まだです。このままで終わるとでも思っているのですか?」
キリトは剣を構えてユウに斬りかかろうとするが、既にその力はなかった。
ゆっくりとした動きで今にも倒れそうな様子だ。
「あばよ、キリト」
ユウのヘヴンズ・ゲートがキリトに留めをさした。
キリトの死を確認すると、ユウは剣を鞘に納め、その場を後にした。
「お前の敗因は、魔獣の姿で戦わなかったところだな。
 ……まあ、仮にそうなっても勝つのは俺だけどな。へへっ」


第29話「限界速度」終わり