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第28話「キリトの罠」


龍谷の滝へ訪れたシェイド達。
だが谷の頂上付近では、1人の少女が彼等を待っていた。
彼女の名はサナ。病気の妹フィーナを助ける為に、
この谷の頂上に生えていると言われる薬草を採りに、この谷まで来たという。
シェイド達は疑問に感じながらも、少女を頂上へと連れて行く。
そしてその場には、薬草はどこにもなかった。

「バジル……お前っ!!」
ルイが剣を抜き、そのままバジルを睨みつける。
「くくく、久しぶりだな。ルイ・スティン。会いたかったぞ。」
バジルがどこからか姿を現し、ルイ達とは距離を置いた場所に身を移した。
「あの少女は、お前が利用したというのか?
 もしそうだとすると、妹がフィーナという名というのは嘘だな?」
「ああ。そうだ。フィーナってのは、俺があいつにそう言わせたのさ。
 サナには妹なんかいないしな……くくく」
「サナの弱みを握ったのかっ!?」
「ん?そんな回りくどい事はしていないさ。ただ、こいつを利用しただけだ。
 これが何だか、説明しなくても解るだろう?」
そう言うと、バジルは1つの光輝く石をルイ達に見せた。
「くっ……それは翡翠石……。子供を洗脳したっていうのかよ!!」
ユウが悔しそうにバジルを睨みつけた。
「子供を洗脳する事など簡単な事。あっさり言う事を聞いてくれたよ。
 くくく……人を思い通りに動かす効果とは、この石は最高過ぎる代物だ。」
「……バジルっ!!」
「だがお前にしては効率の良い策を練ったな。それとも、別の誰かの差し金か?」
シェイドがバジルに問いただした。
「ふ、ご名答。おい、そろそろ出てこいよ」
「解りました」
そこに現れたのは、魔将軍のキリトだった。
彼は黒いマントを翻(ひるがえ)すと、ゆっくりとシェイド達の前に姿を現した。
「へへっ、そういえばキリト!お前は人を騙すのが得意だったな。
 これは全て、お前の案だった訳か」
「ええ、そうですよ。ご無沙汰していましたね、ユウ将軍」
「魔将軍が2人揃ってわざわざおいでなすったか。
 ……ひょっとして、俺達を待ち伏せていたのか?
 それなら、サナを洗脳して利用しなくても良かったんじゃねえのか?」
ユウがキリトに訪ね、その質問にキリトは丁寧に答えた。
「ふふ、決着をつけるのに、この場所は最適でしょう?
 もしこの場へ来る前に、翡翠石を見つけ出されて、
 そそくさと此処から帰られては、全く意味がありませんからね。
 万全を期す為に、あえてこのような回りくどい手順を取ったのですよ」
「あ、そう……心配性だな」
「もう貴方に逃げられるのが嫌なだけですよ」
「おいおい、毎回逃げていくのはそっちじゃねえかよ……」
ユウが呆れた顔で溜め息をついた。
確かにユウの言う事はもっともな事であった。
いつも何かしらの理由をつけて逃げていくのはキリトのほうだ。
「さて、準備も整った事だ。そろそろ始めようじゃないか。
 殺し合いってやつをよ……くくく」
そう言うと、バジルがルイに手招きで挑発した。
ルイは何も答えず、ただ無言でバジルの後についてゆく。
「それでは、私達も始めましょうか。
 ユウ将軍、どうぞあちらの広いスペースへ」
キリトはユウに一礼すると、指定した場所まで歩いていった。
「シェイドはサナを守っていてくれよな!
 なあに、心配は要らねえって!すぐに倒して戻ってくるぜっ!」
「心配などしていない。サナは私に任せて、早く行って戻ってこい」
「へへっ、了解っ!」
こうしてルイとバジル、そしてユウとキリトとの宿命の戦いが切って落とされた。


第28話「キリトの罠」終わり