「あー……もうっ!なんなんだ、この高さはよぉっ! 全っ然、酸素が足りねえっつーの!お前等、よく平気だなぁ……」 ユウが息苦しそうに、険しい谷道を歩きながらぼやきだした。 シェイド達は翡翠石を求めて、この龍谷の滝と呼ばれる険しい谷へと訪れていた。 この谷は、南クロス大陸の最南端に存在する。 「お前とは鍛え方が違う」 シェイドがユウの言葉を軽く交す。 「同意だ」 ルイもシェイドに続いた。 「……はいはい。化け物どもめ」 「見ろ、2人とも」 シェイドが前方を指した。 「ん?どうしたんだ?」 ルイとユウはシェイドの言われた方向に目を向けた。 そこには、1人の少女が立っていた。 「少女?……なんでこんな所に?」 「待て。魔物かもしれない」 ユウが少女に近づこうとしたが、シェイドが止めた。 「おっと、そうだな。人間の姿をした魔物なんて、珍しい事じゃなかったっけ」 ユウ達は一定の距離を保ち、おそるおそる少女に近づいた。 「こんなところで何をしているんだ?」 「…………」 少女はその質問には何も答えず、ただ黙ってユウの方を見ている。 「彼女、ユウの方ばかり見ているな。どうしてだ?」 不思議に思い、ルイがユウに質問した。 「さあな……一度も会った事なんてねえし。俺にも解らねえよ。 なあ、お嬢ちゃん。名前は何ていうんだ?」 「……サナ」 「サナちゃん?……やっぱり聞いた事ねえ名前だ。 それで、さっきも言ったけどさ、こんなところで何をしているんだ?」 しばらくしてからサナはその口を開いた。 「あのね。妹が病気になったの……それで、この谷に薬草があるから、 それを採ってくれば治るって、お医者様が言ったからここまで来たんだけど……」 「馬鹿な……この谷に少女1人で来ただと?」 「魔物達に襲われなかった?……ありえない」 シェイドとルイはサナに何か言おうとしたが、 ユウとサナとの会話にはあえて関与せず、続けてサナの言葉を待った。 「この谷に生えているって?薬草がか?」 「うん……頂上に行けば生えているって言ってた」 サナは少し怯えながらも答えた。 「……どうする?シェイド、ルイ兄。連れて行ってやるか?」 「少女を此処に置いて行く訳にもいくまい」 「……だな。それじゃあ、サナちゃん。俺達と一緒に行こうか」 「う、うん!」 しばらく谷を登っていくと、頂上らしき景色が現れた。 辺りは何もなく、薬草どころか草一本生えてはいない。ただ滝が流れているぐらいだ。 この滝に一度落ちてしまうと、まず助からない高さであろう。 「此処が頂上みたいだな。空気が薄くて嫌になるぜ……動きが鈍い」 「薬草はなさそうだな。見たところ、我々が探している翡翠石も此処には無いようだ」 シェイドが辺りの様子を見て、冷静に判断した。 「なんでないの……このままじゃフィーナが助からないっ」 「なっ!?フィーナだと?お前の妹はフィーナという名前なのか」 ルイがサナの言葉に反応した。 「う、うん。そ、そうだよ……フィーナっていうの」 「くくく……やはりその名に反応したか。ルイ・スティン」 どこからか怪しい声が響いて聞こえる。 「その声はっ……!!」 その声を聞いた瞬間、ルイの顔が今まで以上に険しい表情になった。 |