魔王城ヘルズ・キッチンでは、いよいよ魔将軍達が行動に出始めた。 今回、動いたのはルイに長年の恨みを持つバジルと、あと1人。 聖ヘレンズ城にてユウとの戦いを中断してしまったキリトである。 彼等はお互いに、それぞれの宿敵との決着をつける為、魔王城を出た。 ――――2時間前――― 「ヴェイク様、北クロス城へ攻め入る前にやり残した事があります。 しばらく私に時間をお与え下さい」 キリトがヴェイクの前に伏せ、頼み込んだ。 「解っている。奴との決着だな?」 「はい。彼とは聖ヘレンズとの戦いで宿敵だと確信しました。 どうしてもこの手で倒したい。そう思っています。 今、私が動かなくても、いずれは相まみえる事になるでしょうが、 ……どうしても、今、私のこの気持ちが高まっている間に、 彼との決着をつけたいのです。」 ヴェイクは少し何か考えるように下をうつむき、結論が出ると、キリトに答えた。 「キリト、お前の気持ちが解らんでもないが、もし万が一にでもだ、 この戦いでお前を失う訳にはいかんのだ。解るだろう? お前が倒される事はないと信じてはいるが、な」 「はい……解っています。済みません」 「だが、行ってこい。そして必ず奴を仕留めてくるんだ。出来るな?」 「ありがとうございます。ヴェイク様」 「おっと、ヴェイク様、俺にもどうしても許せない奴が1人いるんですが、 勿論、行かせてもらっても構いませんよね?」 すかさず後ろで待機していたバジルがヴェイクに頼み込む。 「ルイ・スティンか……」 「はい」 「あいつは強いぞ。お前に仕留めきれるか?」 「くくく……今度こそ、息の根を止めてみせます」 「ふっ、いいだろう。行ってこい」 「ありがとうございます。ヴェイク様」 バジルとキリトが振り返った瞬間、扉が開けられ、 ヴェイク親衛隊が瀕死状態で、ヴェイクの元へと駆け寄った。 「ヴェ……ヴェイ……」 意志を伝える前に、そのまま息を引き取ってしまった。 「この傷跡は……」 傷ついた親衛隊の体には、大きな十字架の切傷が刻まれていた。 まるで巨大な剣か斧かで斬られたかのようである。 「これは酷い……誰がこのような事を……」 ソフィアは無惨な姿になった親衛隊から顔を背けた。 「つまり、今この城へ誰か侵入しているとでもいうのかしらね?」 サキが冷静に質問した。 「解らん……この城へ攻め入る事の出来る者等、そうはいないはず。 ……まさか、カイン・ヴァンスの仕業か?」 一度はこの城へ攻められた過去があるだけに、 カインの存在はヴェイクの中で"巨大なもの"となっていた。 あの時は実力に差があったが、今はどうであろうか。 まだ自分は完全に魔王の体を手に入れていない。 ガイアの壺によって手に入れたのは、魔王の魂だけ。 媒体であるヴェイク将軍の体では、魔王の力を完全には発揮出来ない。 それだけが、今のヴェイクにとっての不安な要素でもあったのだ。 「貴様の親衛隊とやらも頼りにならんな。弱いにも程がある……」 突然、黒髪の男が扉の前に姿を見せた。 彼はゆっくりと、ヴェイク達の元へと歩み寄った。 「クレハか……」 ヴェイクは不敵な笑みを浮べながら、その名を呟いた。 |