「陛下!ご報告致します!」 大きな扉の音を立て、北クロス国の上級兵士が謁見の間に駆け寄った。 兵士は息を切らしながらも、王の傍へと近づく。 「どうした?騒々しい」 北クロス王は冷静に兵士の言葉を待った。 「サキに関しての情報が判明しました!」 「……なんだって?サキ?魔将軍サキの事ですか!?」 北クロス国将軍であるパールがサキという言葉に反応した。 「ふむ。話してみろ」 「はい、これは裏稼業の情報屋から入手した事なのですが。実は……」 上級兵士は王にありのままの事実を伝え、謁見の間からそそくさと出て行った。 「俺達は、どうやらあの女に騙されていたようだな」 北クロス王の話を聞き、北クロス国将軍であるシンは、独り言のように呟いた。 この兵士の話によると、サキの本当の狙いは"南クロス国による制圧"であった。 狙いを権力の強いバルテス側、魔王ヴェイク側、他の帝国側に定め、 まずは自国の南クロス国を裏切ったように見せかけた。 制圧には翡翠石のもつ"洗脳による効力"が必要であるとし、 手始めにバルテス側の元につき、翡翠石の在処を独自に探していった。 聖ヘレンズを含め、各帝国の驚異的な強さを知ったサキは、 バルテスに魔王側との協定を持ちかけるものの、バルテスには却下された為、 バルテスとの関係が悪化したサキは、魔王側へと身を置いた。 サキが魔将軍に志望した時の魔王ヴェイクとの会話で、 バルテスがサキの裏で動いていると言っていたのは、全てサキの虚言であった訳だ。 そして今回の件、バルテスがカイン達に討たれた事で、 サキの目標は、魔王ヴェイク側と他の帝国側だけとなったのである。 現在、聖ヘレンズ国は魔王側との戦いで、ほぼ壊滅状態にあるので、 実質上、驚異となるのはレモリア帝国と北クロス帝国のみ。 サキの計画は順調に進んでいった。 「翡翠石は、こちらにもある。全てが揃わなければ意味がない!」 シンが声を荒げて机をドンと叩いた。 「だけど、1つだけでも洗脳の効果はあるんでしょう?」 「う……うむ……」 しばらくの間、沈黙が続いた。 そして北クロス王が口を開く。 「もしやあの女は、神聖剣ガイアを欲しておるのかもしれんな……」 誰しもその考えには及んでいなかった為、全員、王の言葉に心底驚いた。 神聖剣を持つ者は、全ての権力を手に入れたも同然の扱いとなる。 そうなると、帝国側や魔王側を支配する事も、何ら不可能な事ではない。 「神聖剣ガイアの復活か……なるほど。翡翠石を集める理由には充分だ」 それまで黙って聞いていたシェイドが口を開いた。 「翡翠石だけは、絶対に奴の手に渡してはならん。 聖剣と翡翠石が全て揃わなければ、神聖剣が復活する事もない」 「北クロス王、我々はどうすれば?」 シェイドが椅子から立ち上がり、北クロス王に質問した。 「貴公達は、残りの翡翠石を集めてもらうとしよう」 「在処は判明しているのでしょうか?」 「うむ。場所は南クロス大陸にある"龍谷の滝"だ」 「解りました。では、すぐに向かうとしましょう」 「ああ、頼んだぞ」 お辞儀をした後、シェイドとユウ、ルイ達はその場を離れようとしたが、 ふとシェイドが思い立って振り返り、北クロス王に訪ねた。 「……ところで、彼の件はどうなっていますか?」 「リュナン様の子孫か?今頃、無の精霊と会っている頃だろう」 「そうですか。間に合えばいいのですが」 「彼は魔王を再び封印する為に必要な"永遠の鍵"となるべき存在だ。 間に合ってもらわねば困るよ」 「永遠の鍵……か」 |