洞穴の奥は、広い空洞となっており、ところどころに幾つもの穴が空いていた。 「何者じゃ。ここがどこだか解って入ってきおったのか? もしそうでないなら、すぐに立ち去るがいい。 ここに居ても、何も良い事なんぞありゃあせんからな。 さあさあ、すぐに帰った帰った。ほら、何をモタモタしておるんじゃ。 ……ワシの言った事が解らなかったのか?ん?」 灰色のフードをかぶった痩せこけた老人が、レヴィン達の前に立っている。 「あんた、誰?」 レヴィンが老人に質問した。 「お前達こそ誰なんじゃ?ここが精霊術士の里だと知って、入って来たのか?」 レヴィンとザリアはお互いに顔を合わせ、確信したかのように頷いてみせた。 「思ったとおり、やっぱりここが精霊術士の里ね。どうレヴィン、私の言った通りでしょ? ふふ、乙女の勘の効力を甘くみないでよね!」 「だから乙女じゃなくて、おと……」 レヴィンは、その先の言葉を言うのを慌てて止めた。 「ふむ。その口調じゃと、ここが精霊術士の里だと解っていて訪れたようじゃな。 何か用でも?……まさか、お前達も精霊術士という訳ではあるまい」 「私は違うけど、彼は精霊を呼ぶ事ができるわ。精霊術士かどうかは解んないけどね」 「精霊を喚ぶ事が出来るじゃと?小僧がか?」 「しかも全員ね」 「なんとっ!出まかせを言うでないっ!四精霊を全員召喚出来るじゃと!?」 老人は驚いて、少しばかりその場から後ずさった。 「喚べるんだよね?レヴィン」 ザリアがレヴィンに確認する。 「ああ、喚べるよ。なんなら、此処で召喚しようか? あ、でもここは精霊には狭いだろうから、上手く召喚出来るかどうかは解らないな」 「ね、言った通りでしょ?」 ザリアが勝ち誇ったかのように、老人に答えた。 「馬鹿な……その話が本当だとすると、小僧はとんでもない素質を持っておるな。 ……しかし何故こんな小僧が……ううむ」 老人は今だに信じられないといった表情で、レヴィンの顔をまじまじと見た。 「ところで、ここは精霊術士の里なんでしょ? 里っていうぐらいだから、勿論、他にも精霊術士っているのよね?」 「いいや、ここにはワシ1人しかおらんよ」 「ええっ!?嘘でしょ!?」 「嘘なもんか。他の精霊術士達は、みんな此処から逃げるように出ていってしまった。 精霊術士という存在は恐れられ、嫌われた存在じゃからな。 今頃は皆、精霊術士という身分を隠して、おそらく他の大陸へ移り住んでいるじゃろう」 「あんたは、ここから出ていかなかったの?」 「老先短い人生、今更出ていっても、あまり意味はない。 それにどうせなら、この里で一生を終えたいと思ってな。ここに残ったのじゃよ」 「ふーん……」 「ところで……話を元に戻すが……」 「え?」 「何をしにここへ来た?何か目的があって来たのではないのか?」 「んー……特に目的はないんだけどね……ここに行けって言われたから来ただけで」 その質問には、レヴィンが答えた。 「誰にじゃ?」 「ティナっていう人に」 「ティナ?女性かな?」 「うん、そうよ!知ってるのね?」 「いや、知らん」 「知らんのかいっ!!」 ――――バコッ!!―――― 「ごはっ……な、何をするんじゃっ!!」 「あ、ごめんなさい、つい手が……ははっ」 「全く……凶暴な女じゃな……油断も隙もない」 「……妙なリアクションをとるほうが悪いのよね、レヴィン」 ザリアは老人には聞こえないように、レヴィンに小さな声で愚痴った。 レヴィンはただ、苦笑いをするしかなかった。 「ザリアは相手が誰であろうと殴ってしまうんだな。 そのうち、王様や将軍さえも殴ってしまうんじゃないだろうか……」と、 心の中でレヴィンはそう思った。 気を取り直して、老人は傍にあった木製の椅子に腰を掛けた。 「ふうむ……そのティナという人の事は知らんが、なんとなくその人の考えは解る。 おそらく、"無の精霊"の事じゃろうな……」 「無の精霊?」 レヴィンとザリアは興味津々な眼差しで老人の方を見た。 |