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第19話「精霊術士の里」


レモリア大陸は古き時代より、精霊術士の住む村が多く存在していた。
だが他の大陸では、"精霊術は悪魔の呪術である"として恐れ、
精霊術士達を化け物のような存在として認識していた。
時が流れ、レモリア大陸に他大陸の人々が移住するようになると、
精霊術士達は彼等から隠れるように、ひっそりと人里離れた場所で暮らすようになった。
今では精霊術士の数も減り、彼等をあまり見かける事もなくなった。
彼等の住む村、それが"精霊術士の里"と呼ばれる場所である。

「……って、聞いてるの?レヴィン!」
ザリアは横で眠りかけているレヴィンの耳を引っ張った。
「いてててて!な、なにするんだよっ!」
「ちゃんと聞いてるのかって、言ってるのよ!」
「……あ、あぁ、ちゃんと聞いてるって」
「あら、そう?じゃあ今、私が言った事を言ってみて」
「精霊術士に会うために、その精霊術士の里って所へ行けばいいんだろう?
 このレモリア大陸のどこかにあるんだよな?」
「半分正解。精霊術士の里のある場所は、もう解ってるじゃない。
 西のウォルハン街道を進んだ先にある森の奥地よ。
 ティナさんが言ってたでしょ?もう忘れたの?馬鹿ね」
「最後の馬鹿は余計だって……」
「さあ、無事にジルドゥクの森も抜けた事だし、どんどん行くわよっ!
 今日か明日には精霊術士の里へ着きたいわね」
「え?今日か明日!?いやいや、ちょっとは休まないとっ!
 さっきまで魔物達と戦っていたところじゃないか!」
「大丈夫!全然疲れていないから!」
「いや、俺が疲れてるんだって……」
「さあ、レヴィン!頑張って、今日中に行きましょ!」
「……はいはい、無視ですか」
「精霊術士、会うのが楽しみね!」
「……はぁ」
レヴィンは、"やれやれ"といった感じで溜め息をつきながら、
仕方なさそうにトボトボとザリアの後ろを歩き始めた。
常にテンションの高いザリアと、ザリアとは正反対で、やる気のないレヴィン。
お互いに性格も全く違うが、何故かいつも上手く物事を運んでいる。
"息はぴったり"とはいかないが、相性自体は良いのかもしれない。

それから3日後、ウォルハン街道を抜けた先の、とある森に彼等は到着した。
その森を魔物達と戦いながら突き進み、精霊術士の里へと着いたのは、
それからさらに3日後の事であった。
「やっと着いたわね。精霊術士の里」
ザリアは何か閃いたかのような表情で言った。
「どうして此処が精霊術士の里だって解るんだ?
 確かにここから奥は広いけど、村みたいに家なんかどこにも建っていないし、
 辺りは木ばかりのように思えるけど……。
 普通、人が住んでいるなら看板みたいなものぐらい、あってもいいのでは?
 ……そうでなきゃ、迷ってしまわないか?」
「え?そりゃあ……乙女の勘ね」
「"乙女"?……"男"の間違いじゃなくて?」

―――――バコッ―――――

ザリアにきつい一撃をくらわされたレヴィンは、その場でうずくまっている。
つい余計な事をしゃべってしまう癖が、レヴィンの悪いところである。
「魔物と間違えたふりして後ろから剣で突き刺すわよ」
「……魔族のする事より酷いな。それ」
本当に刺されそうだなと、レヴィンは思った。
「あ、レヴィン!あそこ見て!小さいけど、洞穴がある!」
「洞穴?」
「そう、洞穴!ほら、あそこっ!あの大きな木の近くよ」
ザリアが指した方向には大きな木があり、その木の正面には確かに
普通の体格の人が通れるぐらいの小さな穴が空いていた。
「本当だ。あそこが精霊術士の里へ続く道なのかな?」
「さあ……。でも他に先へ行けそうな道もないし、洞穴に入るしかないわ!
 ドキドキするわね、精霊術士に会えるなんて!」


第19話「精霊術士の里」終わり