レモリア大陸は古き時代より、精霊術士の住む村が多く存在していた。 だが他の大陸では、"精霊術は悪魔の呪術である"として恐れ、 精霊術士達を化け物のような存在として認識していた。 時が流れ、レモリア大陸に他大陸の人々が移住するようになると、 精霊術士達は彼等から隠れるように、ひっそりと人里離れた場所で暮らすようになった。 今では精霊術士の数も減り、彼等をあまり見かける事もなくなった。 彼等の住む村、それが"精霊術士の里"と呼ばれる場所である。 「……って、聞いてるの?レヴィン!」 ザリアは横で眠りかけているレヴィンの耳を引っ張った。 「いてててて!な、なにするんだよっ!」 「ちゃんと聞いてるのかって、言ってるのよ!」 「……あ、あぁ、ちゃんと聞いてるって」 「あら、そう?じゃあ今、私が言った事を言ってみて」 「精霊術士に会うために、その精霊術士の里って所へ行けばいいんだろう? このレモリア大陸のどこかにあるんだよな?」 「半分正解。精霊術士の里のある場所は、もう解ってるじゃない。 西のウォルハン街道を進んだ先にある森の奥地よ。 ティナさんが言ってたでしょ?もう忘れたの?馬鹿ね」 「最後の馬鹿は余計だって……」 「さあ、無事にジルドゥクの森も抜けた事だし、どんどん行くわよっ! 今日か明日には精霊術士の里へ着きたいわね」 「え?今日か明日!?いやいや、ちょっとは休まないとっ! さっきまで魔物達と戦っていたところじゃないか!」 「大丈夫!全然疲れていないから!」 「いや、俺が疲れてるんだって……」 「さあ、レヴィン!頑張って、今日中に行きましょ!」 「……はいはい、無視ですか」 「精霊術士、会うのが楽しみね!」 「……はぁ」 レヴィンは、"やれやれ"といった感じで溜め息をつきながら、 仕方なさそうにトボトボとザリアの後ろを歩き始めた。 常にテンションの高いザリアと、ザリアとは正反対で、やる気のないレヴィン。 お互いに性格も全く違うが、何故かいつも上手く物事を運んでいる。 "息はぴったり"とはいかないが、相性自体は良いのかもしれない。 それから3日後、ウォルハン街道を抜けた先の、とある森に彼等は到着した。 その森を魔物達と戦いながら突き進み、精霊術士の里へと着いたのは、 それからさらに3日後の事であった。 「やっと着いたわね。精霊術士の里」 ザリアは何か閃いたかのような表情で言った。 「どうして此処が精霊術士の里だって解るんだ? 確かにここから奥は広いけど、村みたいに家なんかどこにも建っていないし、 辺りは木ばかりのように思えるけど……。 普通、人が住んでいるなら看板みたいなものぐらい、あってもいいのでは? ……そうでなきゃ、迷ってしまわないか?」 「え?そりゃあ……乙女の勘ね」 「"乙女"?……"男"の間違いじゃなくて?」 ―――――バコッ――――― ザリアにきつい一撃をくらわされたレヴィンは、その場でうずくまっている。 つい余計な事をしゃべってしまう癖が、レヴィンの悪いところである。 「魔物と間違えたふりして後ろから剣で突き刺すわよ」 「……魔族のする事より酷いな。それ」 本当に刺されそうだなと、レヴィンは思った。 「あ、レヴィン!あそこ見て!小さいけど、洞穴がある!」 「洞穴?」 「そう、洞穴!ほら、あそこっ!あの大きな木の近くよ」 ザリアが指した方向には大きな木があり、その木の正面には確かに 普通の体格の人が通れるぐらいの小さな穴が空いていた。 「本当だ。あそこが精霊術士の里へ続く道なのかな?」 「さあ……。でも他に先へ行けそうな道もないし、洞穴に入るしかないわ! ドキドキするわね、精霊術士に会えるなんて!」 |