―魔王城ヘルズ・キッチン― 「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」 「おいおい、どうしたソフィア?貴様がそんな焦りをみせるとは……。 なかなか色っぽい表情じゃないか……くくく」 「…………」 「おいおい、そう睨むなって。これでも褒めているんだぞ?」 「ヴェイク様、ご報告いたします」 バジルの冷かしには構わず、息を切らしながら魔王の傍へと歩み寄った。 「話してみろ、ソフィア」 「実は……」 ソフィアは真剣な表情で、事細かくヴェイクに状況を説明した。 「……っ!!なんだと!?」 「事実です」 辺りが静まりかえる。 バジルとキリト、サキの3人は、ヴェイクの言葉を待った。 ヴェイクはサキの方を向き、その口を開いた。 「サキ、お前にとっては悪い知らせだ」 「……なにかしら?」 「バルテスが討たれたそうだ」 「…………」 サキは無言で下をうつむいている。 「なっ!あの狂人がっ!?馬鹿なっ……」 バジルが信じられないといった顔でキリトのほうを見た。 「我々でも驚異的な存在であった彼が討たれるとは……いったい、誰が彼を?」 キリトは恐る恐るヴェイクに訪ねた。 魔王軍側にとって、バルテスの敗北は予想外の出来事である。 それほど、彼等はバルテスの力を驚異とし、恐れていた。 その"驚異"を超える存在が現れたという事実は、彼等に不安と焦りをもたらした。 「"オリオンの翼"と呼ばれるハンターチーム、だそうだ。この名に聞き覚えはあるか?」 「オリオンの翼……!?まさか……カイン……?」 キリトがバジルの方を向き、同意を求める。 「ああ、間違いないな。あの野郎の仕業かっ……」 「ほう……カインだと?奴はハンターに転身したのか?」 「ええ、そのようです」 「それは興味深い」 ヴェイクは含み笑いをしながら、傍に置いてあった赤ワインを口にした。 「バルテス様をも超える実力をつけたというの?あの坊やが」 サキがキリトに質問した。 「……認めたくはありませんけどね」 「ところでサキ。バルテスが死んだ今、お前の目的もなくなったのではないか? もはや、この城に留まる意味はないだろう?」 ヴェイクがサキに問いただした。 「…………」 「魔将軍を抜け、この城を出て行くか?」 「……ふふ、まさか」 「なに?」 「勿論、魔将軍の地位から降りるつもりなんてないわ」 「では、このままこの城に残り、我々と行動を共にする。 つまり、改めて我々の仲間になるとでも?」 「そうとってもらって構わないわよ」 「……解った」 「宜しくね、皆さん」 「ちっ……気に入らないな」 バジルは不機嫌な顔をして、サキのほうから目を背けた。 「意外なところでバルテスが死んだわね……。 ふふふ、少し予定が狂ったけど、結果的には何も問題ないわ」 サキが独り言のように呟いた。 |