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第13話「彼は精霊術士」


「つああぁぁぁっ!!」
レヴィンの剣が魔物の喉元に突き刺さった。
「さて、次の相手は誰だい?ん?もういないか、ははっ。
 ザリアー、そっちは大変そうだなぁ」
辺りを見回し、戦う相手がいないのを確認した。
「ちょっとレヴィン!何呑気な事言ってんのよ!
 こっちは、まだ片づいてないんだからね!」
ザリアを囲んでいるのは5匹。"キラー・ドール"という魔物だ。
キラー・ドールは鷹の顔をした大蛇で、凶暴な爪を持っている。
「もうっ!しつこいわねっ!たぁっ!!」
ザリアの拳がキラー・ドール1匹にヒットした。
だがその隙に残りの魔物達が彼女に襲いかかった。
「あんた達なんかに負けるかっちゅーの!たぁっ!」
次々とザリアの拳が魔物達をなぎ倒していく。
とうとう残りはキラー・ドール1匹だけとなった。
「はぁっ……はぁっ……流石にこれだけの数を相手にすると息がもたないわね。
 ちょっと整えなきゃ……」
「ザリア、魔術士だよな……さっきから全然魔法使ってないじゃん。
 やっぱり格闘家に転身したほうが良いんじゃ……」
「何か言った?」
「いいえ」
「それよりほら!後1匹残っているわ!
 全く……早くこの薄気味悪い森を抜け出したいのにっ!」

残り1匹のキラー・ドールは体を丸めると空へ飛び上がり、
ザリアめがけて突進してきた。
「レヴィン、交代。あいつはあんたに任せたわ」
「えー……面倒」
「じゃ、頼んだわよ」
そう言いながら、強引にレヴィンの背中を"ドンッ"と押し、
キラー・ドールの方へ突き飛ばした。
「……んー、しょうがない。彼に頼むか」
レヴィンは両手を上に掲げ、何やら怪しい言葉を発し始めた。
「汝が司りし破壊の衝動を解放し、その全てを我に委ねよ!
 爆炎を纏い出でよ、イフリート!!」

それは一瞬の出来事だった。

炎に包まれた巨大な化け物が、次元の狭間より姿を現わし、
レヴィンに襲いかかったキラー・ドールを炎で包み込み、死に至らしめた。
横ではザリアが唖然とした表情でレヴィンとその化け物を見ていた。
「サンキュ、イフリート!助かったよ」
「……あのような雑魚相手に我を喚ぶな」
「悪い悪い。今度から気をつける」
炎に包まれた化け物は、瞬く間に姿を消した。
「あの……レヴィン?」
「ん?どうした?」
「どうした?……じゃないわよ!なんなのよアレ!
 私、夢でも見ているんじゃないかと錯覚したじゃない!!」
ザリアはレヴィンの服を"わし掴み"にし、化け物の正体を問い詰めた。
レヴィンが召喚したのは炎の精霊イフリート。
ガイア世界に存在する四大精霊の内の一人である。
精霊は精霊術士でないと、喚ぶ事は出来ないと言われている。
「ああ、あれか。イフリートだよ。炎の精霊の」
「そんなの見れば解かる!私が聞いてんのは、そんな事じゃないわ。
 どうしてレヴィンが精霊を喚ぶ事が出来るのかって、そう聞いてんの!
 大体、今まで一度だって喚んだ事なかったじゃない!
 それに精霊術士でもないのに、どうして喚べるのよ!
 さぁ、納得のいく答えを聞かせて頂戴!さぁ!さぁ!!」
「お、落ち着けって……」
「落ち着いてられるかっちゅーのっ!!」
かなり興奮しながら、レヴィンの服を更に引っ張った。
「精霊は子供の頃から喚べたんだよ。何故かは俺にも解からない。
 ある日、突然喚べたんだからさ」
「突然喚べるようになったって?嘘でしょ?」
「嘘じゃないさ。突然頭の中に、ある言葉が浮かんできて、
 それを試しに口にしたら、精霊達が色々とね」
「色々って……?まさか……イフリートの他にも喚べるの?」
「ああ、一応全員喚べる。勿論、同時には喚べないけどね」
「……信じられない。精霊を全員喚べて、しかも会話まで出来るなんて。
 今までそんなの聞いた事もないわよ」
「出来るものは仕方ないじゃないか」
「ねぇ、レヴィンのおじさんとおばさんは、その事を知ってるの?」
「知らないと思う」
「はは……知ったら気絶するかもね」


第13話「彼は精霊術士」終わり