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第12話「最強の男バルテス・アルード」


"血の聖戦"と呼ばれる戦いより少し前。
カイン・ヴァンスが魔獣ケルベロス討伐後、将軍になったばかりの頃。

―――聖ヘレンズ城下町・酒場―――

「おらおらっ!!酒だおらぁっ!!
 酒が全然足りねぇぞおらぁっ!!おらぁっ!!」
「お客様!あ、あまり大声をだ、出さないでください!
 ほ……他の方に迷惑です!!」
数分して酒場の店主が恐る恐る制止しようと試みるが、
怒鳴り散らしているこの男は、一向に静かになる様子もなかった。
「おらぁっ!!ワシはバルテス・アルード様だっ!!
 いいかお前ら愚民共!!今から言う事を良ぉーく聞けよ!!」
"狂人"として大陸中で恐れられているバルテスは、大きく息を吸い込み、
しゃがれた声で叫んだ。
「この世はな!!グルグル、グルグル回ってんだよっ!!
 なぁーっはっはっはー!!どうだぁ!!参ったかこの"ぷにょん野郎"!!」
言い終わった後、何者かがバルテスにむかって水をぶっかけた。
「つ、冷たっ!!て……てめぇっ!!なにしやがる!このファンキーボーイがっ!!
 こりゃあ、なかなか服が乾かねぇぞおらぁっ!!」
「酔い覚ましになっただろう?」
「てめぇ……何者だ!!」
「聖ヘレンズ帝国将軍"カイン・ヴァンス"だ」
「ほお……カイン・ヴァンスか。この代償は高くつくぜ。
 残念だが、てめぇはもう生きて此処を出られんっ!!  こいつはワシを怒らせた罰だっ!!」
バルテスが腰に下げていた刀を抜き、一瞬でカインに詰め寄った。
「なっ!!早いっ!!」
刀は、カインの胸の辺りを鋭く切り裂いた。
「強い……!この切れ味、この者の実力は……。
 もしこの鎧を着ていなければ、危なかった……」
「ほぉっ……致命傷は避けたか。なかなか良い腕をしている。ふふん。
 だが、次は外さんっ!!きええぇぇぇぇっ!!」
「くっ……まだだっ!!光の前に消え失せろっ!!
 これが奥義、光の翼だあぁぁっっ!!」

―――キィィィィン―――

その瞬間、1本の剣が2人の間の地面に突き刺さった。
「喧嘩は外でするといい。此処は酒場だ」
「シェイド!!」
この2人の争いを止めに入ったのは、
意外にも聖ヘレンズ帝国将軍シェイド・ハーベルトだった。
「バルテスとやら、私が相手になろうか?」
「シェイド・ハーベルト……聖ヘレンズ帝国最強と名高い男か。
 ふん、冷めちまったぜ……おい小僧!勝負はひとまず預けとく。
 死にたくなったら、いつでもワシんとこに来な!すぐに楽にしてやるぜ!
 この世はな!グルグル、グルグル回ってんだからよぉっ!!」
そう言うとバルテスは"ドカッ"と酒場の扉を蹴り、外に消えた。

「シェイド、俺はあいつに勝てるか?」
「今はまだ勝てんな。奴は本気を出していない」
「……そうか」
カインは自分の拳を"ぎゅっ"と握りしめた。
シェイドは立ち去り際に、独り言のような小さな声でそっと呟いた。
「"今は"な……」

そして現在、クロス大陸の"とある場所"。
カインとシェイド、バルテスとの因縁の出会いは間もなく訪れる。


第12話「最強の男バルテス・アルード」終わり