"血の聖戦"と呼ばれる戦いより少し前。 カイン・ヴァンスが魔獣ケルベロス討伐後、将軍になったばかりの頃。 ―――聖ヘレンズ城下町・酒場――― 「おらおらっ!!酒だおらぁっ!! 酒が全然足りねぇぞおらぁっ!!おらぁっ!!」 「お客様!あ、あまり大声をだ、出さないでください! ほ……他の方に迷惑です!!」 数分して酒場の店主が恐る恐る制止しようと試みるが、 怒鳴り散らしているこの男は、一向に静かになる様子もなかった。 「おらぁっ!!ワシはバルテス・アルード様だっ!! いいかお前ら愚民共!!今から言う事を良ぉーく聞けよ!!」 "狂人"として大陸中で恐れられているバルテスは、大きく息を吸い込み、 しゃがれた声で叫んだ。 「この世はな!!グルグル、グルグル回ってんだよっ!! なぁーっはっはっはー!!どうだぁ!!参ったかこの"ぷにょん野郎"!!」 言い終わった後、何者かがバルテスにむかって水をぶっかけた。 「つ、冷たっ!!て……てめぇっ!!なにしやがる!このファンキーボーイがっ!! こりゃあ、なかなか服が乾かねぇぞおらぁっ!!」 「酔い覚ましになっただろう?」 「てめぇ……何者だ!!」 「聖ヘレンズ帝国将軍"カイン・ヴァンス"だ」 「ほお……カイン・ヴァンスか。この代償は高くつくぜ。 残念だが、てめぇはもう生きて此処を出られんっ!! こいつはワシを怒らせた罰だっ!!」 バルテスが腰に下げていた刀を抜き、一瞬でカインに詰め寄った。 「なっ!!早いっ!!」 刀は、カインの胸の辺りを鋭く切り裂いた。 「強い……!この切れ味、この者の実力は……。 もしこの鎧を着ていなければ、危なかった……」 「ほぉっ……致命傷は避けたか。なかなか良い腕をしている。ふふん。 だが、次は外さんっ!!きええぇぇぇぇっ!!」 「くっ……まだだっ!!光の前に消え失せろっ!! これが奥義、光の翼だあぁぁっっ!!」 ―――キィィィィン――― その瞬間、1本の剣が2人の間の地面に突き刺さった。 「喧嘩は外でするといい。此処は酒場だ」 「シェイド!!」 この2人の争いを止めに入ったのは、 意外にも聖ヘレンズ帝国将軍シェイド・ハーベルトだった。 「バルテスとやら、私が相手になろうか?」 「シェイド・ハーベルト……聖ヘレンズ帝国最強と名高い男か。 ふん、冷めちまったぜ……おい小僧!勝負はひとまず預けとく。 死にたくなったら、いつでもワシんとこに来な!すぐに楽にしてやるぜ! この世はな!グルグル、グルグル回ってんだからよぉっ!!」 そう言うとバルテスは"ドカッ"と酒場の扉を蹴り、外に消えた。 「シェイド、俺はあいつに勝てるか?」 「今はまだ勝てんな。奴は本気を出していない」 「……そうか」 カインは自分の拳を"ぎゅっ"と握りしめた。 シェイドは立ち去り際に、独り言のような小さな声でそっと呟いた。 「"今は"な……」 そして現在、クロス大陸の"とある場所"。 カインとシェイド、バルテスとの因縁の出会いは間もなく訪れる。 |