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第10話「黒ずくめの男」


「……って訳で、シェイド王と将軍様達は、クロス大陸に向かったからな」
バンダナを巻いている金髪の青年バンガードは、レヴィンにそう伝えた。
「いや……向かったからなって突然言われてもなぁ。俺達と、一体どう関係が?」
レヴィンは困惑した表情で返事をした。
バンガードに続いて、彼の隣にいた女性、ティナが口を開いた。
「シェイド王からの伝言です。
 それが何を意味するのかは解かりませんけど……」
「どっちみちクロス大陸に行く予定だったし、まぁ結果的には良いんだけどね。
 でも、どうしてシェイド様が私達の事を知っているのかな……。
 ねぇ、レヴィン。貴方は不思議に思わない?」
ザリアはレヴィンに同意を求めた。
「うーん……。別に、どうでもいいかも」
「レヴィンって、ほんと物事に対して全く関心がないわね」
「いいじゃんか……別に」
「まぁ、良いわ。どうせジェラルドさんの仕業だって事は解ってるけどね。
 あの人の事だもの。何か企んでいるに違いないわ、うん」
ザリアは一人だけ納得したかのように、うんうんと頷いた。
「とにかく、俺達の用件はそれだけだ。頑張ってクロス大陸まで行ってくれよな」
シオン、ティナ、バンガードの3人はそう言い残し、レヴィン達の元を離れた。
「シェイド王の元へ行け……か。厄介事に巻き込まれなきゃいいけど」
「大丈夫よ!ジェラルドさんの考えに間違いはないわ。
 さぁ、そうと解かったらすぐに此処を離れましょう。この森に用はないからね」
「了解」

―――――南クロス城―――――

王室では、一人の美しい女性がウロウロと行ったり来たりを繰り返していた。
この女性の名は"ジェシカ・G・マンダム"という。
国王の娘であり地位的には"姫"でもあるが、本人からの強い希望で、
現在は魔法師団"ジョゼーヌ"の統率者(リーダー)を努めている。
「遅い……遅いわ……!全くもってフリーダム・ゴッデス!!
 イライラパワー全快120%限界突破記念おめでとう、よ!!」
狂人バルテス同等の意味不明な言動だが、彼女は別に呪われている訳ではない。
これが彼女の"素"である。
だが魔法の分野に関しては、名実共に帝国一を誇っている。
彼女には弟がいて、名を"トレビアン"というが、彼の口調はこの姉が原因らしい。
幼き頃より姉の真似事をしているうちに、
あのような女口調、そして意味不明な言動が身に付いてしまった。
まぁ、つまり俗に言う"オカマ"と呼ばれる存在になった訳である。
その彼も、聖ヘレンズ城での戦いの場でその命を落とした。
ここでの彼の説明はこれぐらいでいいとして、姉の話に戻ろう。
ジョゼーヌは、"ある男"を待っていた。
約束の時間に来なかった為、少しイライラしている訳である。
「あーもう!遅っそいわね!34秒遅刻よぉっ!!ほら見て、35秒過ぎた!!
 36、37、38……むきーっ!!ビューティフル・ロマンス!ミラクル!」
だだっ広い王室で、なにやら一人叫んでいる。

それから約5分後、"男"は現れた。
男は黒いマントを羽織り、また黒いシルクハットのような帽子をかぶっていた。
そう、全身黒ずくめである。
「くくく……相変わらずの奇声っぷりだな」
男は冷やかな眼差しで笑いながら帽子を傍の机に置き、近くの椅子に腰掛けた。
ジョゼーヌも反対側の椅子に腰を掛ける。
「あら、遅かったじゃないの。待っていたわよ、"魔獣使い"さん」


第10話「黒ずくめの男」終わり