バルテス・アルード。妖刀・死紅を手にし、狂人と呼ばれた男。 彼の髪の色は白く染まり、その形相は誰の目から見ても鬼のようだった。 その"狂人"は、クロス大陸の果てにある鍾乳洞の奥地を住処としていた。 バルテスは酒を飲みながら、仲間達と共に意気揚々と笑っていた。 傍らには約20人ほどの部下が付き添っている。 「バ、バルテス様!」 部下の1人が現れ、慌てた様子で息を切らしながらバルテスに声をかけた。 その部下は胸のあたりに深い斬り傷を負い、流血していた。 バルテスは酒瓶を手に持ったまま、不機嫌そうに睨みつけた。 「んー……邪魔だ。急用か、マイ・ブラザー?あ?」 「は、はい!せ……聖ヘレンズ帝国の奴らが近くの森に……!!」 「ヘイ、ボーイ!まぁ、落ち着きなって。 聖ヘレンズ帝国の奴らが攻めてきたって?ヒュウ!! ……別にたいして驚く程の事じゃないだろ?よくある事だ。 ワシ等に刃向う奴は、いつものように軽くぶっ殺しちまえばいいのさ。 この世界はグルグル、グルグル回ってんのさ」 「それが、今回は……シェイド=ハーベルト王自らでして……。 連れていた仲間達も、全滅は間近です!!」 「マイガッ!!なんだとッ!?自らだと!?馬鹿な!!」 ―――――ガシァァン――――― バルテスは酒瓶を地面に叩きつけた。 「王自ら攻めてくる奴がこの世のどこにいる!正気の沙汰か!!」 「事実です!バルテス様!どうかご出陣を!!」 「なるほど、つまり久々に死紅の出番ってわけだ。 血に紅く染まった刀の色ってのは、さぞかし美しいんだろうなぁ……へへへ。 おおぉぉぉぉぉぉっ!!段々テンションが上がってきやがったぜ、 この"ぷにょん野郎(※軟弱な者の意)"!!」 バルテスの言動は、理解不明な点が多い。 当然、呪いによる副作用的なものだが思考回路に強く影響を及ぼし、 混乱したような感覚、いわゆる"ラリった"状態となる。 「いいかお前ら、これだけは覚えておけよ。 この世界はな!!グルグル、グルグル回ってんのさ!!」 ―――――時を同じくして、クロス大陸"陽炎(かげろう)の森"――――― 「月光っ!!落ちろおおおぉぉっ!!」 夜空に薄気味悪い不気味な月が出現した。 「……のわっ!!失敗か!!」 聖ヘレンズ帝国将軍ユウ・スティンがガクリと肩を落とした。 「遊んでいる場合ではない。ユウ、私の援護に回れ」 「真面目だっつーの!!」 聖ヘレンズの王シェイドは5人を相手に剣を振るっていた。彼の背後に、ユウが付く。 「ちぃっ……次から次へと出てきやがる!!こいつ等何人いるんだぁ!? もう20人は倒したよな!?」 「キリがないな……流石はバルテス配下の者達。圧倒的人数だ。 聖剣ファルコンの力をもってしても、一度には倒しきれんな」 シェイドは一度身を後ろへ引き、態勢を整えた。 「2人共どいてろ。5秒で片づける」 「ルイ兄!?」 その一瞬、シェイドの前にルイが飛び出し、剣を前方に掲げた。 「月光……これがお前の見る最後の技だ!!」 ―――――ドゴオォォォォォン――――― 凄まじい光が、辺り一面にいた全ての敵を吹き飛ばした。 「悪いが、相手不足だ」 そう一言呟き、剣を鞘へと収める。 「"流石"とだけ言っておこうか」 シェイドが軽く微笑しながら、ルイに声をかけた。 「なに、少しだけ本気を出しただけだ。たいした事はしていない」 「ふ……素直でないな」 「互いにな」 「なぁルイ兄!」 「なんだ?」 「今度、俺にも教えてくれよな。月光の100%の出し方」 「……気が向けばな」 彼等3人の周りには、50人ほどが倒れていた。 |