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第09話「狂人」


バルテス・アルード。妖刀・死紅を手にし、狂人と呼ばれた男。
彼の髪の色は白く染まり、その形相は誰の目から見ても鬼のようだった。
その"狂人"は、クロス大陸の果てにある鍾乳洞の奥地を住処としていた。
バルテスは酒を飲みながら、仲間達と共に意気揚々と笑っていた。
傍らには約20人ほどの部下が付き添っている。
「バ、バルテス様!」
部下の1人が現れ、慌てた様子で息を切らしながらバルテスに声をかけた。
その部下は胸のあたりに深い斬り傷を負い、流血していた。
バルテスは酒瓶を手に持ったまま、不機嫌そうに睨みつけた。
「んー……邪魔だ。急用か、マイ・ブラザー?あ?」
「は、はい!せ……聖ヘレンズ帝国の奴らが近くの森に……!!」
「ヘイ、ボーイ!まぁ、落ち着きなって。
 聖ヘレンズ帝国の奴らが攻めてきたって?ヒュウ!!
 ……別にたいして驚く程の事じゃないだろ?よくある事だ。
 ワシ等に刃向う奴は、いつものように軽くぶっ殺しちまえばいいのさ。
 この世界はグルグル、グルグル回ってんのさ」
「それが、今回は……シェイド=ハーベルト王自らでして……。
 連れていた仲間達も、全滅は間近です!!」
「マイガッ!!なんだとッ!?自らだと!?馬鹿な!!」

―――――ガシァァン―――――

バルテスは酒瓶を地面に叩きつけた。
「王自ら攻めてくる奴がこの世のどこにいる!正気の沙汰か!!」
「事実です!バルテス様!どうかご出陣を!!」
「なるほど、つまり久々に死紅の出番ってわけだ。
 血に紅く染まった刀の色ってのは、さぞかし美しいんだろうなぁ……へへへ。
 おおぉぉぉぉぉぉっ!!段々テンションが上がってきやがったぜ、
この"ぷにょん野郎(※軟弱な者の意)"!!」
バルテスの言動は、理解不明な点が多い。
当然、呪いによる副作用的なものだが思考回路に強く影響を及ぼし、
混乱したような感覚、いわゆる"ラリった"状態となる。
「いいかお前ら、これだけは覚えておけよ。
 この世界はな!!グルグル、グルグル回ってんのさ!!」

―――――時を同じくして、クロス大陸"陽炎(かげろう)の森"―――――

「月光っ!!落ちろおおおぉぉっ!!」
夜空に薄気味悪い不気味な月が出現した。
「……のわっ!!失敗か!!」
聖ヘレンズ帝国将軍ユウ・スティンがガクリと肩を落とした。
「遊んでいる場合ではない。ユウ、私の援護に回れ」
「真面目だっつーの!!」
聖ヘレンズの王シェイドは5人を相手に剣を振るっていた。彼の背後に、ユウが付く。
「ちぃっ……次から次へと出てきやがる!!こいつ等何人いるんだぁ!?
 もう20人は倒したよな!?」
「キリがないな……流石はバルテス配下の者達。圧倒的人数だ。
 聖剣ファルコンの力をもってしても、一度には倒しきれんな」
シェイドは一度身を後ろへ引き、態勢を整えた。
「2人共どいてろ。5秒で片づける」
「ルイ兄!?」
その一瞬、シェイドの前にルイが飛び出し、剣を前方に掲げた。
「月光……これがお前の見る最後の技だ!!」

―――――ドゴオォォォォォン―――――

凄まじい光が、辺り一面にいた全ての敵を吹き飛ばした。
「悪いが、相手不足だ」
そう一言呟き、剣を鞘へと収める。
「"流石"とだけ言っておこうか」
シェイドが軽く微笑しながら、ルイに声をかけた。
「なに、少しだけ本気を出しただけだ。たいした事はしていない」
「ふ……素直でないな」
「互いにな」
「なぁルイ兄!」
「なんだ?」
「今度、俺にも教えてくれよな。月光の100%の出し方」
「……気が向けばな」

彼等3人の周りには、50人ほどが倒れていた。


第09話「狂人」終わり