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第19話「嘆きの仮面V」


「こいつでどうだぁっ!レヴェリー!!」
レインの2段斬りが魔獣の喉を捉えたが、致命的なダメージを負わす事は出来なかった。
魔獣は怯むことなく、すかさず攻撃に転じる。
彼の肩口を爪で切り裂き、傷口からは大量の血が流れ出た。
「まだだぁっ!!うおおぉぉぉっ!!
 これが飛龍の神髄ドラゴン・フォールだぁぁぁっ!!」
痛烈なる一撃が魔獣に放たれる。
魔獣は一瞬よろめいたが、それでも反撃に移ろうと体を整えた。
「……俺の奥義でも、こいつには効かない!?」
レインは絶望感を抱いた。
「力が……俺にもっと力があればあんな奴……!!ちくしょう!!」
「あんた、そこを離れな!」
突然レインの後方から、女性の声が聞こえた。
「何!?」
レインは彼女の言う通りに後ろへ下がった。
「バルテス様に頂いたこの奥義……喰らいなッ!!」

―――ヴゴオオオォォォォ―――

凄まじい断絶音とともに、魔獣はその場に崩れ去った。
それは一瞬の出来事で何が起こったのか、レインにはしばらく判断できなかった。
魔獣の前には、赤髪の女性が立っていた。
またその手には、剣ではなく、刀が握られていた。
女性はレインに振り返ると、無表情な顔で静かに口を開いた。
「自分の実力を良く見るんだね。……でないと、あんた死ぬよ?」
「そうだ……あんたの言う通りだ……。
 俺が強ければ、セシリーを死なせずに済んだ……。
 全部、俺が無力だったから……セシリーは……セシリーはっ!」
「……それで、これからどうするんだい?」
「もう……戦う事を止めよう……と思う。俺には戦いは向いていないから。
 彼女を守れなかった俺に……戦う資格なんてない」
レインは傍に落ちていたピエロの服を手に取り、何を思ったのかそれを着た。
「そんな服を着て……何のつもりだい?」
女性は不思議に思いながらも、問いただす。
「俺には戦いで人々を救う事は出来ないって気付いた。
 だから、これからは笑いで人々を救う。
 お笑い芸人になって、魔物に脅かされている人々から笑顔を取り戻していきたい」
「正気かい?」
「あぁ。これは俺にしか出来ない事だから」
「……それも一つの選択かもね」
一言そう言い残し、赤髪の女はその場を離れていった。
傍には、セシリーがいつも身に付けていたネックレスだけが残されていた。

―――イージスの町―――

「……という訳で、そのネックレスは唯一の形見さ」
レインは少し苦笑いして、コーヒーを一口飲んだ。
「らしくない……」
シリアがレインを冷たい眼差しで見た。
「え?」
「真面目なレインなんて、レインらしくないって言ってんの!」
「ぬあっ……それ酷っ!」
「はっはっは、まぁあれだ。とにかく酒を飲もう!おい、ねーちゃん、酒はまだかー!?」
「あ、私もお酒飲むーっ!!今日はとことん飲むわよっ!レインもどう?」
シリアとダグラスが意気投合している。
「朝から酒を飲むって大声で叫(酒)ぶなーっ!」
カインは2人から相手にされないレインに同情し、声をかけた。
「レイン、あの2人は酒を飲む事で、お前の辛い過去を忘れようとしているんだよ。
 まぁ、あいつ等なりの優しさってやつだ」
「カイン……そうだったのか。シリア、ダグラス……俺は良い友を持った」 
「あ、レイン、そのネックレスって確か高値で売れるよね?酒代は全部任せたわよ」
「はっはっはー飲み放題だなこりゃ〜……よーし、夜まで飲むぞぉっ!!」
「カイン……鬼がいるぞ。2体ほど確実に」
「…………頑張れ、レイン。俺は影でそっと応援させてもらうよ」


第19話 「嘆きの仮面V」完