「こいつでどうだぁっ!レヴェリー!!」 レインの2段斬りが魔獣の喉を捉えたが、致命的なダメージを負わす事は出来なかった。 魔獣は怯むことなく、すかさず攻撃に転じる。 彼の肩口を爪で切り裂き、傷口からは大量の血が流れ出た。 「まだだぁっ!!うおおぉぉぉっ!! これが飛龍の神髄ドラゴン・フォールだぁぁぁっ!!」 痛烈なる一撃が魔獣に放たれる。 魔獣は一瞬よろめいたが、それでも反撃に移ろうと体を整えた。 「……俺の奥義でも、こいつには効かない!?」 レインは絶望感を抱いた。 「力が……俺にもっと力があればあんな奴……!!ちくしょう!!」 「あんた、そこを離れな!」 突然レインの後方から、女性の声が聞こえた。 「何!?」 レインは彼女の言う通りに後ろへ下がった。 「バルテス様に頂いたこの奥義……喰らいなッ!!」 ―――ヴゴオオオォォォォ――― 凄まじい断絶音とともに、魔獣はその場に崩れ去った。 それは一瞬の出来事で何が起こったのか、レインにはしばらく判断できなかった。 魔獣の前には、赤髪の女性が立っていた。 またその手には、剣ではなく、刀が握られていた。 女性はレインに振り返ると、無表情な顔で静かに口を開いた。 「自分の実力を良く見るんだね。……でないと、あんた死ぬよ?」 「そうだ……あんたの言う通りだ……。 俺が強ければ、セシリーを死なせずに済んだ……。 全部、俺が無力だったから……セシリーは……セシリーはっ!」 「……それで、これからどうするんだい?」 「もう……戦う事を止めよう……と思う。俺には戦いは向いていないから。 彼女を守れなかった俺に……戦う資格なんてない」 レインは傍に落ちていたピエロの服を手に取り、何を思ったのかそれを着た。 「そんな服を着て……何のつもりだい?」 女性は不思議に思いながらも、問いただす。 「俺には戦いで人々を救う事は出来ないって気付いた。 だから、これからは笑いで人々を救う。 お笑い芸人になって、魔物に脅かされている人々から笑顔を取り戻していきたい」 「正気かい?」 「あぁ。これは俺にしか出来ない事だから」 「……それも一つの選択かもね」 一言そう言い残し、赤髪の女はその場を離れていった。 傍には、セシリーがいつも身に付けていたネックレスだけが残されていた。 ―――イージスの町――― 「……という訳で、そのネックレスは唯一の形見さ」 レインは少し苦笑いして、コーヒーを一口飲んだ。 「らしくない……」 シリアがレインを冷たい眼差しで見た。 「え?」 「真面目なレインなんて、レインらしくないって言ってんの!」 「ぬあっ……それ酷っ!」 「はっはっは、まぁあれだ。とにかく酒を飲もう!おい、ねーちゃん、酒はまだかー!?」 「あ、私もお酒飲むーっ!!今日はとことん飲むわよっ!レインもどう?」 シリアとダグラスが意気投合している。 「朝から酒を飲むって大声で叫(酒)ぶなーっ!」 カインは2人から相手にされないレインに同情し、声をかけた。 「レイン、あの2人は酒を飲む事で、お前の辛い過去を忘れようとしているんだよ。 まぁ、あいつ等なりの優しさってやつだ」 「カイン……そうだったのか。シリア、ダグラス……俺は良い友を持った」 「あ、レイン、そのネックレスって確か高値で売れるよね?酒代は全部任せたわよ」 「はっはっはー飲み放題だなこりゃ〜……よーし、夜まで飲むぞぉっ!!」 「カイン……鬼がいるぞ。2体ほど確実に」 「…………頑張れ、レイン。俺は影でそっと応援させてもらうよ」 |