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第18話「嘆きの仮面U」


「セシリー、こっち見てみろよ。すっごく大きい像がいるゾウ!」
レイン・シャルタスには、セシリーという恋人がいた。
今日はセシリーと、2人の友人達と一緒に、
エル・デ・ルスタの街で開かれているサーカスを見に来ていた。
毎年この街では、秋頃になるとサーカスが開かれる。
ここヴィッツア大陸では、サーカスはこの街にしか来ないため、
期間中は大陸中から大勢の人々が集まっていた。
「もう、レインったら!みんなのいる前でダジャレはやめてよ!
 聴いてるこっちが恥ずかしいじゃない!」
「ははっ、セシリー。俺達の事なら心配すんなよ。
 レインのダジャレ癖は今に始まった事じゃないし、もう慣れたって。なぁ、ドップ?」
「そうそう、デニー兄貴の言う通りだよ。
 レインからダジャレをとってしまうと、唯のつまらない男じゃん」
「おいおい、それは酷いなぁ……俺のダジャレは人々を幸せにするんだぞ」
「はいはい、そういう事にしとく」
「はは、サンキュ!」
ドップとデニーは血の繋がった兄弟で、2人ともガタイの良い体つきをしていた。
レインとは幼き頃からの親友である。
「あ、サーカスが始まるみたいよ!」
セシリーが司会のピエロの登場を見て、サーカスの始まりを予感した。
「やぁやぁ、皆様、今日はようこそ花の都エル・デ・ルスタへお集まりくださいました。
 心より、感謝申し上げます。ビバ・ゲッチュー!ハイハイ!」
司会のピエロは、何やら妙なテンションで進行を始めた。
「あのピエロ服……いいな」
レインが熱い眼差しで、彼の着ていたピエロ服を見つめた。
「ええ?あんな服のどこが良いの?凄く暑そう……」
「んー……やっぱセシリーには解からないかなぁ、あの服の良さってものが。
 まずはデザインが最高だ。そして、あのふわふわとしたイメージ」
「うーん……詳しく説明されても……」
レインの熱い解説に、セシリーは少し困惑している。

―――ズゴオオオォォォォン―――

その時、サーカス会場に激しい地響きが鳴り、辺りにいた鳥達は一斉に飛び立った。
「な、なんだ!?」
レインは素早く音のした方向を凝視した。
そこには、一匹の化け物が姿を現わしていた。
化け物は巨大な緑色の体をもち、蛙のような姿をしていた。
「あれは……まさか……魔獣か!?」
「レイン、魔獣って!?魔物とどう違うの?」
「魔獣ってのは、魔族とは関係を持たない種族のことさ。
 そして、魔物より数段と知能指数が高い。
 ……だけど、何でここに……」
「と、とにかくここを離れましょ!逃げないと殺されちゃうよ!」
「そうだそうだ、こんなヤバイとこ、早くオサラバしようぜ!
 デニー兄貴、自分の荷物は持ったかい?」
「おう、逃げる準備バッチリだ!」
デニーとドップは一目散にその場を逃げ出した。
「レインも、早く逃げよっ」
「あ、あぁ……」
会場にいた観客達はその化け物を見るやいなや、騒ぎ立て一斉に逃げ出した。
化け物は体型に似合わぬ俊敏な動きで会場に近づき、次々と人々を石に変えていった。
「人が石に……!?そんな馬鹿な!!
 それに、確か魔獣は無闇やたらと人を襲わないはずだ……。
 まさか、魔獣を操る存在がいるとでもいうのかっ!?」
レインにとって魔獣の恐ろしさは幼き頃に聞かされていたものの、
実際に目の辺りにしたのは今日が初めてだった。
魔獣は次の獲物を決めたのか、司会のピエロに襲いかかろうとしている。
「くっ……!!この野郎!!」
「レイン!どこに行くの!?戻って!!」
「目の前で人が石化されてんのを見てんのに、
 俺だけおめおめと逃げるなんて……そんな事は出来ないっ!!」
「でも、レインが行っても……」
「大丈夫だ!飛竜の名において、必ずあいつを倒してみせる!
 ……奥義ドラゴン・フォールでっ!!」
「だけどっ!!」
セシリーの頭の中で、何か嫌な予感が走ったのか、彼女はレインを追いかけた。
ピエロの司会者は、動きやすいようにピエロ服を脱ぎ捨て、既に逃亡していた。
魔獣とレインの距離は既に5メートルも離れていなかった。
レインは持っていた武器を構え、魔獣の頭付近に視線を移し、息を整え始めた。
そして魔獣を目がけて飛びかかろうとしていたその時、セシリーがレインの前に立ち塞がった。
「レイン!逃げて!!貴方じゃ魔獣に勝てない!!」
セシリーはレインの腕を掴んだ。
「馬鹿!!来るな!!すぐに逃げろ!!」
レインがセシリーを振りほどこうとしたが、その前に魔獣によりセシリーは石にされてしまった。
「セ……セシリー!!」
石にされたセシリーは魔獣の爪による打撃で、脆くも粉々に砕け散った。
「ちくしょおおおぉぉぉっっ!!」


第18話 「嘆きの仮面U」完