「セシリー、こっち見てみろよ。すっごく大きい像がいるゾウ!」 レイン・シャルタスには、セシリーという恋人がいた。 今日はセシリーと、2人の友人達と一緒に、 エル・デ・ルスタの街で開かれているサーカスを見に来ていた。 毎年この街では、秋頃になるとサーカスが開かれる。 ここヴィッツア大陸では、サーカスはこの街にしか来ないため、 期間中は大陸中から大勢の人々が集まっていた。 「もう、レインったら!みんなのいる前でダジャレはやめてよ! 聴いてるこっちが恥ずかしいじゃない!」 「ははっ、セシリー。俺達の事なら心配すんなよ。 レインのダジャレ癖は今に始まった事じゃないし、もう慣れたって。なぁ、ドップ?」 「そうそう、デニー兄貴の言う通りだよ。 レインからダジャレをとってしまうと、唯のつまらない男じゃん」 「おいおい、それは酷いなぁ……俺のダジャレは人々を幸せにするんだぞ」 「はいはい、そういう事にしとく」 「はは、サンキュ!」 ドップとデニーは血の繋がった兄弟で、2人ともガタイの良い体つきをしていた。 レインとは幼き頃からの親友である。 「あ、サーカスが始まるみたいよ!」 セシリーが司会のピエロの登場を見て、サーカスの始まりを予感した。 「やぁやぁ、皆様、今日はようこそ花の都エル・デ・ルスタへお集まりくださいました。 心より、感謝申し上げます。ビバ・ゲッチュー!ハイハイ!」 司会のピエロは、何やら妙なテンションで進行を始めた。 「あのピエロ服……いいな」 レインが熱い眼差しで、彼の着ていたピエロ服を見つめた。 「ええ?あんな服のどこが良いの?凄く暑そう……」 「んー……やっぱセシリーには解からないかなぁ、あの服の良さってものが。 まずはデザインが最高だ。そして、あのふわふわとしたイメージ」 「うーん……詳しく説明されても……」 レインの熱い解説に、セシリーは少し困惑している。 ―――ズゴオオオォォォォン――― その時、サーカス会場に激しい地響きが鳴り、辺りにいた鳥達は一斉に飛び立った。 「な、なんだ!?」 レインは素早く音のした方向を凝視した。 そこには、一匹の化け物が姿を現わしていた。 化け物は巨大な緑色の体をもち、蛙のような姿をしていた。 「あれは……まさか……魔獣か!?」 「レイン、魔獣って!?魔物とどう違うの?」 「魔獣ってのは、魔族とは関係を持たない種族のことさ。 そして、魔物より数段と知能指数が高い。 ……だけど、何でここに……」 「と、とにかくここを離れましょ!逃げないと殺されちゃうよ!」 「そうだそうだ、こんなヤバイとこ、早くオサラバしようぜ! デニー兄貴、自分の荷物は持ったかい?」 「おう、逃げる準備バッチリだ!」 デニーとドップは一目散にその場を逃げ出した。 「レインも、早く逃げよっ」 「あ、あぁ……」 会場にいた観客達はその化け物を見るやいなや、騒ぎ立て一斉に逃げ出した。 化け物は体型に似合わぬ俊敏な動きで会場に近づき、次々と人々を石に変えていった。 「人が石に……!?そんな馬鹿な!! それに、確か魔獣は無闇やたらと人を襲わないはずだ……。 まさか、魔獣を操る存在がいるとでもいうのかっ!?」 レインにとって魔獣の恐ろしさは幼き頃に聞かされていたものの、 実際に目の辺りにしたのは今日が初めてだった。 魔獣は次の獲物を決めたのか、司会のピエロに襲いかかろうとしている。 「くっ……!!この野郎!!」 「レイン!どこに行くの!?戻って!!」 「目の前で人が石化されてんのを見てんのに、 俺だけおめおめと逃げるなんて……そんな事は出来ないっ!!」 「でも、レインが行っても……」 「大丈夫だ!飛竜の名において、必ずあいつを倒してみせる! ……奥義ドラゴン・フォールでっ!!」 「だけどっ!!」 セシリーの頭の中で、何か嫌な予感が走ったのか、彼女はレインを追いかけた。 ピエロの司会者は、動きやすいようにピエロ服を脱ぎ捨て、既に逃亡していた。 魔獣とレインの距離は既に5メートルも離れていなかった。 レインは持っていた武器を構え、魔獣の頭付近に視線を移し、息を整え始めた。 そして魔獣を目がけて飛びかかろうとしていたその時、セシリーがレインの前に立ち塞がった。 「レイン!逃げて!!貴方じゃ魔獣に勝てない!!」 セシリーはレインの腕を掴んだ。 「馬鹿!!来るな!!すぐに逃げろ!!」 レインがセシリーを振りほどこうとしたが、その前に魔獣によりセシリーは石にされてしまった。 「セ……セシリー!!」 石にされたセシリーは魔獣の爪による打撃で、脆くも粉々に砕け散った。 「ちくしょおおおぉぉぉっっ!!」 |