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第12章「運命の出会い」


「あいつ・・絶対に白状させてやるんだから!!」
肩をいからせながら、ずんずんと街を歩いていくリーザ。
昨夜の件をディンに問い詰めようと、彼の元へ向かっているのだ。
「ちょっ・・!リーザ!!・・落ち着いてよ!!」
そのリーザを制止しようと後ろからついて行くリュナン。
「よく考えてよ・・!ディンがそんなことするわけ・・!」
ディンのことを尊敬しているリュナンには、ディンが辻斬り犯だとは、
どうしても思えなかったのだ。
だが、リーザはそうは思わなかった。
「あたしは確かに見たのよ!・・あの辻斬り犯が持っていた剣・・。
 あれは絶対に聖剣ファルコンだった・・。それは間違いないわ!」
リーザが昨夜見た剣・・。
彼女の見間違いでなければ、それは七大聖剣の一つ、ファルコンだった。
聖剣ファルコンも他の七大聖剣と同じく、世界に一本しか存在しない。
となれば、その所有者であるディンが犯人に結びつくのは至極当然と言えるだろう。
「待ってってば!それにディンが犯人だったとしてもそんな事言うはずないじゃないか!」
リーザの足がその言葉にぴたりと止まった。
確かにその通りなのだ。
ディンが犯人だという根拠はリーザが聖剣ファルコンをみたということだけ。
それだけでは、証拠とするには不十分だ。
頭に血が上っていたリーザにはそこまで考えられなかった。
「ね?・・それにもしかしたら本当にリーザの見間違いかもしれないし・・。」
「それはないわ!あたしの目は確かよ。あれが聖剣ファルコンだってことは・・」
「おいおいお二人さん。まーた夫婦喧嘩か。仲が良いことだねぇ。」
リーザの声を遮る声。
それは二人の話の種であるディンのものだった。
「ディン!」
「よう、お二人さん。また会ったなぁ。」
ディンの調子は昨日の夕方会ったときとほとんど変わらない。
それが演技なのか、それとも本当に犯人ではないのかはわからない。
ディンの飄々とした態度からは、どちらともとることができなかった。
「・・・・・・・。」
「な、なんだ?リーザ。昨日のことまーだ怒ってんのか?」
自分のことを怖い目で睨んでくるリーザに、ディンは思わず後ずさった。
「別に・・。」
「リュナン・・どうしたんだこいつ?」
「うーんとね・・・。」
さすがに昨日の怒りの態度とは違うリーザの態度に、ディンは首を傾げた。
それにどう答えていいのかわからないリュナン。
「そ、それよりもディン!今日はこれからどうするの?」
「ん?あー・・お前らみたいに俺もデートにでも行くかな・・。」
「あっそ・・せいぜい頑張ってね・・。」
「・・・本当にどうしたんだこいつ?」
いつもなら真っ赤になって否定するようディンの軽口にも反応を見せないリーザ。
「そんなんじゃいつまでたってもここに栄養がいかねーぞ?」
といってそんなリーザの胸をポンポンと叩くディン。
「・・な・・な・・な・・。」
「・・なにしてくれてんのよー!!」
「おっ!いつもの反応に戻った。」
流石にこれには我慢ならなかったのか、リーザは拳を振り回してディンを追い回す。
それをヒョイヒョイ交わしながらディンは後ろに下がっていく。
・・・と、ディンは後ろ向きに交わしていた上に、リーザはディンしか見えてなかったので、
そこに注意が向かなかった。
後ろ向きに迫ってくるディンに、女性が一人突き飛ばされてしまった。
「あ!・・わ、悪い!」
「い・・いえ・・私もまだ慣れていなくて・・」
その女性に向けて手を差し伸べるディン。
リーザもさすがにバツが悪そうな顔をしている。
だが、ディンの手につかまり立ち上がろうとしている女性の顔を見て、
その顔は驚きへと変わった。
「・・・って貴女・・アルメリア・・アルメリアじゃない!?」
「・・え?・・あ・・リ、リーザ!?」
そのアルメリアと呼ばれた女性の方も、リーザを見て驚きの表情を見せた。
「へぇ・・リーザの知り合いの人?」
リュナンがそれを見てリーザに尋ねる。
「ええ。あたしの昔からの友達・・かな。」
「あ・・私、アルメリア=メル=ラトリクスって言います・・。」
アルメリアはそう言うと礼儀正しく頭を下げた。
アルメリアは名前もそうだが、その立ち居振る舞いからも、
そして外見からも高貴な身分だと言うことが見て取れた。
腰まで届く長い金髪、清楚な白いドレス、そして吸い込まれそうな翠色の瞳・・。
見た目だけならば、リーザもそう見えなくはないが、
明らかに中身が伴ってはいなかった。
しかしそんなアルメリアを見て、ただ一人ディンだけは難しい顔をしていた。
「ふーむ・・・。」
「ど、どうしたのディン?」
「・・・88、56、81ってとこか・・。」
「って何言ってんのよあんたは!」
失礼な数字を口にしたディンの頭を容赦なくリーザの拳が襲う。
「ごめんねー・・こいつ変な奴で・・」
「ううん・・なんだか面白い人ね・・。」
「それは光栄ですね、綺麗なお嬢様。」
ディンはすっくと立ち上がるとアルメリアの手を握って自己紹介をしだした。
「俺の名前はディン=ファルゼン。特技は・・・。」
っとそういうと、手をくるっと一回転させた。
するとその手に花束が出てきた。
「ごらんの通りの手品です。まぁ、他にも色々あるんですが。」
「わぁ・・すごい・・・ありがとうございます!」
そのディンのパフォーマンスに喜色満面のアルメリア。
「・・・あれ?そういえば・・」
今度はリーザが難しい顔をしだした。
「そういえば、アルメリア・・貴女足が悪かったはずじゃなかった?」
「・・え?」
そのリーザの言葉に一瞬ドキっとした表情を見せるアルメリア。
だがすぐに笑顔に戻って
「ええ・・。でも、今はもうすっかり良くなったの。」
と答えた。
「そっか・・前に会ったの随分昔だったものね・・。」
「そうだったんだ・・良かったね、アルメリアさん。」
「本当になぁ・・良かったお祝いに俺とお茶でもしませんか?」
「だから何言ってんのよあんたは!」
またもリーザの拳がディンの頭にクリーンヒットする。
だが、そんなディンに
「本当ですか?よろしければ是非・・!」
誰もが予想外の返答が返ってきた。
リーザも、そして言ったとうの本人でさえ、一瞬反応することができなかった。


第12章「運命の出会い」終わり