「カインのパンツは赤いん(あカイン)?」 「…………」 「あ、そうや!カインはん、その剣ってやっぱ高いん(たカイン)?」 「…………」 朝からレインの寒いギャグが辺り一面に飛び交う。 カインは溜め息をつくと、少し困惑した表情でレインに言葉を返した。 「お前はレインの姿に戻っても、相変わらずだな……」 「はっはっは……カイン、そりゃあしょうがねぇさ。 レインだろうが何だろうが、コジッペはコジッペだ。 そんなに簡単に性格まで変わらねぇよ」 ダグラスがカインの肩をポンと軽く叩いた。 「それもそうだな……しかし俺のネタはやめてくれ」 カイン達はイージスの宿屋にて束の間の休息をとっていた。 ――トントン―― 誰かが扉をノックする音が聞こえた。 「お邪魔しま〜す。皆様、おはようございます。朝食をお持ちしました。 今日のメニューは焼きたてのイージスパンと、トマトサラダ、コーヒーです」 宿屋の看板娘ナナは、人数分の朝食を運んできた。 全員分を運び終えるとカインの元に近づき、耳元でそっと囁(ささや)いた。 「あの……カインさんの分、多めにしておきました。……私の気持ちです」 「あ、あぁ、いつもありがとう……」 少し照れながら、ナナは部屋をそそくさと出て行った。 「あの娘、可愛いけど、なんか気に入らないのよね。 カインの分、量がちょっと多くない?」 「い、いや……たぶん気のせいじゃないかな?まだ疲れているんだな、きっと。 さぁ、朝食でも食べて、魔獣の森に行かなければ!な?」 「う、うん。それもそうね。疲れているのかも」 シリアは視点をカインからレインへと移し、ふとある物に気づいた。 それはレインが首から下げている小さな青いネックレスだった。 「あ、ねぇねぇレイン!そのネックレスなに?ちょっと私に見せて♪」 「あっ……!おい、シリア!!」 「うわぁ〜これダイヤのネックレスじゃない!あ、ねぇ私貰っていい?」 シリアが突然、彼が下げているペンダントを見てはしゃいだ。 彼女が好きな物。1に酒、2にダイヤなどの高価な物である。 「あ、駄目だ。そのダイヤ、返して頂戴や(ちょうダイヤ)!」 流石はレイン。どんな時でも寒いダジャレだけは忘れない。 「いたた、ちょっとレイン!そんなに強く掴まないでよ! ……もう、冗談よ、冗談!ほら、返すわ」 渋々ながらも、シリアはそのネックレスをレインに返した。 「ふう……シリアの場合、冗談に思えないんだよな」 「あら?何か言ったかしら?」 「いや、飛竜の名において何も言っていない事を誓おう、うん」 「ならいいわ」 レインは物思いにふけりながら、ネックレスを大事に首にかけた。 それを見たカインは、ある事に気づき、レインに問いかけた。 「そのネックレス……まさか、恋人の?」 「…………」 「……すまない、触れてはならない事だったな」 レインはしばらくの間沈黙し、その問いには何も答えなかった。 ダグラスやシリアも息を呑んで、レインの言葉を静かに待ち続ける。 数分後、ようやくレインはその重い口を開いた。 「あれは、俺がまだお笑い芸人になる前の頃……。 俺はこの大陸では多少、名の知れた剣士だったんだ」 |