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第17話「嘆きの仮面T」


「カインのパンツは赤いん(あカイン)?」
「…………」
「あ、そうや!カインはん、その剣ってやっぱ高いん(たカイン)?」
「…………」
朝からレインの寒いギャグが辺り一面に飛び交う。
カインは溜め息をつくと、少し困惑した表情でレインに言葉を返した。
「お前はレインの姿に戻っても、相変わらずだな……」
「はっはっは……カイン、そりゃあしょうがねぇさ。
 レインだろうが何だろうが、コジッペはコジッペだ。
 そんなに簡単に性格まで変わらねぇよ」
ダグラスがカインの肩をポンと軽く叩いた。
「それもそうだな……しかし俺のネタはやめてくれ」
カイン達はイージスの宿屋にて束の間の休息をとっていた。

――トントン――

誰かが扉をノックする音が聞こえた。
「お邪魔しま〜す。皆様、おはようございます。朝食をお持ちしました。
 今日のメニューは焼きたてのイージスパンと、トマトサラダ、コーヒーです」
宿屋の看板娘ナナは、人数分の朝食を運んできた。
全員分を運び終えるとカインの元に近づき、耳元でそっと囁(ささや)いた。
「あの……カインさんの分、多めにしておきました。……私の気持ちです」
「あ、あぁ、いつもありがとう……」
少し照れながら、ナナは部屋をそそくさと出て行った。
「あの娘、可愛いけど、なんか気に入らないのよね。
 カインの分、量がちょっと多くない?」
「い、いや……たぶん気のせいじゃないかな?まだ疲れているんだな、きっと。
 さぁ、朝食でも食べて、魔獣の森に行かなければ!な?」
「う、うん。それもそうね。疲れているのかも」

シリアは視点をカインからレインへと移し、ふとある物に気づいた。
それはレインが首から下げている小さな青いネックレスだった。
「あ、ねぇねぇレイン!そのネックレスなに?ちょっと私に見せて♪」
「あっ……!おい、シリア!!」
「うわぁ〜これダイヤのネックレスじゃない!あ、ねぇ私貰っていい?」
シリアが突然、彼が下げているペンダントを見てはしゃいだ。
彼女が好きな物。1に酒、2にダイヤなどの高価な物である。
「あ、駄目だ。そのダイヤ、返して頂戴や(ちょうダイヤ)!」
流石はレイン。どんな時でも寒いダジャレだけは忘れない。
「いたた、ちょっとレイン!そんなに強く掴まないでよ!
 ……もう、冗談よ、冗談!ほら、返すわ」
渋々ながらも、シリアはそのネックレスをレインに返した。
「ふう……シリアの場合、冗談に思えないんだよな」
「あら?何か言ったかしら?」
「いや、飛竜の名において何も言っていない事を誓おう、うん」
「ならいいわ」

レインは物思いにふけりながら、ネックレスを大事に首にかけた。
それを見たカインは、ある事に気づき、レインに問いかけた。
「そのネックレス……まさか、恋人の?」
「…………」
「……すまない、触れてはならない事だったな」
レインはしばらくの間沈黙し、その問いには何も答えなかった。
ダグラスやシリアも息を呑んで、レインの言葉を静かに待ち続ける。

数分後、ようやくレインはその重い口を開いた。

「あれは、俺がまだお笑い芸人になる前の頃……。
 俺はこの大陸では多少、名の知れた剣士だったんだ」


第17話 「嘆きの仮面T」完