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第11章「その夜に見たモノ」


深夜のイージス。
辻斬り事件の影響か、人通りの少ないこの時間帯。
そんな中を歩く一人の女性と思しき影と、
その後ろをつけているような二つの影。
その女性と思しき人物は高価そうなドレスを着ていて、長い髪をたなびかせて歩いている。
だが、その長い髪はどこか作り物のような印象を受ける。
それもそのはず、なぜならばその髪は作り物だったからだ。
身にまとっている服も、いつもその人物が見につけている物ではない。
この人物はわざと貴族の令嬢のような服を着て街を歩いているのである。
自らを囮にして辻斬り犯をあぶり出そうということだ。
「・・今のところ・・現れる気配はないな・・。」
その後ろをつけている影も、もちろんその女性の仲間である。
「まぁ・・一日目で遭遇できるはずもないか・・・。」
そう言ってため息をついたのは、聖へレンズ帝国の将軍アレフ。
この辻斬り事件の解決に乗り出したのは聖へレンズ帝国の将軍達であった。
囮捜査として二時間くらいこうして街を歩いているが、辻斬りが現れたという様子は無い。
その場にいる三人が疲れてきた時、不意にそれは起こった。

ドレスを着た人物が路地裏に入った直後、暗がりからもうひとつの影が飛び出してきた。
咄嗟に身を翻してかわすが、あまりに急に動いた為にその作り物の髪がとれてしまった。
「リーザ!!」
その髪が取れたことによりその人物は本来の姿となった。
聖へレンズ帝国の将軍達の仲間、リーザ・ジェイルだ。
「現れたわね・・辻斬り犯!!」
その服装とは似つかわしくない言動・・間違いなくリーザだった。
そしてそのリーザに話しかけたのはもう一人の将軍・・リュナンである。
三人が辻斬り犯に注目する。
あいにく暗い路地裏のうえに相手が月を背にしているため、姿は定かではない。
だが、その右手に持ったモノだけは何かわかった。
剣だ。
「剣士・・ってことは犯人は人間ってことだね!」
「悪いけど三対一だ・・しかもこの路地裏じゃ逃げられねぇぞ!!」
アレフが辻斬り犯に向かって叫ぶ。
だが辻斬り犯は何も答えず、そのまま半歩後ろに下がった。
「!どうしようっていうの?後ろは壁・・・」
リーザが言い終わる前に、その人物は壁を蹴って登っていく。
「な!」
そのあまりの軽業に、三人とも言葉をなくす。
そして辻斬り犯はその場から姿を消した。
終始、その姿を確認することはできなかった。

「逃げられ・・たの?」
「・・・みたいだな・・。」
アレフがため息をつく。
「ち・・リュナン、お前が女装を嫌がるから逃げられたんじゃないのか?」
皮肉っぽいアレフの口調。
リュナンはそれにあわてて反論した。
「そ、そんな訳ないだろ!大体、僕が女装したって結果は変わらなかったよ!!」
「いーや、お前だったら一瞬早く奴を捕まえられたかもしれねぇ。」
・・結局、今回囮役をやったのはリーザだった。
それはリュナンが頑としてもやらないと言い張ったからである。
そのことに関しての議論を続ける二人。
その場にいる中で、リーザだけがそれに加わらず下を向き何かを考え込んでいた。
「ねぇ・・リュナン。」
いくらか過ぎた後、リーザが感情を押し込めるような口調で呼びかける。
「あの軽業・・どこかで見たことない?」
「軽業?・・どこかでって・・・あ!?」
リーザは気づいたのだ。
辻斬り犯のあの異様なまでの身軽さは誰かに似ている、と。
「ディンが犯人ってこと!?まさか!!」
「ディンって・・お前らが昼間に会ったって男か。」
リーザは言葉を続ける。
「それだけじゃないわ・・あの犯人が持っていた剣、・・ただの剣じゃなかった。」
「あれは・・聖剣ファルコンだったわ。」



第11章「その夜に見たモノ」終わり