「ま・・他にも色々あるんだけどな。」 
得意気に笑ってリュナン達の元へ戻るディン。 
その光景を二人は口を開けて呆然と見ていることしかできなかった。 
「ん?何だ?この俺の美しーい剣技に心奪われちまったか?」 
冗談めかしてそんなことを言うディン。 
「す・・・」 
「?・・どうした?」 
「すごいよディン!!」 
リュナンは瞳を輝かせてディンをみつめ、ディンの手をつかむ。 
「そ・・そうか・・あ、ありがとよリュナン・・。」 
苦笑いして答えるディン。 
はっきり言ってディンの言葉はリーザに対して向けられたものだったのだが。 
そのリーザはというと、口元に手を当てて、下を向いている。 
「ファルコン・・どこかで聞いた覚えが・・・って、あー!!」 
ぶつぶつと呟きながら考え込んでいたリーザが突然大声をあげた。 
「聖剣ファルコン!!確かあの七大聖剣の一つだわ!!」 
ディンの持つ聖剣ファルコンに手を伸ばし、まじまじとみつめる。 
「間違いない・・昔本で見た通りの形だわ・・・。」 
「そりゃそうだ。本物なんだから。」 
ディンが当然、と言った風に答える。 
「ねぇ!あんたこれどこで手に入れたの!? 
 普通の人間が持てるようなものじゃないわよ!?」 
リーザは凄い剣幕でディンにまくしたてる。 
「ん〜・・さぁて、どこだったかなぁ・・」 
ぽりぽりと頬をかき、ディンはリーザの言葉をはぐらかすようにそっぽを向いた。 
「ちょっと!答えなさいよ!!」 
「まぁまぁ。あんまカッカすんなって。 
 そうやっていらついてるといつまでたってもここに栄養がいかねぇぞ?」 
思い切りリーザの胸を揉みながら失礼なことを言うディン。 
「な・・!あ、あんたまたやってくれたわね!!」 
リーザは真っ赤な顔をしてディンめがけて何発もパンチを繰り出す。 
「おいおい・・女がグーで殴るかよ、普通!?」 
「うるさい!!死ね!変態!!」 
ひょいひょいとリーザの拳を交わしつつ、ディンは後ろに下がっていく。 
「あー怖い怖い。さっさと退散するとしようか!」 
ディンはそのまま宙返りをし、リーザから遠ざかっていく。 
「じゃあなー二人とも。また会おう!!」 
「あ・・ちょ・・ま、待ちなさいよコラ!!」 
リーザが言うより早く、ディンはその場からいなくなってしまった。
「あいつ・・今度会ったらただじゃ置かないから・・!」 
リーザは依然不機嫌なままだ。 
「まぁまぁリーザ・・。ディンは悪い人じゃないよ?それにすごい強いし・・。」 
「あのねぇ・・そういう問題じゃないの!!」 
「胸を思いっきりつかまれたのよ!?この悔しさがあんたにわかるっていうの!?え!?」 
「あ・・いや・・それはわからないけど・・・」 
リーザの剣幕に押されて何も言えなくなってしまうリュナン。 
確かに男にはその気持ちは理解できないだろう。 
「ああいう失礼な男はあのキザ男だけで十分だってのにまったく・・。」 
「何が誰だけで十分だって?」 
リーザの後ろからそのキザ男・・アレフが話しかける。 
「何よあんた?いたの!?」 
「お前らがいつまで経っても宿に来ないから迎えに来てやったんだよ!」 
「あ・・ごめん、アレフ。色々あって遅くなっちゃって・・。」 
「・・・みたいだな。まぁ、こいつが不機嫌なのはいつものことだが・・。」 
「くっ・・やっぱり腹立つわねあんたも・・・!」 
リーザの言葉は無視して、アレフはリュナンから事情を聞いた。 
「七大聖剣のひとつ、ファルコンか・・ 
 噂には聞いていたが、現物があるとはな。」 
「ま・・だとしても俺たちには直接関係の無い話だな。 
 それよりも注目すべき話が他にあることだし。」 
「注目すべき話?」 
「ああ・・どうもこの街に、辻斬りが出るらしい。」 
「辻斬り!?」 
その言葉にリュナンが目を丸くする。 
「ああ・・魔物の仕業か、それとも人間の仕業か・・。 
 被害者は鋭利な刃物で足を切り裂かれているそうだ。」 
「物騒な話ね・・で、どのくらいの被害がでてるわけ?」 
さすがにこの話にはさっきまで不機嫌だったリーザも耳を傾けてきた。 
「・・被害者は11人。死亡者はいない・・今のところはな。だが・・」 
「だが?」 
「・・・妙なことに、傷が完治した後も被害者は歩くことができないらしい。」 
「え!?どういうこと?」 
「さぁな・・だが、とにかく何かきな臭いものを感じる事件だろ?」 
アレフのその言葉に素直に頷く二人。 
「っつー訳で。とっとと宿に戻って今後の方針を決めるぞ。」 
そう言って二人の背中を叩いて歩くのを促すアレフ。 
「痛っ、ちょ・・まったく今日は何か色々腹がたつわね!」 
「ま・まぁまぁ・・。」 
いつも通りにリュナンがリーザとアレフの間に入って仲裁する。 
「ふぅん・・今後の方針・・ねぇ・・。」 
そんな三人の姿を見つめる一対の視線があった。 
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