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第07話「呪われた剣」


「あー……暑い……。なぁザリア〜、ちょっと休憩しようか」
「駄目。なんとしてでも今日中にジルドゥクの森を抜けないと、
 あの森で一夜を明かさないといけないから」
「森で一夜を過ごすのも、また味があっていいんじゃないか?」
「はぁ……レヴィン、ほんとに甘すぎるわね。いい?あの森の恐ろしさについて
 私が教えてあげるわ。あの森にはね、呪われた剣があるのよ」
「呪われた剣?何それ」
「聖剣ブルー・ティアーズ。通称"B.T"って呼ばれている剣よ。知ってる?」
「知らない」
「呆っきれた……。七大聖剣も知らないの?レヴィンって本当にこの世界の人?
 まさか異世界から来たっていうんじゃないでしょうね?」
「酷っ……」
「剣士になるには実技だけでなく、筆記試験もあるみたいよ。
 今の内にいろいろと知識をつけておかないと、絶対に試験に落ちるわ」
「だから俺は別に剣士になんかなりたくはないって……」
「あらそう?じゃあ、ジェラルドさんに言いつけちゃお〜っと」
「あ、嘘です。頑張って剣士になります」
「うんうん、それでいいのよ」
「……それで、その聖剣っていうのが、なんで危険なんだ?」
「え?……あ、うん。この剣はね、呪われているの」
「呪い?」
「そう。その剣を手にした者は、見たもの全てが化物に見えるんだって」
「へぇー……おっかないね。それはすごい呪いだ……」
「そんな呪いの剣なんか、誰も手にしたがらないと思うでしょ?
 でもね、聖剣と言われるだけあって、手に入れたいと思う人も意外と多いのよ」
「ふぅん……そうなのかぁ」
「……で、話を戻すけど、この森にはその聖剣を手にしようと、悪い人達がたくさん来ているの。
 寝ている時に襲われないとも限らないし、ある意味魔物より危険かもね」
「それは危険だ……男っぽいザリアより、俺が襲われる可能性が極めて高いっ!!」

――バコッ――


レヴィンとザリアは今、ヴィッツア大陸の北に位置するレモリア大陸にいた。
当然、2人が目指しているのはクロス大陸にある北クロス城なのだが、
ある事情のため別の大陸へと来てしまったわけである。
話は少しだけ過去に遡(さかのぼ)る。


―――商業都市イージス・イージス港―――

「船が出せないって、いったいどういうことよ!!」
ザリアがこの港の船長ハリスンと口論している。
この2人の様子をレヴィンは温かく見守っていた。
「だから、先程から何度も言っているように、
 クロス大陸への海域には海王ポセイデュスがだなぁ……」
「海王ポセイデュスなんか、レヴィンが軽く退治するから乗せてって言ってるの!」
「待て。それ無理」
温かく見守るはずのレヴィンだったが、つい口を挟んでしまった。
ハリスン船長の言う海王ポセイデュスとは、かつて聖ヘレンズ帝国将軍カイン・ヴァンス達も
遭遇した事のある"海の帝王"と呼ばれ、恐れられている化物だ。
あの時は海王の強大なる力の前に、ハリスン船長の船は完全に破壊されてしまった。
当然、将軍達の力でさえ適わない化物を相手にして、レヴィン達が適うはずもない。
「じゃあ、何時(いつ)になったらクロス大陸行きが運行されるのよ」
「んー……そうだなぁ……。あと一ヶ月くらい先かな」
「待てるかぁっ!!」

――バコッ――

「だ、大丈夫ですか、船長さん!」
レヴィンが慌ててザリアを止めたが、すでに遅かった。
「痛たた……全く、乱暴な娘さんだ……」
「あー……ごめんなさい。つい手が……はは」
「……ザリアはちょっと男っぽすぎるんだよな。……というか男だよな。
 もっと女らしくしたらどうなんだろうとか思っ……あ、しまった!口がすべっ……」

――バコッ――

「まぁとにかく、クロス大陸行きは出ない事は解かったわ。
 じゃあ、他の大陸への船は出ているってことなの?」
ハリスン船長は体勢を整え、ザリアに叩かれた箇所を抑えながら答えた。
「うーむ、まぁレモリア大陸行きの船なら出せないこともない。
 レモリア大陸に行き、その大陸にある港からクロス大陸へ行けば問題ないだろう。
 まぁ、多少の時間はかかるが、一番手っ取り早い方法でもある」
「レモリア大陸かぁ……精霊術士の大陸よね。どうする?レヴィン」
「んー……俺はどっちでもいいよ。お好きなようにどうぞ」
「じゃあ、レモリア大陸までお願い。はい、これは私とレヴィンのチケットよ」
「うむ。確かに受け取った。それではさっそく船を出そう。
 レモリア大陸へは2、3日もあれば着くだろう」
ハリスン船長は出航の準備をするように、船員達に合図を出した。
「今からレモリア大陸へと出航する!各々(おのおの)準備を整えろ!!
 乗客は男性2名だ!丁重に持てなすように!」

――バコッ――


第07話「呪われた剣」終わり