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20話「特別編 依頼」


「にゃ〜」

ある教会の庭にある崖の上で、一匹の子猫が迷子になっている。
高い場所に登ってしまったはいいが、どうやら降りられなくなったようだ。

「ねぇ、みんな。あの子猫ちゃん、助けてあげようよ」
フリージアは、傍にいるカインやユウに呼びかけた。

彼女達は"ある貴重な物"を探すために、この教会まで訪れたというわけだ。
メンバーはカイン、ヴェイク、ダグラス、ユウ、フリージアの5人。
貴重な物、つまりレアな品がこの場所にあると聞きつけて、
カイン、ヴェイク、ダグラスの3人は、いつもより張り切っている。
そして教会の中に入る途中で、迷子になっているこの子猫をフリージアが発見した、
というわけである。

「子猫を助けるのはいいけどよ……。あいつら、どんどん先に行ってるぜ?
 こんな時にルカがいれば、同じ猫同士すぐに助けることができるんだろうけど、
 あいつはテイルと空魚狩りに行ったしなぁ……」
ユウが答える。
「もう……レア物に夢中になるなんて、本当に子供みたい」
呆れ顔で、フリージアは少しムッとした。
「まぁな。かといって、あいつらを止める事なんて、俺にはできねぇしな。
 ……しょうがない。そいつは俺が助けてやるか」
「ありがと、ユウ♪」
ユウは崖の上に登りその子猫に近づいたが、突然暴れ出して手に負えなかった。
子猫はユウに飛びかかり、ユウの体中の至る所を爪で引っ掻いた。
「いてててて……引っ掻くなぁっ!」
「大丈夫!?」
「ちくしょお……こいつ、大人しくならねぇぞ……まさか愛が足りないっていうのか……。
 こうなったら愛だけでなく、愛と愛と愛でこいつを救う!!」
「やめておけ」
「なにぃっ!?」
ユウの背後から、何者かの声が聞こえた。
いつの間にかフリージアの横には、青い毛並の狼がいた。
「今の状況は、愛でどうにかなるものでもない。ここは私に任せておけ」
「おいおい……狼がしゃべったぁ!?お前は……聖魔なのか!?」
「話は後だ。代わってもらおうか」
「あ、あぁ……」
ユウは崖から軽々と飛び降りると、その狼が代わりに崖に飛び乗った。
狼は子猫に近づくと、何やら人間には解からない言葉で会話をし続けた。
「落ち着けっ……!私達はお前を助けにきたんだっ!」
「……どーいう事ニャ?」
「お前の主がお前を捜して欲しいと、私達に依頼したのだ」
「そうだったのニャ〜。やっと帰れるニャン!!」
この狼に説得され、子猫はようやく高い崖から降りてきた。
「もう大丈夫だ」
「あの……ありがとうございます」
フリージアがその狼に礼を言う。
「礼には及ばない。ただ依頼をこなしただけだからな」
「え?……依頼?」
「おーい!ウルグーっ!!」
すると向こうから数人の若者達がこの狼の傍にやってきた。
「一人でどんどん先に行くなよっ!見失ったじゃないか」
「クリスか……依頼は成功だ」
「え?あ、この子猫の事かぁ」
現れたのは、クリスと呼ばれた金髪の青年と、茶髪の少女、青髪の青年と銀髪の男だ。
ユウは彼らを見て、ふと気になった事を見つけた。
「おいおい……なんなんだお前達は……。それに青髪のお前、耳が長くねぇか?」
「ん?俺?そりゃそうだ。俺はエルフだからな」
「エルフ?んー……なんだかよくわからねぇが、とりあえず自己紹介でもしとくかな。
 俺は聖ヘレンズ国将軍、ユウ・スティンだ。んでこっちがフリージア。精霊術士だ」
「へぇ〜精霊術士かよぉ……。エストスのファウストみたいなもんだな」
「ちょっと違うような……」
隣にいた茶髪の女の子が苦笑いした。
「それじゃ、俺達も自己紹介しとくかな。俺はアレク。アレク・ハーシェルだ。
 そして、金髪のこいつはクリス。青い狼がウルグ。で、この子がエストス。
 まぁ、彼女にはいろいろと秘密があるんだが、ここでは内緒ってことで。
 あっちで煙草を吸っている銀髪の男は、レインっていう賞金稼ぎさ」
「ふん……先に行っている」
レインは、さっさと奥に行ってしまった。
しばらくの沈黙が続いたが、ユウが最初に口を開いた。
「ところでウルグ……だっけ?なんで話せるんだ?聖魔なのか?」
「私は"知的生命体魔生物"だ。あいにく聖魔という存在ではない」
「ふーん……まぁ、世の中にはいろいろな生物がいるってことか。
 そういえば、さっき依頼がどうのこうのって言ってなかったか?」
「俺達の職業はハンターだからな。依頼をこなして生活しているのさ」
その質問にはアレクが答える。
「なるほどね。それであの子猫の捜索依頼を引き受けていたってことか」
「正解。まぁ、バウンティ・ハンターやトレジャー・ハンター、モンスター・ハンターなど、
 ハンターといっても、いろいろ種類があるけどね。
 今回みたいな捜索依頼は、主に俺みたいなバウンティ・ハンターの仕事さ」
金髪の青年クリスが、ユウとフリージアにハンターについて説明した。
「はっはっはーいや〜今日はレア物が大漁だったなぁ〜。
 おい、カイン!帰って酒場で飲み明そうぜ!」
「おうっ!ヴェイク将軍も勿論行きますよね?
 今日は、レア酒"パニュール・ピニョール"が入荷されているらしいですよ」
「ふっ、行くに決まっているだろう」
カインとダグラス、ヴェイクが教会から戻ってきたようだ。
手に多くの宝玉を抱えている。
「あ……、カインさん達、戻ってきたみたい」
「ん?彼らは?」
「……あの様子だと、収穫があったみたいだな」
「見ろよ、ユウ、フリージア。今日の収穫はすごいぞ。
 聖バビロス旗に、ほら、これなんか古代ルーク時代の壺だ」
「はいはい……そいつはよかったな」
カイン達がユウ達と合流したその直後、突然奇妙な声が辺りに響いた。

「カインちゃうあああああぁぁぁん♪フリーダム・ゴッデ――――――ス!!」

現れたのは、南クロス城の王子、トレビアン・G(ガンダム)・マンダム。
彼に一度でも会った人々は彼の事をこう呼ぶ。"おかま"と。
「くっ……敵か……みんな構えろっ!!」
「クリスは私と同時攻撃を仕掛ける。エストスは回復を頼んだぞ」
「うんっ!」
ウルグが2人に命令を下し、エストスは後ろに下がり回復魔法の準備をした。
クリスとウルグはトレビアンに身構える。
「あららららん!?なんなのこの人達!!
 ……ははーん、さては、私とカインちゃんの邪魔をしようっていうのね!!
 愚かね。全く愚かすぎて涙がチョチョ切れそうよっ!いえ、もうチョチョ切れたわっ!!」
「おいおい……トレビ相手に何を本気になっているんだぁ?そいつ弱いぞ」
ユウがクリス達に説明した。
「いいか、見かけに騙されては負けるぞ。こういったタイプは、戦いが長引くと非常に厄介だ。
 ここは本気で戦う必要がある。お前達も加勢を頼む」
ウルグは真剣な表情でユウ達に話した。
「はぁ……。あいつごときに本気になるのは恥ずかしいが、しょうがない。
 おい、みんな、本気でやるか」
「うん、やっつけちゃお!」
「おう、手加減は一切するなよ。今後の俺のためにもな。これは重要だ」
「よおおぉぉし、いくぜぇっ!!」
カイン達全員がトレビアンの周りを囲む。
「ふふっ、一人を相手に全員で挑んでくるなんて、まるで時代劇モノの悪役ね。
 それに比べ、私ときたらこんな大勢を相手に一人で戦っているわ。
 もう、あれよね。主役って感じ?シナリオ通りの展開よっ!!
 さぁ、かかってきなさい!雑魚共がああぁぁぁっ!!」
トレビアンが一人で意気揚々と吠えている。

「とろとろしてっと、ブッ殺すぞオラァッ!!」
ダグラスの激しい怒鳴りとともに、それぞれが攻撃を繰り出した。
「いくぜっ!!聖ヘレンズ国に伝わるこの奥義で、必ずお前を仕留めてみせるっ!!
 はばたけっ、光の翼っ――――!!」
「お願いイフリート、私達に力を……力を貸してっ!!」
「舞い上がれ光の翼よ……光剣メビュラスとともに!!」
ユウの奥義に続いて、すぐさまフリージアが炎の精霊イフリートを召喚、
ヴェイクも奥義である光の翼でトレビアンを攻撃した。

「私達も彼らに遅れをとるな、いくぞ!!
 世界最後の日を導かんこの力、受けてみるがいい!」
ウルグの渾身の技、ニュークリア・パワーが炸裂する。
それにアレクの奥義が続く。
「わかっているさ!偉大なる水龍よ!全てを飲み込んでくれ!!」

ズゴオオォォォォォォォン……!!

激しい衝撃が響く。

「ぐぼはぁっ……こいつら……できる!!
 すでに師匠であるこの私を超えてしまったみたいね……」
トレビアンが戯言を言っている間に、決定的な攻撃が繰り出された。
「いくぞ、クリス!同時に仕掛けるぞ!!」
「ああっ、カインは奴の左側を狙ってくれ、俺は右を攻める!!」
「よし、これがお前の見る最期の技だぁっ!!おおおぉぉぉぉぉ月光っ……!!」
「くらえ……っ!!ダーク・バスター……ッ!!」
交互に強大な光がトレビアンを直撃した。

「フリーダム・ゴッで、いでッ……舌噛んだああああぁぁぁぁぁっ!!」

そう言い放ちながらトレビアンは泣きながら去っていった。
どうやらカイン達の技の痛みよりも、舌を噛んだ事による痛みのほうが酷いらしい。

「ふぅ……まぁ、なんとか倒せたかな。手強かったぁ」
クリスは、ほっとした表情でみんなに笑いかけた。
「あいつを倒せたのも、お前達のおかげだな。礼を言おう」
ウルグがカイン達にお辞儀をした。
「まぁ、全然苦戦しなかっ……あ……い、いや……こちらこそありがとう」
カインも慌ててウルグにお辞儀を返す。
こうして、見事トレビアンを撃退した彼らはお互いにうち解け合い、
商業都市イージスの酒場にて、酒を飲み交わしたのであった。


特別編「依頼」終わり


「legend of the sky」のキャラクターをお借りしました。
     文月さん ありがとうございました。