「にゃ〜」 ある教会の庭にある崖の上で、一匹の子猫が迷子になっている。 高い場所に登ってしまったはいいが、どうやら降りられなくなったようだ。 「ねぇ、みんな。あの子猫ちゃん、助けてあげようよ」 フリージアは、傍にいるカインやユウに呼びかけた。 彼女達は"ある貴重な物"を探すために、この教会まで訪れたというわけだ。 メンバーはカイン、ヴェイク、ダグラス、ユウ、フリージアの5人。 貴重な物、つまりレアな品がこの場所にあると聞きつけて、 カイン、ヴェイク、ダグラスの3人は、いつもより張り切っている。 そして教会の中に入る途中で、迷子になっているこの子猫をフリージアが発見した、 というわけである。 「子猫を助けるのはいいけどよ……。あいつら、どんどん先に行ってるぜ? こんな時にルカがいれば、同じ猫同士すぐに助けることができるんだろうけど、 あいつはテイルと空魚狩りに行ったしなぁ……」 ユウが答える。 「もう……レア物に夢中になるなんて、本当に子供みたい」 呆れ顔で、フリージアは少しムッとした。 「まぁな。かといって、あいつらを止める事なんて、俺にはできねぇしな。 ……しょうがない。そいつは俺が助けてやるか」 「ありがと、ユウ♪」 ユウは崖の上に登りその子猫に近づいたが、突然暴れ出して手に負えなかった。 子猫はユウに飛びかかり、ユウの体中の至る所を爪で引っ掻いた。 「いてててて……引っ掻くなぁっ!」 「大丈夫!?」 「ちくしょお……こいつ、大人しくならねぇぞ……まさか愛が足りないっていうのか……。 こうなったら愛だけでなく、愛と愛と愛でこいつを救う!!」 「やめておけ」 「なにぃっ!?」 ユウの背後から、何者かの声が聞こえた。 いつの間にかフリージアの横には、青い毛並の狼がいた。 「今の状況は、愛でどうにかなるものでもない。ここは私に任せておけ」 「おいおい……狼がしゃべったぁ!?お前は……聖魔なのか!?」 「話は後だ。代わってもらおうか」 「あ、あぁ……」 ユウは崖から軽々と飛び降りると、その狼が代わりに崖に飛び乗った。 狼は子猫に近づくと、何やら人間には解からない言葉で会話をし続けた。 「落ち着けっ……!私達はお前を助けにきたんだっ!」 「……どーいう事ニャ?」 「お前の主がお前を捜して欲しいと、私達に依頼したのだ」 「そうだったのニャ〜。やっと帰れるニャン!!」 この狼に説得され、子猫はようやく高い崖から降りてきた。 「もう大丈夫だ」 「あの……ありがとうございます」 フリージアがその狼に礼を言う。 「礼には及ばない。ただ依頼をこなしただけだからな」 「え?……依頼?」 「おーい!ウルグーっ!!」 すると向こうから数人の若者達がこの狼の傍にやってきた。 「一人でどんどん先に行くなよっ!見失ったじゃないか」 「クリスか……依頼は成功だ」 「え?あ、この子猫の事かぁ」 現れたのは、クリスと呼ばれた金髪の青年と、茶髪の少女、青髪の青年と銀髪の男だ。 ユウは彼らを見て、ふと気になった事を見つけた。 「おいおい……なんなんだお前達は……。それに青髪のお前、耳が長くねぇか?」 「ん?俺?そりゃそうだ。俺はエルフだからな」 「エルフ?んー……なんだかよくわからねぇが、とりあえず自己紹介でもしとくかな。 俺は聖ヘレンズ国将軍、ユウ・スティンだ。んでこっちがフリージア。精霊術士だ」 「へぇ〜精霊術士かよぉ……。エストスのファウストみたいなもんだな」 「ちょっと違うような……」 隣にいた茶髪の女の子が苦笑いした。 「それじゃ、俺達も自己紹介しとくかな。俺はアレク。アレク・ハーシェルだ。 そして、金髪のこいつはクリス。青い狼がウルグ。で、この子がエストス。 まぁ、彼女にはいろいろと秘密があるんだが、ここでは内緒ってことで。 あっちで煙草を吸っている銀髪の男は、レインっていう賞金稼ぎさ」 「ふん……先に行っている」 レインは、さっさと奥に行ってしまった。 しばらくの沈黙が続いたが、ユウが最初に口を開いた。 「ところでウルグ……だっけ?なんで話せるんだ?聖魔なのか?」 「私は"知的生命体魔生物"だ。あいにく聖魔という存在ではない」 「ふーん……まぁ、世の中にはいろいろな生物がいるってことか。 そういえば、さっき依頼がどうのこうのって言ってなかったか?」 「俺達の職業はハンターだからな。依頼をこなして生活しているのさ」 その質問にはアレクが答える。 「なるほどね。それであの子猫の捜索依頼を引き受けていたってことか」 「正解。まぁ、バウンティ・ハンターやトレジャー・ハンター、モンスター・ハンターなど、 ハンターといっても、いろいろ種類があるけどね。 今回みたいな捜索依頼は、主に俺みたいなバウンティ・ハンターの仕事さ」 金髪の青年クリスが、ユウとフリージアにハンターについて説明した。 「はっはっはーいや〜今日はレア物が大漁だったなぁ〜。 おい、カイン!帰って酒場で飲み明そうぜ!」 「おうっ!ヴェイク将軍も勿論行きますよね? 今日は、レア酒"パニュール・ピニョール"が入荷されているらしいですよ」 「ふっ、行くに決まっているだろう」 カインとダグラス、ヴェイクが教会から戻ってきたようだ。 手に多くの宝玉を抱えている。 「あ……、カインさん達、戻ってきたみたい」 「ん?彼らは?」 「……あの様子だと、収穫があったみたいだな」 「見ろよ、ユウ、フリージア。今日の収穫はすごいぞ。 聖バビロス旗に、ほら、これなんか古代ルーク時代の壺だ」 「はいはい……そいつはよかったな」 カイン達がユウ達と合流したその直後、突然奇妙な声が辺りに響いた。 「カインちゃうあああああぁぁぁん♪フリーダム・ゴッデ――――――ス!!」 現れたのは、南クロス城の王子、トレビアン・G(ガンダム)・マンダム。 彼に一度でも会った人々は彼の事をこう呼ぶ。"おかま"と。 「くっ……敵か……みんな構えろっ!!」 「クリスは私と同時攻撃を仕掛ける。エストスは回復を頼んだぞ」 「うんっ!」 ウルグが2人に命令を下し、エストスは後ろに下がり回復魔法の準備をした。 クリスとウルグはトレビアンに身構える。 「あららららん!?なんなのこの人達!! ……ははーん、さては、私とカインちゃんの邪魔をしようっていうのね!! 愚かね。全く愚かすぎて涙がチョチョ切れそうよっ!いえ、もうチョチョ切れたわっ!!」 「おいおい……トレビ相手に何を本気になっているんだぁ?そいつ弱いぞ」 ユウがクリス達に説明した。 「いいか、見かけに騙されては負けるぞ。こういったタイプは、戦いが長引くと非常に厄介だ。 ここは本気で戦う必要がある。お前達も加勢を頼む」 ウルグは真剣な表情でユウ達に話した。 「はぁ……。あいつごときに本気になるのは恥ずかしいが、しょうがない。 おい、みんな、本気でやるか」 「うん、やっつけちゃお!」 「おう、手加減は一切するなよ。今後の俺のためにもな。これは重要だ」 「よおおぉぉし、いくぜぇっ!!」 カイン達全員がトレビアンの周りを囲む。 「ふふっ、一人を相手に全員で挑んでくるなんて、まるで時代劇モノの悪役ね。 それに比べ、私ときたらこんな大勢を相手に一人で戦っているわ。 もう、あれよね。主役って感じ?シナリオ通りの展開よっ!! さぁ、かかってきなさい!雑魚共がああぁぁぁっ!!」 トレビアンが一人で意気揚々と吠えている。 「とろとろしてっと、ブッ殺すぞオラァッ!!」 ダグラスの激しい怒鳴りとともに、それぞれが攻撃を繰り出した。 「いくぜっ!!聖ヘレンズ国に伝わるこの奥義で、必ずお前を仕留めてみせるっ!! はばたけっ、光の翼っ――――!!」 「お願いイフリート、私達に力を……力を貸してっ!!」 「舞い上がれ光の翼よ……光剣メビュラスとともに!!」 ユウの奥義に続いて、すぐさまフリージアが炎の精霊イフリートを召喚、 ヴェイクも奥義である光の翼でトレビアンを攻撃した。 「私達も彼らに遅れをとるな、いくぞ!! 世界最後の日を導かんこの力、受けてみるがいい!」 ウルグの渾身の技、ニュークリア・パワーが炸裂する。 それにアレクの奥義が続く。 「わかっているさ!偉大なる水龍よ!全てを飲み込んでくれ!!」 ズゴオオォォォォォォォン……!! 激しい衝撃が響く。 「ぐぼはぁっ……こいつら……できる!! すでに師匠であるこの私を超えてしまったみたいね……」 トレビアンが戯言を言っている間に、決定的な攻撃が繰り出された。 「いくぞ、クリス!同時に仕掛けるぞ!!」 「ああっ、カインは奴の左側を狙ってくれ、俺は右を攻める!!」 「よし、これがお前の見る最期の技だぁっ!!おおおぉぉぉぉぉ月光っ……!!」 「くらえ……っ!!ダーク・バスター……ッ!!」 交互に強大な光がトレビアンを直撃した。 「フリーダム・ゴッで、いでッ……舌噛んだああああぁぁぁぁぁっ!!」 そう言い放ちながらトレビアンは泣きながら去っていった。 どうやらカイン達の技の痛みよりも、舌を噛んだ事による痛みのほうが酷いらしい。 「ふぅ……まぁ、なんとか倒せたかな。手強かったぁ」 クリスは、ほっとした表情でみんなに笑いかけた。 「あいつを倒せたのも、お前達のおかげだな。礼を言おう」 ウルグがカイン達にお辞儀をした。 「まぁ、全然苦戦しなかっ……あ……い、いや……こちらこそありがとう」 カインも慌ててウルグにお辞儀を返す。 こうして、見事トレビアンを撃退した彼らはお互いにうち解け合い、 商業都市イージスの酒場にて、酒を飲み交わしたのであった。 |