「リュナン!次はあっちの店に行きましょ♪」 
「ちょ・・ちょっと待ってよ・・リーザ・・。」
街が夕暮れ色に染まり、人々が帰り支度を始めるころ、 
リュナンとリーザはまだ店を回っていた。 
いや、正確にはリーザが回っているのにリュナンがつき合わされていた。 
アレフとウォルトが宿に戻ってから早や3時間。 
その間もずーっとリーザの買い物に付き合わされているリュナンはもうへとへとだった。 
 
「何よ、もう!だらしがないわねぇ!!」 
「ど・・どうしてリーザはそんなに元気なの・・・?」 
リーザはそれとは反対にかなり元気だ。 
「何言ってんのよ、これ位でへばってて魔王を倒せるとでも思ってるの!?」 
「そ・・それはそうなんだろうけど・・ちょっと違うような気も・・」 
「・・・まぁいいわ。あんたちょっとここで休んでなさいよ。 
 あたしはそこの店を見てくるから!」 
そう言ってリーザは店に向かって駆け出した。 
「ふぅ・・やっと休めるよ・・・。」 
「!・・リーザ!前!」 
リュナンが気づいて大声を上げたが、もう遅かった。 
リーザは前を歩いていた男性と衝突してしまった。 
「いたたたた・・」 
「君、ケガはないかい?」 
その青年はぶつかって突き飛ばされてしまったリーザに手を差し出すと、 
腕をとって立たせた。 
「・・・わ、悪いわね。」 
さすがに自分に非がある今回は、リーザも素直に非礼の言葉を口にする。 
「・・・ふーむ・・・。」 
「?」 
青年はリーザを立たせるとその姿をじっとみつめだした。 
青年の真剣なまなざしに、一体何事かと思うリーザ。 
すると青年はおもむろに手を叩いた。 
「・・うん、胸のボリュームは少ないけど、容姿とこっちは合格かな!」 
そう言うとおもむろにリーザの腰に手を回す。 
「!!」 
リーザは声にならない声をあげ、青年から一歩飛びのいた。 
「な・・な、な、な・・なにすんのよ!!」 
真っ赤な顔をしてリーザが声を抗議する。 
リーザはそんなことをされたのは初めてだったのだから、当然だろう。 
というよりも、リーザでなくても当然の反応なのだろうが。 
「いや・・何って・・スキンシップだよ。」 
「ス・・スキンシップってあんたねぇ・・!」 
「リーザ・・大丈夫?」 
そこにリュナンが駆けつけてきた。 
「あらら・・・もしかして彼氏の前だから怒ったか?」 
「!!・・ち、違うわよ!こ、こいつは別に・・」 
「?」 
さらに真っ赤になって反論するリーザ。
リュナンは状況を良く理解してなかった。 
「いやー、悪かった。でもその胸じゃあ彼氏もかわいそうだぜ?もっと・・ぶぎゃあ!」 
言いきる前に青年の顔にリーザの拳がヒットしていた。 
「はぁ・・はぁ・・こ、殺す・・・!」 
リーザの目に明らかな殺意が浮かんでいた。 
「リーザ・・!・・よくわかんないけどとにかく落ち着いて!」 
リュナンはそんなリーザをとにかくなだめていた。 
「離しなさいリュナン!!こいつ絶対にボッコボコにしてやるんだからぁ!!」 
押さえつけられながらもバタバタと暴れるリーザ。 
実は胸のことは本人も気にしていたのだ。 
「いてて・・悪ぃ、悪ぃ、ちょっとやりすぎちまったな・・。」 
青年が鼻を押さえながら立ち上がる。 
「悪いですめば将軍はいらないわよ!!」 
リーザは完全に頭に血が上ってしまっていた。 
「ま・・ますます何のことだかわからないけどとにかく落ち着いてよリーザぁ・・。」 
状況に置いていかれながらもリュナンは懸命にリーザをなだめていた。 
 
「ふぅ・・ま、とにかくこれも何かの縁だ。自己紹介といこうかな。」 
ようやくリーザが落ち着くと、青年はおもむろに切り出した。 
「あ・・そうですね。僕はリュナン・アルナムです。それで・・」 
「・・・リーザ・ジェイルよ・・・。」 
それでもやっぱりリーザは頭にきているらしく、ぶっきらぼうにそれだけ言った。 
「・・やれやれ。ほんの冗談だったんだが、嫌われちまったなぁ。まぁいい。」 
「俺の名前はディン・ファルゼン。冒険者だ。」 
「年は21、身体は至って健康、特技は・・」 
「た、大変だぁーーー!!」 
その時、叫び声が上がった。 
リュナンとリーザがそっちの方を向くと、なんと魔物が街の中に入り込んでいた。 
「ま・・まずい!なんとかしなきゃ!」 
「でもあんた・・剣は宿にあるんでしょ!?」 
「うん・・それでも放っておくわけには!」 
リュナンが駆け出そうとする。 
するとディンは右手を広げてそれを静止した。 
「ちょ・・な、何のつもりよ!」 
「おいおい・・俺の自己紹介がまだだぜ?」 
リーザの問いにさも聞くのが当然だといわんばかりに答える。 
「こんなときに何を・・!」 
リュナンもさすがにその言葉には驚いて反論した。 
「まぁ黙って聞きなって。俺の特技はな・・」 
そういうとディンはいきなり魔物の方に向けて空高く飛びあがり、 
ひねりを加えて宙返りしながら魔物の前に降り立った。 
「ご覧の通りの軽業と・・!」 
剣を抜くような動作をするディン。 
するとその手にしっかりと剣が握られていた。 
「ふしぎなふしぎな手品。それに・・。」 
魔物に向かって剣を振るディン。 
「この聖剣ファルコンによる魔物退治かな!!」 
次の瞬間、魔物は幾重にも斬り刻まれてその場に転がった。 
「ま・・他にも色々あるんだけどな。」 
リュナン達の下に戻るディンは、得意げに笑ってそう言った。 
  |