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第8章「彼の特技」


「リュナン!次はあっちの店に行きましょ♪」
「ちょ・・ちょっと待ってよ・・リーザ・・。」

街が夕暮れ色に染まり、人々が帰り支度を始めるころ、
リュナンとリーザはまだ店を回っていた。
いや、正確にはリーザが回っているのにリュナンがつき合わされていた。
アレフとウォルトが宿に戻ってから早や3時間。
その間もずーっとリーザの買い物に付き合わされているリュナンはもうへとへとだった。

「何よ、もう!だらしがないわねぇ!!」
「ど・・どうしてリーザはそんなに元気なの・・・?」
リーザはそれとは反対にかなり元気だ。
「何言ってんのよ、これ位でへばってて魔王を倒せるとでも思ってるの!?」
「そ・・それはそうなんだろうけど・・ちょっと違うような気も・・」
「・・・まぁいいわ。あんたちょっとここで休んでなさいよ。
 あたしはそこの店を見てくるから!」
そう言ってリーザは店に向かって駆け出した。
「ふぅ・・やっと休めるよ・・・。」
「!・・リーザ!前!」
リュナンが気づいて大声を上げたが、もう遅かった。
リーザは前を歩いていた男性と衝突してしまった。

「いたたたた・・」
「君、ケガはないかい?」
その青年はぶつかって突き飛ばされてしまったリーザに手を差し出すと、
腕をとって立たせた。
「・・・わ、悪いわね。」
さすがに自分に非がある今回は、リーザも素直に非礼の言葉を口にする。
「・・・ふーむ・・・。」
「?」
青年はリーザを立たせるとその姿をじっとみつめだした。
青年の真剣なまなざしに、一体何事かと思うリーザ。
すると青年はおもむろに手を叩いた。
「・・うん、胸のボリュームは少ないけど、容姿とこっちは合格かな!」
そう言うとおもむろにリーザの腰に手を回す。
「!!」
リーザは声にならない声をあげ、青年から一歩飛びのいた。
「な・・な、な、な・・なにすんのよ!!」
真っ赤な顔をしてリーザが声を抗議する。
リーザはそんなことをされたのは初めてだったのだから、当然だろう。
というよりも、リーザでなくても当然の反応なのだろうが。
「いや・・何って・・スキンシップだよ。」
「ス・・スキンシップってあんたねぇ・・!」
「リーザ・・大丈夫?」
そこにリュナンが駆けつけてきた。
「あらら・・・もしかして彼氏の前だから怒ったか?」
「!!・・ち、違うわよ!こ、こいつは別に・・」
「?」
さらに真っ赤になって反論するリーザ。 リュナンは状況を良く理解してなかった。
「いやー、悪かった。でもその胸じゃあ彼氏もかわいそうだぜ?もっと・・ぶぎゃあ!」
言いきる前に青年の顔にリーザの拳がヒットしていた。
「はぁ・・はぁ・・こ、殺す・・・!」
リーザの目に明らかな殺意が浮かんでいた。
「リーザ・・!・・よくわかんないけどとにかく落ち着いて!」
リュナンはそんなリーザをとにかくなだめていた。
「離しなさいリュナン!!こいつ絶対にボッコボコにしてやるんだからぁ!!」
押さえつけられながらもバタバタと暴れるリーザ。
実は胸のことは本人も気にしていたのだ。
「いてて・・悪ぃ、悪ぃ、ちょっとやりすぎちまったな・・。」
青年が鼻を押さえながら立ち上がる。
「悪いですめば将軍はいらないわよ!!」
リーザは完全に頭に血が上ってしまっていた。
「ま・・ますます何のことだかわからないけどとにかく落ち着いてよリーザぁ・・。」
状況に置いていかれながらもリュナンは懸命にリーザをなだめていた。

「ふぅ・・ま、とにかくこれも何かの縁だ。自己紹介といこうかな。」
ようやくリーザが落ち着くと、青年はおもむろに切り出した。
「あ・・そうですね。僕はリュナン・アルナムです。それで・・」
「・・・リーザ・ジェイルよ・・・。」
それでもやっぱりリーザは頭にきているらしく、ぶっきらぼうにそれだけ言った。
「・・やれやれ。ほんの冗談だったんだが、嫌われちまったなぁ。まぁいい。」
「俺の名前はディン・ファルゼン。冒険者だ。」
「年は21、身体は至って健康、特技は・・」
「た、大変だぁーーー!!」
その時、叫び声が上がった。
リュナンとリーザがそっちの方を向くと、なんと魔物が街の中に入り込んでいた。
「ま・・まずい!なんとかしなきゃ!」
「でもあんた・・剣は宿にあるんでしょ!?」
「うん・・それでも放っておくわけには!」
リュナンが駆け出そうとする。
するとディンは右手を広げてそれを静止した。
「ちょ・・な、何のつもりよ!」
「おいおい・・俺の自己紹介がまだだぜ?」
リーザの問いにさも聞くのが当然だといわんばかりに答える。
「こんなときに何を・・!」
リュナンもさすがにその言葉には驚いて反論した。
「まぁ黙って聞きなって。俺の特技はな・・」
そういうとディンはいきなり魔物の方に向けて空高く飛びあがり、
ひねりを加えて宙返りしながら魔物の前に降り立った。
「ご覧の通りの軽業と・・!」
剣を抜くような動作をするディン。
するとその手にしっかりと剣が握られていた。
「ふしぎなふしぎな手品。それに・・。」
魔物に向かって剣を振るディン。
「この聖剣ファルコンによる魔物退治かな!!」
次の瞬間、魔物は幾重にも斬り刻まれてその場に転がった。
「ま・・他にも色々あるんだけどな。」
リュナン達の下に戻るディンは、得意げに笑ってそう言った。



第8章「彼の特技」終わり