「駄目だ・・ここじゃすぐにみつかっちゃう・・。」
流れる汗、高鳴る鼓動。
リュナンはひどく周囲を警戒していた。
「こ・・ここなら・・・」
リュナンが一息つくと後ろの茂みから忍び寄っていく影が・・・
「!!しまった!」
リュナンの心臓が最大に高鳴る!
そして次の瞬間、影がはっきりとその正体を現すと同時に叫んだ。
「リュナン兄ちゃんみっけ!!」
「あ〜・・みつかっちゃったか・・。」
少年たちとかくれんぼにいそしむ青年。彼こそが聖へレンズ帝国の将軍・・のはずである。
さて・・何故彼がこんな事をしているのか。数時間前に戻ってみよう。
「これはこれは・・よく来てくださいました。」
ランスの村・・聖へレンズ城下町からそう遠くない山奥にある村である。
聖へレンズ城下町の酒場でこの村を魔物が襲っていることを知ったリュナン達は、さっそく向かったのだった。
そして今村長に話を聞いている真っ最中である。
「はい・・この村には今恐ろしい魔物が・・・」
「じいちゃんじいちゃん!なあ、外で遊ばせてくれよ〜!」
「これ!今大事な話をしている途中じゃ!後にせんか!」
「なんだよ〜。俺の話を聞いてくれたっていいじゃんかよ!!」
「あの・・僕達の話は後でいいですから、その子の話を先に聞いてあげて下さい。」
リュナンが村長に言った。実に彼らしい行動だった。
「ありがとう兄ちゃん!・・なぁじいちゃん、外で遊んでもいいだろ〜!!」
「だから駄目じゃと言っておるじゃろ!!あの恐ろしい魔獣が来たらどうするんじゃ!!」
「魔獣は夜に来るんだろ、昼は出たっていいじゃんかぁ!!」
「駄目じゃ駄目じゃ!!お前たちだけで、何かあったらどうするんじゃ!!」
「あの・・」
「じゃあ僕たちがついていきましょうか?」
「リュナン!?」
「何を言っとるんじゃ!!」
アレフとウォルトが驚きの声をだした。当然である。
「子ども達がかわいそうだよ・・遊べもしないなんて。」
「子ども達を思う存分に遊ばせてあげるのも、将軍の仕事なんじゃないかな。」
「・・・。」
アレフとウォルトはもう何も言えなかった。
「だったらお前だけで行ってこい。俺たちはここで村長に話を聞いている。」
「うむ。それがいいじゃろ。」
「やり!じゃあ早速行こうぜ!兄ちゃん!!友達も呼びにいってやろ!!」
「ちょ・・ちょっと引っ張らないで・・ってわぁぁぁぁ!!」
少年の遊びたい衝動を止めることは将軍にすら出来なかった。
「・・・あいつは子ども相手で丁度いいのかもな・・。」
アレフが皮肉っぽく言った。
「じゃ、その木の下で待っててくれよな!他の奴らをすぐ見つけてくる!!」
村長の息子はそういい残して走り出していった。
「ふぅ・・・。」
リュナンは木の下で一息ついた。
「(でも・・子ども達が思う存分に遊べないなんて、絶対に間違ってる。)」
リュナンは改めて今のこの世界の現状を考える。
「遅いな・・」
リュナンがそう呟いた瞬間だった。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
女性の悲鳴が聞こえた。と思った瞬間。
「あいた!」
リュナンの身体に衝撃が走った。上から落ちてきた何かにぶつかったらしい。
「だ・・大丈夫・・・?」
リュナンが顔をあげながらそう呟いた。
その視線の先にいたのは・・・。
まるで童話か何かから抜け出してきたような存在だった。
華奢な体つき、上等なドレス、小さい顔・・。
そして流れるような銀色の髪。
極めつけはまるで吸い込まれるような衝動にかられる蒼い目・・・
その小さな口唇が、ゆっくり動き出し・・・
「いったいわね!!何してくれんのよこのバカ!!」
信じられない暴言を吐いた。
「な・・・!」
リュナンは呆気にとられてしまった。
「ああ・・もう身体中がいたい・・。全く、傷でもついてたらどうしてくれんのよ!」
「お・・落ちてきたのはそっちじゃないか!」
流石のリュナンも反論をした。
「何?言い訳する気?男のくせに!!」
「言い訳って・・・」
リュナンはどうやら災難を呼び込む体質らしい。
新たなるまさに文字通りふってわいた災難に、彼はどう立ち向かうのだろうか。
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