「これで・・・どうじゃあ!!」 黒マントの男に向かって斧を大きく振りかぶりながら突進するウォルト。 だが次の瞬間、彼の斧はそのまま空を切り地面へと食い込んでしまう。 「ふ・・甘い。」 黒マントの男はウォルトの攻撃を避けた勢いで、そのまま懐からナイフを抜き放つ。 だがそのナイフの照準をウォルトへと定めようとした瞬間、男の注意は後ろへと動いた。 「この突きからは・・逃れられまい!!」 アレフが槍を正面に構え、男に向かって細かく突きの連打を放つ。 だが・・・男はアレフの突きを全て見切っていた。 上体を反らすだけでいとも簡単にアレフの攻撃はさばかれてしまう。 男はそのまま上体を捻りアレフ目掛けてナイフを放った。 「くっ・・。」 咄嗟に身を反らすアレフ。だが、次の瞬間・・・。 「ぐはぁ・・!!」 ナイフはおとりだった。注意のそれたアレフのみぞおちに深く男の肘が食い込む。 「アレフ!!」 「このぉぉぉぉ!!」 剣を上段に構え、リュナンが斬りかかる。男は再び懐からナイフを抜くと、 リュナンの上段からの斬撃をたやすくさばき、リュナンの背後に回り込んだ。 「な・・・!」 次の瞬間、リュナンの背中に激痛が走る。 男の持つナイフの柄が見事にリュナンの背骨に入る。 そのままうつぶせにリュナンは倒れてしまった。 「よくもぉ!!」 再び斧を構えたウォルトが突進する。 だが直線的なウォルトの動きに、男はたやすくナイフをあわせ、投げる。 「ぬぉぉぉ!!」 ウォルトの右膝に男のナイフが突き刺さる。そのままウォルトは片膝をついてしまった。 「ふっ・・この程度ならわざわざ魔将軍であるこの私が出向くことも無かったな。」 「魔将軍だと・・・!」 よろよろとアレフが立ち上がりながら男に向かって言葉を放った。 「ふ・・まだ立ち上がることができたか。そのしぶとさだけは褒めてやろう。」 「魔将軍・・魔族の幹部っていう・・。」 うつぶせに倒れたままのリュナンが口にした。 「ふ・・流石に将軍達だな。そのくらいは知っていたか。」 「だが・・将軍とはこんなものなのか?もう少しやると思っていたが・・」 「ぬぅ・・不覚じゃい・・。」 ウォルトはまだ片膝をついたまま、立ち上がれずにいた。 「ふ・・まぁそれでも我ら魔族の障害となるものは全て消すに限る・・。」 リュナン達は改めて悟った。自分達の相手にしようとしていたものの強大さを。 魔族という存在の恐ろしさを。 「ふ・・まだやる気か。アレフとやら。」 再び槍を構えるアレフ。だが・・ 「(駄目だ・・スキがねぇ・・!!)」 「ふ・・その勇気に免じてどれ。まずは貴様から消すとしようか。」 「ちぃ・・!!」 「(このままじゃアレフが!!)」 「うおぉぉぉぉぉぁぁぁぁぁぁ!!」 リュナンが叫び声とともに剣を取り起き上がる。 そしてそのままの勢いで剣を下段から振り上げようとした。 「ふん・・そんなもの・・・」 男は再びナイフで受け流そうとする。 だがその一撃は男の予想とは大きく異なったものだった。 剣の先から、大きな衝撃波のようなものが放たれる。 「ぐぁぁぁぁ!!」 まるで天空に駆け昇っていく翼のようなその衝撃破が、ガードごと男を吹き飛ばす。 男は体勢を大きく崩し、よろける。 「今だぁぁぁ!!」 アレフは大きく後ろに槍を振りかぶると、その切っ先に炎を宿し切りかかった。 「紅蓮・・!!」 男の身体を炎を宿した刃先が切り裂く。 「ぐぅ・・!」 男は攻撃を受けよろけながらも懐から球体を取り出すと地面へとたたきつけた。 次の瞬間、あたりを煙が舞う。煙がはれた時、もう男はリュナン達から距離をとっていた。 「覚えておくぞ・・聖ヘレンズ帝国の将軍達・・・この傷の礼は・・必ずさせてもらう!」 男はそう言い残すと闇の中へと姿を消していった。あたりに静寂が戻る。 「魔将軍・・か・・。」 アレフはそう呟いた。その呟きにはなんとも言えない思いが宿っていた。 「のう・・リュナンよ・・。」 おくすり(HP回復 小)を傷口にぬりながらウォルトが聞く。 「あの衝撃破・・一体なんだったんじゃ?」 ウォルトが不思議がるのも無理は無い。聖へレンズ国の剣技にあんな技など存在しないからだ。 「わかんない・・あの時はアレフを助けなきゃって無我夢中だったから・・。」 「ちっ・・偶然かよ・・。」 アレフが不満をこぼす。だがその不満はあの技が偶然に放たれたものだということだけでなく、 リュナンがあれほどまでの実力を持っていたことへの不満でもあった。 「ねぇ・・アレフ・・。」 「やっぱり・・いきなり僕らが魔王と闘うなんて無理だよ・・。」 「その通りじゃ!魔王の部下でさえあの強さなんじゃぞ!!」 「ちっ・・!」 アレフは何もいえなかった。男の実力が自分達をはるかに超えていたのは事実だったからだ。 「それじゃ・・まずは酒場で情報収集からだね。」 「行こう。二人とも。」 「うむ。」 「・・・ああ。」 歩きだそうとする三人。今魔王を倒す冒険の第一歩が・・・ 「あ・・あれ・・?」 そのまま前のめりに倒れそうになるリュナンをあわててウォルトが支えた。 「ど・・どうしたんじゃ!!リュナン!!」 「ごめん・・なんか・・力が入らなくて・・。」 無理も無い。あれほどの技を起き上がりざまに放ったのだ。リュナンの全身の力はとうにつきていた。 「仕方ねぇな・・。」 「ほら・・乗れよ。」 アレフがリュナンに背中を向けてしゃがみこむ。 「え・・でもアレフ・・」 「ちっ・・お前に助けてもらったのは事実だからな・・。借りは返す。それだけだ。」 「・・・ごめん。ありがと。」 「はっはっは。まずは宿屋で一休みじゃな。」 冒険への第一歩が踏み出されるのは先のこととなった。 余談だが・・リュナンは偶然放った衝撃破を後に厳しい修行の末自分の技とする。 そしてこの技にこう名づけた。 天空へと駆け昇る一撃・・”天空昇”と。 |