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第2話「アランとリュウ」


酒場"マリン"は聖ヘレンズ城下町の人々だけでなく、城の兵士までもが訪れる人気の場所であった。
カインもまた、この酒場には御用達になっていた。
「カイン様、いらっしゃいませ〜☆」
カインを出迎えたのは、この酒場の亭主マリン・クリシュナという女性だった。
3年前彼女は18歳の若さにして、亡き父からこの酒場を引き継いだ。
当時、この酒場は「酒場・でんでん虫」という名前だったが、父ハンスが亡くなった後、
マリンはこの名前が気に入らないという理由で、店名を自分の名前「マリン」に変えたらしい。
「いつものやつを頼む」
「はい、パニュール・ピニョールですね。すぐにお持ちしますね」
カインのお気に入りの酒。それが"パニュール・ピニョール"と呼ばれる酒である。
この酒は、北のレモリア大陸の一部の地域でしか生産されていない、かなり貴重な酒だ。
普通の人は、この酒をあまり頼まない。貴重な酒といえど、味は上手くはないからである。
しかしカインはこの酒を好む。ここに来れば、必ずといっていいほど注文している。
それはカインが"レア物"に弱い、ということが関係してるだろう。
これまでにもレアな物を見ると周りが見えなくなることも、しばしばあった。
「カイン将軍!こっちです!」
カインを呼び止めたのは、奥の壁際の席に座っていた兵士であった。
そこには、2人の兵士がイスに腰掛けていた。見た目は2人とも、まだ少年に見える。
「アラン、リュウ。待たせたな」
「カイン将軍、おめでとうございます!今日からついに将軍ですね」
カインの右に座っているのが、アラン。歳は12歳くらいだが、聖ヘレンズの兵士だ。
カインの左にいるのがリュウ。彼もまたアランと同じ歳くらいで、兵士なのである。
聖ヘレンズ国では、10歳から兵士として徴兵が可能とされる。
兵士を夢見る子供たちは多く、カインを含む四大将軍は彼ら子供たちの憧れでもあった。
「お待たせしました。パニュール・ピニョールです」
「あぁ、ありがとう」
カインの前にパニュール・ピニョールの酒が置かれた。
「カイン将軍、いよいよ異教徒狩りが本格的に開始されるみたいですね」
アランは飲んでいたオレンジジュースを置き、真剣な眼差しでカインを見つめた。
「俺もその情報、町の人から聞きました」
「異教徒狩りか・・・。もう町の者にも噂が流れているみたいだな」
カインは、ため息混じりにテーブルに置かれた酒を飲んだ。
「ふぅ・・・」
「やはり、噂は本当なんですね」
「ああ、明日にでも行われるだろう。間違いない」
異教徒狩り。それは、人々にとって最も恐れる計画であった。
ブレイド王V世に政権交代し、彼は"ゾルダーク教"なる宗教を掲げた。
前王が提唱したのは"リ・シェル教"という、完全平和平等主義だったのに対し、
現国王はあろうことか、絶対王政ともいえる宗教を提唱した。
王に逆らえば死刑。リシェル教徒も死刑。それがゾルダーク教だ。
つまり、前王の掲げたリ・シェル教徒は"異教徒"とされ、彼らを根絶やしにする計画が、
異教徒狩りと呼ばれるものである。
この計画は城の中でも、ラーハルト司令、ダーク・ヘイストン参謀、
そしてカインら四大将軍たちにしか知らされていないこと。
だが、アランたちの話しによると、町の人々にすでに流れているというわけだ。
「異教徒狩り・・・か」
カインはパニュール・ピニョールを一口飲み、窓の外を眺めた。


第2話「アランとリュウ」終わり