聖ヘレンズ城にあるカイン・ヴァンス将軍の寝室に、1人の女性が入ってきた。 「カイン、います?入りますよ」 その女性の名は、リナ・ロンドという。 カインと同じ聖ヘレンズ国将軍であり、唯一の女性である。 今日は全世界の人々にとって、月に一度の休暇の日「女神の記念日」と呼ばれる日だ。 この日は全世界の人々が休暇をとる。無論、酒場も、どの店も開いてはいない。 そして、将軍たちも例外ではなく、門番でさえも休暇をとっている。 この日に魔物たちが攻めて来ないのは、不思議といえば不思議である。 魔物たちは思考能力が乏しいためであろうか。 カインの部屋には、1人の女性がいた。 「アヤメ!?貴方、ここで何をしているの?」 「あ!リナ将軍!」 アヤメと呼ばれたその女性はリナ将軍の部下の1人である。 彼女は赤い髪をしており、歳は15、6くらいか。活発な印象を受ける。 「あ、いえ、ちょっとカイン将軍に相談を・・・」 「もう、あまりカインを困らせてはだめよ」 「はい、わかってま〜す」 「それじゃカイン様、また相談にのってくださいね♪」 「あ、あぁ・・・」 アヤメはそそくさと部屋を出て行った。 リナはため息をついて、カインの傍に置かれている椅子に腰掛けた。 「リナ?どうしたんだ?・・・その紙は?」 カインは、リナが手にしている一枚の紙切れに目を向けた。 「手配書よ」 「手配書?・・・誰だ?」 「カイン、DCCって、知っています?」 「DCC?いや、聞かない名だ」 「・・・まぁ、知らないのも無理はないですね。裏組織ですので。 異教徒側による反帝国組織です。最近活動が目立ってきています」 「その組織のリーダーがディア・・・か」 「ええ、彼女の素性は不明ですが、あのバルテス・アルードと関係があるようです」 「なっ・・・!?バルテス・・・アルードだと!?」 カインは窓際にいき、辺り一面に広がっている青空を眺めた。 バルテス・アルードという名は、カインもよく知っている名前だった。 それもそのはず、彼は一度そのバルテスという男と戦ったことがあるのだから。 その時はシェイド・ハーベルト将軍が止めにきたため勝負はつかずじまいだったが、 明らかにカインに分が悪かったのは、誰の目からみても明らかだった。 「少し面倒なことになってきたな。それで、そのディアを捕らえろと?」 「いえ、ラーハルト司令からは直接、命令は出ていません。 ただ、注意しておくべき人物だと思うので・・・」 「わかった、ありがとう」 カインはリナからその手配書を受け取り、それに印刷されたディアの顔を見た。 「この女性か・・・。なぜだか、深い悲しみを感じる・・・なぜだ」 「・・・・・・。」 「いずれ、この女性とは出会う・・・なぜか、そんな気がするよ」 「・・・えぇ、避けては通れない相手かもしれませんね」 ・・・バプテスマの塔・・・ 「この塔がある限り・・・私の心は永遠に閉ざされたままだ!」 ディアは拳を握りしめ、眼前にそびえ立つ巨大な塔を見上げた。 バプテスマの塔、別名「嘆きの鐘」とも呼ばれる異教徒の処刑場のことである。 ディアたちDCCの目的は、この塔の破壊。だがこの塔は厳重な警備と仕掛けが 施されているため、ディアといえど、そうそう立ち入ることはできない。 「ディアさん、今はまだ無理です・・・今はまだ・・・」 「あぁ、わかっているさ」 ディアは後ろを振り返り、その塔を後にした。 (クレス、あんたの仇は私がとってやるからね・・・必ず) カインとディアが出会うのは、もう少し後の話である・・・。 |