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第8話「ヴェイクという男�V」


「ヴェイクさん!!大丈夫っスか!!」
「あぁ・・・致命傷にはなっていない・・・」
聖ヘレンズ国将軍ヴェイクとその部下ラーチェルとミント。
ヴィッツア大陸南東にある闇の洞窟の最新奥にて、魔獣ベルセルクと戦っていた。
魔獣ベルセルク。魔獣の中でも、ひと際凶暴な魔物で、鋭い牙を持つ。
また、その牙には毒が塗られており、かすっただけでも致命傷になるほどの威力だ。
腕は4本あり、異形な形をしている。見た目は虎に酷似している。
「ヴェイク!ラーチェル!あいつが来るわ!!」
ラーチェルはアレスの斧を構え、一端魔獣との距離を保った。
極度の不安と緊張からか、額に汗が溢れ出ている。
すでにこれまでの魔物たちとの戦いで、ラーチェルの体力はほとんど尽きていた。
それはミントもまた同様であった。
ヴェイクは、あの魔獣を2人へ矛先を向けさせないために挑発した。
「どうした!お前の相手はこの俺だ!!」
ヴェイクの挑発が効いたのか、恐ろしき魔獣は彼の方へ徐々に歩み寄った。
「いいぞ・・・そのままこっちに来るんだ」
「ヴェイクさん!」
ラーチェルはヴェイクに加勢しようとしたが、体が動かなかった。
瞬時に魔獣はヴェイクに飛びかかった。その恐ろしき牙で。
「その動きでは、この俺を捉えることはできない!はあっ!」
ヴェイクはひらりとその牙をかわすと、引き際に剣を相手の喉に突き立てた。
それはまさしく聖ヘレンズ国に伝わる、流水と呼ばれる技であった。
魔獣は一瞬うろたえたが、すぐに体勢を立て直し、再びヴェイクの元に近づいた。
「くっ・・・効いていないのか!?」
確かに喉からは血が溢れているのだが、この魔獣にとっては大したダメージではない。

「ラーチェル!このままじゃやばいよ!ヴェイクを助けなきゃ!」
「あぁ、わかってる!だけど・・・どうしたら・・・」
ラーチェルはまだ恐怖から立ち直っていない。
ヴェイクの放った技、流水でも倒せない相手に、
いったいどう立ち向かえばいいんだというその不安が、彼の足を止めていた。
「ちくしょう・・・俺に光の翼が使えりゃあ・・・」
その言葉を聞いて、ミントはいい案を閃いた。
「光の翼かぁ・・・。うん、やっぱりそれしかないよね」
「え?」
ラーチェルは不思議そうにミントを見た。
ミントはラーチェルの肩をぎゅっと握りしめ、言い聞かすように体を揺さぶった。
「だから光の翼よ!やろうよ、私たちで!」
「はぁ?」
「2人で同時にあれを出せば、きっと倒せるはずよ!!」
「だけど、俺たちあの技を使いこなせないぞ・・・将軍じゃあるまいし」
「やってできないことはないって!賭けましょう!
 ヴェイクを助けるには、もうこの手しか残されてないわ!!」
「わ、わかったよ!わかったから、そんなに強く揺らさないでくれっ!」
ラーチェルはミントから解放されると、肩をポンポンと払い、深呼吸をした。
「ふぅ・・・そうだな。ミント、お前の言うとおりだ。
 ・・・やろう!2人で光の翼を!!」
「うん!!」

その間もヴェイクは、魔獣ベルセルクと死闘を繰り広げていた。
形勢はあいかわらず、圧倒的に不利な状況であった。
将軍とはいえ、さすがのヴェイクも息切れをし始め、体力も残り少なくなっていた。
ラーチェルとミントはそれぞれの武器を強く握りしめ、魔獣に向かっていった。
「いくぞ化け物!!光の翼ああぁぁぁっ!!」
「この技であんたを屠(ほふ)る!光の翼!!」
2人が同時に技を仕掛けた。魔獣はすぐさまその気配に気づき、彼らの方を向いた。
「今だ!!はああぁぁっっ!!たあああぁぁぁっ!!」
目映い光が辺りを照らし出した。物凄い轟音が鳴り響き、岩壁が次々と崩れ落ちた。
まさにそれは、この技の威力を物語っていた。
だがヴェイクは次の瞬間、恐るべき光景を目のあたりにした。
魔獣ベルセルクはその場に立っていた。かなり弱ってはいるが、まだ倒れてはいない。
恐ろしきその牙は、ラーチェル、ミントの2人の体を無惨にも貫いていた。
「ラ・・・ラーチェル・・・ミント・・・」
ヴェイクは2人の元に駆け寄った。だが、ミントはすでに息をしていなかった。
そして、かすかにまだ息をしていたラーチェルの体を起こした。
「ラーチェル!しっかりしろ!・・・ラーチェル!!」
「あ・・・ううっ・・・」
その隙を見て、魔獣ベルセルクはヴェイクに襲いかかろうとした。
だが、仲間を失った今のヴェイクに敵はいなかった。
「月光・・・これが、お前の見る最期の技だ!!」
月の光による一撃を浴びせられた異形の魔獣は、跡形もなく消し飛んだ。
聖ヘレンズ国最強の奥義、月光。聖ヘレンズ国将軍ジェラルドの得意とした技であった。
「あ・・・ヴェイ・・・クさん」
「大丈夫だ!俺がきっと助ける!!」
「役に立た・・・なくて・・・ごめんなさ・・・・・・」
ラーチェルはヴェイクの前で静かに息を引き取った。
「そんな・・・ラーチェル・・・」
ヴェイクはがっくりとその場にしゃがみ込み、拳を握りしめた。
「お前たち・・・もうすぐ結婚するんじゃなかったのかよ!
 それなのに・・・なんでこんなところで、命を落とすんだ!!」
その目には涙を浮かべている。
「死ぬのは・・・俺だけでよかったのに・・・」
友達のような関係でもあった仲間の死。ヴェイクにとって、それは辛い事実であった。
戦には犠牲はつきものだ。それは将軍であるヴェイクにもよくわかっている。
以前にも仲間の死はいくつも見てきた。だが、今回ばかりはさすがに堪(こた)えた。
「俺の・・・責任だ・・・。・・・俺の」

・・・そして現在・・・

「ヴェイクはその後、将軍の地位を捨てこの国を出た」
その話を聞いたシェイドの部下、サーラは涙汲んでいる。今にも泣きそうな表情だ。
「・・・ヴェイク様の気持ち、よくわかります。
 もし私がヴェイク様と同じ立場だったら、とても辛くて生きてはいられなかったでしょう」
まだ15歳のサーラにとって、死という言葉はとてつもなく重くのしかかっていた。
そして、今まで我慢していたものが、一気に溢れ出た。
「すごく辛いはずなのに・・・ヒック・・・すべて自分の責任にするなんて・・・
 ヴェイク様は・・・とても強い心を持っていると思います・・・ヒック」
サーラはすでに泣いていた。もはや感情を抑えることはできなかったようだ。
それを見たシェイドは軽くサーラの頭に手をポンと乗せ、優しい笑みでこう囁(ささや)いた。
「あいつは、そういう男だ」


第8話 「ヴェイクという男�V」完