「ねぇねぇ、やっぱり熱あるよぉ。」 金髪の少女フリージアはユウの額に手をあてた。 「はぁ?俺が風邪なんかひくわけな…ゴホッゴホッ!」 「…風邪だな。」 カインは窓の外を見ながら低い声で言った。 「大雨の中を走って帰れば風邪もひくだろう。」 雨の音が聞こえるほど、その部屋は静かだった。 「待ってて。今すぐ冷たいタオルを持ってくる!」 この日、いつも元気なユウ・スティンが風邪をひいた。 「ユウしゃん、これ見て見てダニ〜!」 嬉しそうな声をあげてルカが部屋に入ってきた。 「あ…。今ユウは寝てるから静かにね。」 ルカはそっとユウに近づいて顔をのぞき込んだ。 病気になったことのないルカは不思議そうに首をかしげた。 「ユウしゃん、悪い夢でも見てるダニか?」 「大丈夫。すぐ元気になるよ。」 フリージアは冷たくしぼったタオルをユウの額に乗せた。 「ルカ、きれいな花だな。」 カインはルカをそっと抱き上げて頭を優しくなでた。 薄いピンク色の毛が少しだけ濡れていた。 「あれ…その花、確か見つけたら幸せになれるっていう花よね?」 そう。この花は古くから色々な伝説が残っている奇跡の花。 名前は“ワイルドストロベリー”という。 「その花なら俺も知っている。かなりレアな花だ。」 「なかなか見つけられない花なのによく見つけたね、ルカ。」 ルカはちょっとテレたように笑った。 「偶然、この町で見つけたダニよ。」 「でも雨の中、探してたらユウみたいに風邪ひいちょうよ?」 フリージアはそばにあったタオルでルカを拭いた。 「本当に嬉しそうだな、ルカ。」 「もちろんダニ!この花にお願いをするダニ♪」 ルカはタオルにくるまって笑った。 「ふふっ。何をお願いするの?」 「いっぱいの魚をお願いするダニよ!」 「それは楽しみだな。」 「んん…ん…」 「あっ!!ユウ、少しは楽になった?」 フリージア、カイン、そしてルカがユウの顔をのぞき込んだ。 「…っ!ルカッ!!今すぐ部屋から出て行けっ!!!」 突然、ユウは額のタオルを振り落として大声をあげた。 ルカはその声に驚いてうっすらと目に涙をためた。 「…な、何でダニか?」 ふるえる声で言った。 「ちょっとユウ、どうしちゃったのよ?」 フリージアもカインも驚いた表情でユウを見た。 「いいから今すぐ出て行けっ!ルカッ!」 ルカはその声から逃げるように部屋を後にした。 足音が聞えなくなったときユウは深いため息をついた。 「一体何だったんだ?ユウ。」 「ん?あぁ…ルカは聖魔だろ?」 窓から見える木を見つめてユウは言った。 「…聖魔が人間と暮すことはすごく大変なことなんだ。」 「そうだね。新鮮な空気じゃないと駄目だしね。」 「普段の生活でも体力がいるのに…俺の風邪がうつったら…」 ユウはそのまま続けることができなかった。 熱によって視界も定らなかったのだ。ユウの体力は限界だった。 「だからルカを部屋から追い出したのか。」 「でもあんな言い方じゃ傷ついてるよ!事情を話してくる!」 フリージアは慌てて部屋を出た。 「あっ…!ルカちゃん!!」 階段に座ってルカは大きな涙を流していた。 手には赤い“ワイルドストロベリー”の花。 「…ユウしゃんに元気をあげてくださいダニ。」 フリージアはルカに声をかけるのをやめて、そっと部屋に戻った。 「フリージア、ルカはいたか?」 「うん。いたよ。…でも大丈夫。」 「え?」 「うん。この2人は私たちが思ってるより強いね…。」 フリージアはゆっくりと窓を開けた。 すると心地よい風が部屋に入ってきた。 もうすぐ春が来る。それはユウとルカが出会った季節。 |