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第6話「ワイルドストロベリーに込めた願い」 ぷち/著


「ねぇねぇ、やっぱり熱あるよぉ。」
金髪の少女フリージアはユウの額に手をあてた。
「はぁ?俺が風邪なんかひくわけな…ゴホッゴホッ!」
「…風邪だな。」
カインは窓の外を見ながら低い声で言った。
「大雨の中を走って帰れば風邪もひくだろう。」
雨の音が聞こえるほど、その部屋は静かだった。
「待ってて。今すぐ冷たいタオルを持ってくる!」

この日、いつも元気なユウ・スティンが風邪をひいた。

「ユウしゃん、これ見て見てダニ〜!」
嬉しそうな声をあげてルカが部屋に入ってきた。
「あ…。今ユウは寝てるから静かにね。」
ルカはそっとユウに近づいて顔をのぞき込んだ。
病気になったことのないルカは不思議そうに首をかしげた。
「ユウしゃん、悪い夢でも見てるダニか?」
「大丈夫。すぐ元気になるよ。」
フリージアは冷たくしぼったタオルをユウの額に乗せた。
「ルカ、きれいな花だな。」
カインはルカをそっと抱き上げて頭を優しくなでた。
薄いピンク色の毛が少しだけ濡れていた。
「あれ…その花、確か見つけたら幸せになれるっていう花よね?」
そう。この花は古くから色々な伝説が残っている奇跡の花。
名前は“ワイルドストロベリー”という。

「その花なら俺も知っている。かなりレアな花だ。」
「なかなか見つけられない花なのによく見つけたね、ルカ。」
ルカはちょっとテレたように笑った。
「偶然、この町で見つけたダニよ。」
「でも雨の中、探してたらユウみたいに風邪ひいちょうよ?」
フリージアはそばにあったタオルでルカを拭いた。
「本当に嬉しそうだな、ルカ。」
「もちろんダニ!この花にお願いをするダニ♪」
ルカはタオルにくるまって笑った。
「ふふっ。何をお願いするの?」
「いっぱいの魚をお願いするダニよ!」
「それは楽しみだな。」

「んん…ん…」
「あっ!!ユウ、少しは楽になった?」
フリージア、カイン、そしてルカがユウの顔をのぞき込んだ。
「…っ!ルカッ!!今すぐ部屋から出て行けっ!!!」
突然、ユウは額のタオルを振り落として大声をあげた。
ルカはその声に驚いてうっすらと目に涙をためた。
「…な、何でダニか?」
ふるえる声で言った。
「ちょっとユウ、どうしちゃったのよ?」
フリージアもカインも驚いた表情でユウを見た。
「いいから今すぐ出て行けっ!ルカッ!」
ルカはその声から逃げるように部屋を後にした。

足音が聞えなくなったときユウは深いため息をついた。
「一体何だったんだ?ユウ。」
「ん?あぁ…ルカは聖魔だろ?」
窓から見える木を見つめてユウは言った。
「…聖魔が人間と暮すことはすごく大変なことなんだ。」
「そうだね。新鮮な空気じゃないと駄目だしね。」
「普段の生活でも体力がいるのに…俺の風邪がうつったら…」
ユウはそのまま続けることができなかった。
熱によって視界も定らなかったのだ。ユウの体力は限界だった。
「だからルカを部屋から追い出したのか。」
「でもあんな言い方じゃ傷ついてるよ!事情を話してくる!」
フリージアは慌てて部屋を出た。

「あっ…!ルカちゃん!!」
階段に座ってルカは大きな涙を流していた。
手には赤い“ワイルドストロベリー”の花。
「…ユウしゃんに元気をあげてくださいダニ。」
フリージアはルカに声をかけるのをやめて、そっと部屋に戻った。
「フリージア、ルカはいたか?」
「うん。いたよ。…でも大丈夫。」
「え?」
「うん。この2人は私たちが思ってるより強いね…。」
フリージアはゆっくりと窓を開けた。
すると心地よい風が部屋に入ってきた。
もうすぐ春が来る。それはユウとルカが出会った季節。


第6話 「ワイルドストロベリーに込めた願い」完