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第5話「ヴェイクという男」


聖ヘレンズ城の2Fにあるテラスで、長髪の男が物思いにふけっている。
銀髪のその男は聖ヘレンズ四大将軍の1人、シェイド・ハーベルトである。
傍にいたショートカットの髪型をした女性が、シェイドに話しかけた。
彼女の名はサーラ。シェイドの部下である。
「シェイド様、思い詰めた顔をしていらっしゃいますね」
「・・・そう見えるか?」
シェイドはその女性の顔を見ることもなく、空を見上げながら答えた。
「はい。いつものシェイド様とは違う表情をなさってますよ」
「ふ・・・そうか」
「ある男のことを考えていた」
サーラは不思議そうにシェイドを見た。
「ある男というのは?」
「ヴェイク。ヴェイク・ジェイルという男だ」
少なくとも、サーラはヴェイクという男は記憶にはない。
それもそのはずである。彼女は最近この城の兵士になったばかりなのだから。
まだサーラは15の年齢。その若さで聖ヘレンズ国四大将軍の中でも最強を誇る
シェイド・ハーベルトの下につけたことは、彼女にとっては最大の幸せであった。
「ヴェイクという人は、シェイド将軍とは・・・」
サーラは恐る恐るヴェイクという人物について聞き出そうとした。
その理由として、まずシェイドは他人にはあまり関心をもたないことが挙げられる。
そのシェイドが他人のことを思うことは、本当に珍しいことであった。
サーラも今日、初めてシェイドが他人のことを口に出したのを聞いたため、
未だに驚きを隠せないでいるし、またそのヴェイクという人物に興味をもった。
「・・・。」
「ヴェイクは・・・聖ヘレンズ国将軍だった」
「え!?」
まさに衝撃の事実である。
聖ヘレンズ国将軍は、シェイドの他にはユウ将軍、リナ将軍、そしてカイン将軍しか
いないものと思っていたからだ。
まさか将軍が5人いたなどという話は、誰からも聞かされてはいない。
「将軍は5人いたのですね・・・」
「いや、それは違うな。奴が将軍の地位を返上した後で、
カインが将軍となった。人数自体は何も変わってはいない」
シェイドはそう言うと傍に置いたマントを羽織り、その場を立ち去ろうとした。
「ワインでも飲んでくる」
「シェイド様、お待ち下さい。私もお供します」
サーラはシェイドの後に続いた。
私もヴェイクという人のように、シェイド様の記憶に残る女になりたい。
そういう願いを込めて、新たな決意を胸にしまい込んだ。
シェイドは微かな微笑みを残し、ふと囁いた(ささやいた)。
「ヴェイク・・・俺にも、守りたい者が現れたようだ」


第5話 「ヴェイクという男」完