…これはルカがまだ子猫だった頃のお話。 「ルカしゃん、ルカしゃん!こっちに木苺があるデシ!」 ベージュ色の大きな耳をした子猫が木陰から顔を出した。 「とっても美味しそうダニ!木苺も持って帰るダニ。」 ヨタヨタと歩くルカの両手は、既に木の実や果物でいっぱいだった。 この2匹の子猫は、この森に住む仲の良い兄弟である。 ルカとテイルはいつものように森に遊びに来ていた。 「……?今、何か聞こえたダニ。」 後ろを振り向いて、静かに森の奥を見つめた。 「ちょっと見て来るダニ!」 ルカは抱えていた果物をその場に置いて、森の奥へと走って行った。 すると、遠くから人間の話し声が聞こえて来た。 「我々にとって聖魔の存在は邪魔だな…。」 「特に火の属性は危険だ。この森ごと滅ぼす必要があるだろう。」 話していたのは黒いマントをまとった背の高い男2人だった。 「た、大変ダニ…早く皆に知らせないとこの森が…。」 ルカは慌ててテイルのもとへ戻ろうとした。そのとき… 「誰だっ!!」 黒いマントをひるがえし、男はルカの元へ近づいて来た。 「おやおや…子猫ちゃん。今の話、聞いたかな?」 男は冷ややかに笑みを浮かべ、そっと剣を抜いた。 そのとき、ルカのすぐ後ろで幼い人間の声がした。 「父さん、猫だ!猫がいるよ!」 「本当だ。どれどれ迷子の聖魔かな?」 少年は震えているルカを抱き上げた。 「やっぱり迷子みたい。こんなに震えてる…。」 黒いマントの男は、そっと剣を戻しながら言った。 「悪いがその猫を返してもらおうか…。」 「…嫌だ。こんなに震えてるじゃないか!お前を怖がってる!」 とっさに少年はルカを背中に隠した。 「…ほぅ。話の分からない坊やだな。」 黒いマントの男は一瞬の早さで剣を抜いた。 矛先はまさしくルカと銀髪の少年だった。 少年は思わず目を閉じた。殺される………っ。 そう思った瞬間、父親の大きな体に包まれた。 「父さんっ!!!?」 息子をかばった父親の背中は深く切り裂かれた。 真っ赤な温かい血がルカの顔にしたたり落ちた。 「ばかなマネを…。」 「…おい、聖魔たちが気づき始めた。騒ぎを大きくするな。」 少し離れた場所に立って様子を見ていたもう1人の男が口を開いた。 「ちっ…。」 黒いマントの男は足早に森を去って行った。 「父さん…ごめん。ごめんなさい…。」 「何故、謝る…お前は聖魔を守ったんだ。謝ることはない。」 「………父さん。」 その後、父親が口を開くことはなかった…。 「ルカしゃん!探したデシよ!!」 しばらくしてテイルがルカを見つけ出した。 ルカは森中に響くくらい大きな声で泣き出した。 テイルは手に持っていた木苺をルカに渡した。 「ち…ちゃんとルカしゃんの分もあるデシよっ!?」 父親を失った少年は何かを考えるように遠くを見ていた。 涙を我慢するように何度も空を見上げていた。 それがボクとユウしゃんの出会い…。 ボクはずっとユウしゃんのそばにいるダニ。 恩返しが出来るその日まで…。 |