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第1話「いつかきっとどこかで」


「今朝は特に冷え込むのぉ・・・」
老人はそうつぶやきながら、手にしていた一杯のコーヒーを全部飲み干した。
彼の名はザクソン・ラスターという。
ヴィッツア大陸において、年中雪の降り積もる唯一の地方グランドパレス。
その地方のちょうど南に小さな村スノースリーブスがあり、彼はそこの村長である。
「ほんと、まだ夏なのにね・・・」
横にいた20歳くらいに見える女性が、ため息混じりにその老人に同意した。
彼女の名はカトレア・ラスター。この老人の孫にあたる。
「はい、朝食の用意ができたよ」
そういうと、朝食メニューとは思えない豪華な料理をテーブルにそっと置いた。
「おぉ、いつもすまんのぉ・・・カトレアよ」
「今日はビビンバステーキを作ってみたの♪」
かなりの辛さを誇るビビンバステーキは、この老人の大好物である。
特にカトレアは、村で一番料理が得意なことで有名であり、
その料理を食べるために、この家に多くの人が集まってくるほどの腕である。
「ふあぁぁ・・・おはよー」
まもなくして、眠たそうな目で金髪の少女が2階から降りてきた。
「おはよ、フリージア」
フリージアと呼ばれた少女は、テーブルの上に置かれた料理を見るとすぐに席についた。
「お姉ちゃん、今日のご飯はビビンバステーキなの!?やったぁ!」
「ふふ、まず顔を洗ってらっしゃい。ご飯はそれからよ」
「はぁーい」
この家には祖父ザクソンとカトレア、そしてフリージアの3人しか住んでいない。
2人の両親は彼女たちが幼い頃に他界したと、ザクソンから知らされている。
両親亡き今は、カトレアが母親の役目を果たしている。
「それじゃいっただきまーす」
「もぐもぐ・・・うん、やっぱりお姉ちゃんの作る料理はおいしいね♪」
「ありがと。おかわりはまだあるからね」
食事を一通り終えると、老人は一冊の本を手に取り読み始めた。
「ねぇ、何の本を読んでるの?」
すぐさまフリージアが興味津々でその老人に訪ねた。
「ふぉふぉ・・・これか?これはのぉ」
そういうと老人は本を強く胸に抱きかかえ、胸中にある秘めたる想いを熱く語り出した。
「ロブソン・G・マンダム作、"ボクと給食"という本じゃよ」
「この本は全部で10巻まで発売されておってな。これはその3巻目じゃ」
「ワシはこの人の大ファンでな。集めておるのじゃが、なかなか手に入らなくての」
「・・・じゃが、いつかきっと、どこかで必ず全巻集めてみせるわい」
老人はガッツポーズをとりながら立ち上がり、一言こう叫んだ。
「給食を制する者は世界を制す!」

この時、15分ほど沈黙が続いたとか続かなかったとか・・・。
その後その場から2人がすぐさま立ち去ったというのは、もはや言うまでもない。
それは雪の降り積もる肌寒い夏の朝。
老人の叫び声だけが、穏やかな村中に空しく鳴り響いた。


第1話 「刻の邂逅〜いつかきっと、どこかで〜」完