ガイア歴1658年。 魔族の襲撃により焼け落ちた聖ヘレンズ帝国……。 血の聖戦……あれから半年の月日が流れ、 城下町では町民達の熱意ある活動によって、聖ヘレンズ帝国は徐々に復活の兆しをみせていた。 聖ヘレンズ帝国国王ブレイドV世が魔将軍ラーハルトの陰謀により暗殺されてから、 しばらく王不在の状態が続いていたが、その3ヶ月後には将軍の地位をもつ シェイド・ハーベルトが全兵士、そして町民の意志により王の座に即位した。 「サーラ……。私は、明日この城を出ようと思っている」 「はい……シェイド様。いよいよ出発なさるのですね」 「あぁ。奴等が待っている」 そう告げると、国王シェイドはかつての部下に愛用の剣を渡した。 大剣ともいえるその重い剣は、ガイア世界における7大聖剣のひとつでもある。 「聖剣ドラゴンズ・アイ?」 「それはお前が持っていてくれ」 「私が……ですか?でもシェイド様……」 「心配は無用だ。私にはこの聖剣ファルコンがある」 「カイン様の剣ですね……」 「そうだ。この剣にはジェラルド師、そしてヴェイクの意志も込められている。 この先、必ず私を導いてくれるはずだ。……必ずな」 「……わかりました。それではこの剣は、私がお預り致します」 「頼んだ……サーラ」 翌朝、シェイドは聖ヘレンズ城を後にし、北のレモリア大陸へと旅立った。 先に大陸へと向かった聖ヘレンズ帝国将軍ユウ・スティン、そしてその兄ルイ・スティンを追うために。 レモリア大陸のとある地域。 スティン兄弟はある人物を捜すため、この大陸に訪れていた。 レモリア大陸は精霊術士の住む大陸でもあり、彼ら2人が捜しているのもまたそれであった。 半年前の戦いで、魔族との圧倒的実力の差に敗北を喫した聖ヘレンズ国将軍達は、 己の実力のなさに不甲斐なさを感じつつも、 非業なる死を遂げたカイン・ヴァンス将軍の意志を受け継ぐために、新たなる旅立ちを決意した。 魔族に対抗するには剣だけでは勝てないと悟り、 精霊の力を自在に操るといわれる大精霊術士を求め、 この地に降り立ったわけである。 「おいルイ兄!こんな薄気味悪い森に、大精霊術士とやらが本当にいるのかよ?」 「あぁ、間違いない。DCC支部による有力な情報だ」 DCCとは、今は亡きディアを筆頭とした異教徒の集まりであり、また反帝国集団でもある。 人々から嘆きの塔と恐れられた、異教徒処刑場バプテスマの塔にてディアは戦死を遂げたが、 彼女が死してもなおその意志だけは部下達に受け継がれ、DCCはその勢力を拡大していた。 「!ユウ!後ろへ下がれ!」 「なっ!?突然どうしたんだ!?」 ユウの背後から、見た目はワニような鋭い牙を持った巨大な魔物が姿を現せた。 「おっとぉ、なんだこいつは!?……1つ目のワニ?見たことねぇぞ」 「魔獣バジリスクだ!石化に気をつけろ!」 「かーっ!特殊攻撃をしてくる奴は嫌いだ!さて・・・と、逃げるか」 「ユウ、お前は下がっていろ。ここは俺に任せておけ」 「おう、頼んだ!俺はここで、ばっちり見守っていてやるからよ!」 ルイは手にしていた剣を握りしめ、今まさに襲いかかろうとしている目前の相手に集中した。 1つ目の化物は巨大な体に反した俊敏な動きで、即座にルイの背後に回り毒液を吹きかけた。 「ちぃっ!」 「ルイ兄!大丈夫か!よーし、しょうがねぇ、ここは俺が!」 「問題ない……かすり傷だ」 ルイは攻撃態勢に入ったユウを差し止め、再び剣を構えた。 ユウも兄の気持ちを察したのか、一度抜いた剣を鞘に収めた。 「闇剣ディアボロスに敗北の意志はない……」 そして一呼吸おき、バジリスクとの間合いを詰めた。 バジリスクもまたルイとの間合いを詰め、お互いに攻撃が届く距離にまでなった。 「闇の翼に包まれろ!!」 ルイの奥義・死闇翼が相手を死の淵へと誘(いざな)う。 ……がしかし、その破壊力は大地をも揺るがすものであったが、 この魔獣相手には、たとえ奥義であろうとも致命傷にすらならなかった。 「ルイ兄の攻撃が効かない……のか!?まさか闇属性の耐性を!?」 そう思った瞬間、どこからか呪文のような声が辺りに響いた。 「汝が司りし破壊の衝動を解放し、その全てを我に委ねよ! 爆炎を纏い出でよ、イフリート!!」 青年の声が止むと空が曇り、炎の精霊が時空の狭間よりその姿を露にした。 イフリート。ガイア世界における四大精霊の1人で、炎の精霊である。 イフリートは獄炎ともいえる威力の炎でバジリスクを焼け包み、息の根を止めた。 「助かったよ、イフリート。だが、ちょっと力を使い過ぎたみたいだな」 「ふ……生憎(あいにく)、手加減など知らぬものでな……」 青年はその精霊に礼を言い終わると、ユウ達の元に歩み寄った。 ユウたちにとって精霊を見るのは初めてではない。 だがイフリートと会話している者を見るのは、初めてのことであった。 「精霊と……会話だって?お前は!?」 突然彼等の目の前に現れたその青年、髪は黒色で歳は17、8に見える。 顔立ちは幼く、優しい表情をしている。 「よっ、危ないとこだったな。まさかあんな場所でバジリスクが出るなんて、 あんた達よっぽどツイてないね」 「さっき精霊を喚んだな。お前、精霊術士か?」 「ん?あぁ。まぁ、そんなものだ。俺はレヴィン・アルナム。よろしく」 「俺はルイ・スティン、こいつは俺の弟ユウだ」 「えーと……ルイ・スティンとユウ・スティンね。ふむふむ。 でも兄弟揃ってこんな森まで訪れるなんて、あんた達結構もの好きだな……」 (……妙だな。こいつ、聖ヘレンズ帝国将軍ユウ・スティンの名を知らないのか。 それに……あの剣はまさか……) ルイは少し疑問を抱きつつ、この青年の持っている剣を見た。 「おい。その剣はまさか、せ……」 ルイが言いかけたその時、後ろから彼を呼ぶ大声がした。 「レヴィーーーーーーーン!!」 「んあ?あー……。ザリアか……。あいつのことすっかり忘れてた」 「あーいたいた。先に行かないでって、いつも言ってるでしょ! まったくレモリア大陸まで来て迷子なんてシャレにもなんないわよ……って、 あれ?貴方は……ユウ様……ですよね?」 ザリアという名の女性は赤い髪で、歳もレヴィンと同じくらい。 見た目も性格も活発で、さしずめユウの女版といったところか。 彼女は聖ヘレンズ帝国元博士であるブラウンの孫娘でもある。 当然博士の孫娘であるザリアは、国の将軍であるユウのことを知っていた。 そして傍らにいる精霊を召還したこのレヴィンという青年こそ、 かつての英雄リュナン・アルナムの子孫であることを、まだユウ達は知る由もなかった。 この出会いが、やがて彼等の運命を大きく変えていくことになる。 ユウ達が彼等と出会うのは、もう少し先の話……。 ……全ては、因果律の輪の中で動く。 それらは決して変えることのできないものである。 決して……。 |