◆After The Blue Tears 〜バンガーズのその後〜◆ 1、バンガードの章 話は、バンガードの家をルークが訪ねたことから始まった。 別にルークの来訪自体は珍しいことではなかった。 ルークは妹のイルミナがバンガードと付き合うことを未だに認めようとしていなかったため、二人がルークに内緒でデートしたことが発覚するたびにバンガードの家へ押し掛けてきていた。 いつもと違うのは、ルークは真剣な表情で、しかもレモリア王国上級兵数名を引き連れての公式訪問であったことだ。 ルーク聖剣B.T.盗難の件で一時は降格処分を受けたものの、実力は揺るぎなく、すぐ上級兵トップの地位を取り戻した。 そのルークが格式を整えていちハンターを公式訪問するなど、その一事を取っても非常なことであった。 バンガードは平静を保ちながら家に招き入れたものの、思わず表情が硬くなった。 「ど、どうぞ………ちゃ、茶でも入れてくるぜ。」 「構わん。それより早く話をしたい。かけてくれ。」 「あ、ああ………」 「さて、どこから話したものか………」 ルークも少し言い辛いらしく、暫し沈黙が流れた。 バンガードは緊張してはいたが、いつも自分の家に激昂して押し掛けてくるルークとは雰囲気が違ったため、普段切り出せない話ができないかと助平心が働いた。 「ルークさん……オレ、イルミナさんのこと……」 「そうか、ではその話からしよう。実はオレも、お前とイルミナのことを認めようと思っている。」 「えっ………!?」 ルークの意外な発言に、バンガードはかえって動揺した。 「兄として妹を他の男に譲りたくないという気持ちは確かにあるが、最後にはイルミナが自分の好きな男と結ばれるべきだというのはわかっている。」 「そ、それじゃあ………」 「ただし、一つ問題がある。お前は結婚した後もハンターを続ける気か?」 「もちろんだぜ。ハンターは俺の天職だ。」 「お前はいいとしても、イルミナはどうなる?ハンターは危険な職業だ。  お前に万一のことがあれば、二人……いや、最悪の場合、残されたイルミナは生活できるのか?」 「うっ………それは………」 バンガードにとっては耳の痛い話であった。 ハンターは依頼が成功すれば報酬は大きいが、失敗すれば全くの無収入となる。 しかも生活保障も年金もない。 民間の保険に加入しているハンターもいるが、生活保障とは程遠い。 「バンガード、職業に貴賎はない。ハンターを悪い仕事とは言わん。  だが結婚し、子供を持ち、家庭を作るとなると、相応の責任を負わなければならない。  ハンターのまま、それができるか?」 「そんなこと言われても………」 「いや、すまない。お前を問い詰めるつもりはないんだ。本題に入ろう。おい!」 「はっ。」 ルークの指示で、上級兵の一人が文書を取りだした。 「レモリア王のお言葉です。  ギルドハンターバンガーズのシオン様、ティナ様、及びバンガード様を、王宮兵として招聘したいとのことです。  バンガード様には上級兵の地位を用意してあります。」 「お、俺が王国兵に!それも上級兵っ………」 「そうゆうことだ。王国兵になれば収入は増えるし、保険も年金も整備されている。  王宮に入るのなら、無条件でイルミナとの結婚を前提とした交際を認めよう。  無論、ハンターを続ける気でも認めないとは言わないが、イルミナを安心して任せられる相応の証拠を見せてもらう。」 「俺みたいな学のない奴が王宮に入っちまっていいのかよ!だいたい俺は剣士じゃねえ。」 「今は魔族との決戦を控え、優秀な戦力は一人でもほしい時期だ。  それに、お前は学はないとはいえ、天性のリーダーシップを備えている。  上級兵はおろか将軍候補にすらしたいくらいだ。  また、剣士だと拳闘士だのはそれこそナンセンスな話だ。実力があれば戦闘形態など問わぬ。  その実力も俺のみならず、かの聖ヘレンズ国シェイド公まで認めているのだからな。」 「あんたが俺達を評価してくれているのはありがてえ。  だけど俺は今の仕事が気に入っている。それに………実は俺………」 「ディーンくんのことか?」 「知ってたのか!?」 ディーンとは、バンガードの弟のような存在であったが、レモリア国に仕官した後、若くして死んでしまった。 そのディーンをルークが知っているとは、これもバンガードにとっては意外な話であった。 「オレは勇敢な戦士を見落としたりはしない。ディーンくんは未熟ではあったが、勇敢だった。  彼が死ぬ前に庇った仲間は、今でも王国のために働いている。  彼の死は無駄ではなかったと思っている。これはグレイス将軍も同じ考えだ。」 バンガードは、心の霧が晴れたようだった。 ディーンを評価してくれていることを知り、心のどこかにあったレモリア王国へのわだかまりが解けた。 「オレが言いたいことはこれだけだ。  あとはそうだな………お前たちも少し言ってやれ。」 ルークは後ろにいた上級兵に説得を任せた。 「バンガード殿。公務員というのも悪いものではありません。国民みんなのために働くというのも、やりがいのある仕事ですよ。」 「うーーん。」 「それに堅苦しく考えることもありません。王国兵とはいえ人間ですから、お酒やギャンブルも今まで通り楽しんでいただいて構いません。」 「うーーん。」 「あとはそうですね………王国兵にあこがれている人は多いですから女性にももてますよ。」 「おおーー!いいなそれ!」 「バンガード!!貴様っ………!!」 「じょ………冗談ですって、ルークさん!王国兵の魅力はよーっくわかりましたが、まだ心の準備ができておりません。  少し考えさせてくださいです!」 「お前の敬語ほど気味の悪いものはないが………確かにこちらも即答を期待しているわけではない。  一両日中にまた答えを聞きにくる。それまでに考えておくんだな。  いいか!イルミナを任せるからにはそれ相応の人物であることを示せよ!」 「は………はいっ!」 2、シオンの章 ルークと別れてから、バンガードはすぐシオンとティナに連絡を取り、翌日には集合した。 場所はバンガーズの事務所、聖剣B.T.の依頼の当時シオンの家だった場所である。 今はシオンとティナは新しい家で暮らしている。 「ようシオン………っと、ティナはどうした。」 「ティナはちょっと………体調が悪くて。」 「そうか、悪かったなそんな時に呼び出して。病気か?」 「いや………それより、バンガードの話を聞きたい。」 「おう!実はかくかくしかじかで………」 バンガードは前日にルークから聞いた話をシオンにした。 王国兵に招聘されたこと。生活保障のこと。そしてイルミナのこと。 「いい話じゃないか。」 「へ?」 「バンガードは王国兵になれる上にイルミナとの間も認めてもらえるんだろ?  バンガードにとってはこの上なくいい話じゃないか。」 「………シオン、お前はどうする気だ?」 「僕?僕は今更王国兵になる気はない。ハンターを続けるさ。」 「おいおい、ハンターチームの登録人数が3人なことを忘れたわけじゃないだろ。オレがいなければバンガーズは解散だぜ。」 「問題ない………僕にとってはバンガーズ結成の前に戻るだけだ。」 「バンガーズがなくなっちまって、シオンは寂しくねえのかよ!」 「些細なことだ………僕には………関係ない。」 シオンは顔を背けた。 「シオン、お前何か隠してるだろ?」 「なっ………」 「図星だろ?わかってるんだぜ、お前が嘘を付くとき冷たくなる癖。」 「そんな………僕は………」 「しらばっくれるな。何ならティナに聞いてもいいんだぜ。」 「………わかった。本当のことを言おう。」 「そうこなくっちゃ!」 「実は………」 シオンの口から、重大な事実が明らかにされた。 「妊娠だとっ!ってことはつまり………」 「ああ………僕とティナの間に子供ができたんだ。」 「何だ、めでたい話じゃねえか。」 「………だが子供が産まれてティナが復帰できるまで1年近くかかる。その間、ティナに戦わせるわけにはいかない。」 「ならなおのこと俺が抜けるわけにはいかないだろ?シオン一人でティナと子供を養っていくのは大変じゃないか。」 「馬鹿言わないでくれ!これは僕とティナの問題だ。君に面倒をかけるわけにはいかない。  それにティナが抜ければ正規のハンターですらいられなくなる。そうなれば、君とイルミナの関係がルークさんに認められることはまずないだろう。」 「ぐっ………だ、だが仲間を見捨てるわけにはいかねえよ!俺はハンターを続ける!」 「そうなんだ………仲間を見捨てるわけにはいかない………」 「当然だろ。それがどうかしたのか?」 「ティナもなんだ………」 「え?」 「ティナも身重の体でハンターを続けると言い張ってるんだ。バンガーズを解散させるわけにはいかないと言って………」 「ば………馬鹿っ!妊婦にとってハンターがどんなに危険な職業だと思ってるんだ!」 「だから………バンガードがハンターをやめると言えばティナも諦めがつくはずだ。  ハンターは僕一人で続ける。いい機会だから、バンガードには王国兵になってほしい。」 「ああ〜難しい話ばっかりで頭がいかれそうだぜ!!」 バンガードは突然立ち上がった。 「待てバンガード、どこへ行く気だ!?」 「ティナのところだ!俺が直接説得してやるぜ!!シオンも来い!!」 3、ティナの章 バンガードは、シオンとティナの家に駆け込んだ。 「ティナッ!」 「あ、バンガード………ごめんね今日は行けなくて。」 ティナはベットの上に横たわっていた。つわりが酷いのか、顔色は悪い。 「そんなことどうでもいいぜ。それより妊娠したって本当か!?」 「………うん。ごめんね、今はつわりが酷いけど、すぐに仕事に戻るから。」 「馬鹿!何言ってるんだよ!妊娠中に仕事のことなんて考えるなってえの!  仕事のことは俺とシオンに任せて、ティナは子供が産まれるまで休め!」 「それこそ何言ってるのよ。私がいなくなったらバンガーズは解散じゃない。そんなことできないよ。」 「バンガーズにこだわる必要はねえさ。オレもシオンもハンターが続けられればいいと考えている。  バンガーズはティナが復帰してから再結成すればいいさ。」 「でも………」 「ティナ、僕たちは王国兵に招聘されている。ティナがどうしても僕たち二人に任せるのが不安なら、僕はこの要請を受けようと思う。」 「えっ!王国兵になる気!?」 「僕はハンターを続けたかったが、王国兵をやった方が収入は安定する。これならティナも安心だろ。」 「私はそんなつもりじゃ………ただ、バンガーズがなくなるのが嫌で………」 「悪いが、身重のティナを戦いに出す気はない。諦めてほしい。」 「ずるいよシオン、こんなときだけ冷たいなんて………」 バンガードの見る限り、ティナを突き放したシオン自身も辛そうであった。 「それならよ、何か手を考えようぜ。」 「手って?」 「例えばよ………ティナが休んでいる間だけ、誰かに代役を頼むとか。」 「そんな虫のいい話、あるわけないだろ。一時的にハンターに所属してもらうなんて………」 「やってみなくちゃわからねえぜ!当たって砕けろだ!少なくともルークさんの要請を受ける前に試しても遅くはないぜ。」 「まったく………君が言うと変に希望が持てるから性質が悪いよ。」 「それは誉めてるのか?けなしてるのか?」 「両方さ。」 「ちぇっ………まあ、とにかくやってみようぜ。ティナもそれでいいか?」 「うん………バンガーズが残るなら、それが一番いいと思う。知らない人が私の代わりになるのはちょっと悔しいけど………」 「心配するなって。俺が最高の奴を選んできてやるよ。」 「また君は無責任な約束を増やして………」 「よ〜し、それじゃあまずはギルドへGOだ!」 (ガチャッ………) 「キャッ!」 「うおっ!!」 バンガードが勢いよく扉を開けると、そこにいたのはバンガードの彼女で、ルークの妹のイルミナ=スレインであった。 4、イルミナの章 思いもかけぬ人物の登場に、皆言葉を失ったが、まず口を開いたのはシオンであった。 「イルミナ………聞いてたのか?今の話………」 「うん………ごめんね、盗み聞きするつもりはなかったんだ。 ただ、前まで来たら耳に入って………  あ、それから昨日のお兄ちゃんとバンガードの話も全部知ってるよ。お兄ちゃんから聞き出したの。」 「そ………そうか………。」 バンガードは少し戸惑った。ティナのことで頭がいっぱいで、王国兵にならないとルークにイルミナとの関係を認めてもらえないことを忘れかけていたからだ。 「イ………イルミナ、俺がハンターを続けたいのは、ハンターが俺の天職だからであって、その………」 「バンガード!」 「は、はいっ!」 「まさかお兄ちゃんに何か言われたくらいで、ハンターをやめちゃったりしないわよね!」 「………え?」 「私はバンガードがハンターやって生き生きしているところが好きなんだからね!王国兵になったりしたら承知しないから!」 「イルミナ………サンキュ。」 「だけどイルミナ。身重のティナにハンターを続けさせるわけにはいかない。  代役が見つからなければ、王国兵になるのはやむを得ない………」 「だから、私がその代役になるわ!」 「え?」 イルミナは持っていた包みを開き、鎧と剣を取り出した。 「イルミナ………お前いつの間に剣なんか………」 「お母さんに習ったのよ。私のお母さんが昔王国兵で将軍候補だったこと、バンガードも知ってるでしょ?」 「あ………そう言えば………」 「しかし………技は使えるのか?」 「もちろんよ。」 イルミナは振り向くと、閃光を一振りして見せた。 「す………すごいじゃねえかイルミナ!これなら即戦力だぜ!シオンもいいか?」 「そうだな………」 シオンは戸棚に向かい、古い剣を一振り取り出した。 「これを振ってみてくれ。」 「これは………何て奇麗な剣………」 イルミナは、今度は近くにあった気に向かい閃光を放ち、見事に倒して見せた。 「それは光剣セラフィム。聖剣B.T.を探す依頼のときに見つけた。  それが手に合うようならちょうどいい。それはイルミナにあげるよ。」 「じゃあ………シオンさん!」 「ああ、認めよう。イルミナは今からバンガーズの一員だ。」 「ありがとう!!………でもいいの?こんなに貴重な剣を貰っちゃって。」 「僕にはメデューサや暗黒剣ナイトメアの方が合うみたいだ。光剣はイルミナの方が合うと思う。」 「よかったね、イルミナちゃん。そうだ!私からはこれをあげるよ。」 「これは………ワイルドストロベリー!」 「うん、女の子は何かとTPを使うことが多いからね。」 「ありがとうございます!ティナさん!」 「よおし、イルミナを加えたネオバンガーズ、発進だ!」 期待に胸ふくらませたバンガードの声は、大きくこだました。 5、ルークの章 バンガードはルークに答えを伝えるため、レモリア城下街まで来ていた。 「そうか………イルミナがな………あいつはそこまでお前のことを愛しているのか。」 「ルークさん!イルミナも協力してくれるなら、俺達は必ず幸せになれる!だから………」 「わかった。イルミナがそこまでお前の事を考えているのであれば、兄として何も言うまい。  二人の関係を認めよう。」 「本当か!?やったあ!」 「そうだ、記念に酒でも馳走してやろう。」 「おう、サンキュウ!」 「ついでにいい女もな。」 「おお〜やったぜ。どんな女なんだ?」 「………イルミナ以外に誰がいるんだ?」 「あ………」 「やはり貴様にイルミナは渡せん!」 「うわ〜!!ずるいですよ〜!!」 ◆投稿者のコメント◆ バンガードを中心に、ガイア世界の仕事の厳しさをリアルに描く、を目指してみました。 freejiaVの設定のいくつかを、伏線として利用しています ◆企画者のコメント◆ バンガーズのその後を描いた物語ですね。 イルミナがバンガーズに加わることで、存続が可能になって良かったです。 残る問題は、バンガードの女好きぐらいでしょうか。 彼とイルミナとの結婚は、まだまだ遠い未来のようですね。