聖ヘレンズ復興記1・ユウが王になれなかった理由 ガイア暦1658年……… 魔族の襲撃により焼け落ちた聖ヘレンズ帝国……… 聖ヘレンズ帝国国王ブレイドV世が魔将軍ラーハルトの陰謀により暗殺されてから、王不在の状態が続いていた。 しかし、城の内外から帝国再建を求める運動が高まり、それに伴い帝国将軍の地位を持つシェイド=ハーベルト、ユウ=スティンのどちらかが新王として即位すべきという声が町民から上がってきた。 上級兵1「シェイド様、ユウ様、帝国再建はもはや聖へレンズ国の総意とも言ってよいでしょう。一刻も早く新王を決定し、体制を築かねばなりません。」 シェイド「確かに、今後は魔族と人間の全面戦争も予想される。このまま混乱が続いては、我々聖ヘレンズ国が諸国の足を引っ張りかねないな。」 ユウ「シェイドが王になればいいじゃねえか。実力的には四大将軍でもピカ一なんだからよ。」 シェイド「いや……私は異教徒狩りの先陣に立ったことで、国民の信頼を大きく失っている。新王にはユウ、お前になってほしい。お前は多くの兵に慕われているしな。」 ユウ「そ、そうか〜!?オレが王になんてなったら大ブーイングが起きそうだぜ。」 シェイド「しかし……」 両者とも譲り合ってしまい、新王はなかなか決まらなかった。 このままでは埒が開かないと考えたか、上級兵の一人が恐縮そうに口を開いた。 上級兵2「ユウ将軍とシェイド将軍で、兵士や町民に投票を行わせてはいかがでしょうか?」 シェイド「うむ、それはよい考えだ。ユウもそれで構わんな?」 ユウ「ああ確かに。選挙で選ばれればお互いに納得できるだろうよ。」 新体制設立に向けての動きは迅速であった。 翌日に新王決定のための投票を行うことが告知され、三日後には城下街広場において両者の演説が行われた。 上級兵3「まずは、シェイド=ハーベルト将軍の演説です。」 シェイド「先の戦争で魔族の侵入を許し、此度聖ヘレンズ国の危機を招いてしまった責任は私にあると感じている。こんな私に王になる資格はない、新王にはユウ将軍が即位すべきと考えている。しかし………仮にこの私が王に選ばれた暁には命を賭してその責務を全うする覚悟だけはできている。」 『おぉおおおおお〜!!!』 上級兵3「続いて、ユウ=スティン将軍の演説です。」 ユウ「誰が王になるか!?そんなことはオレには関係ねえ!将軍だろうと王だろうと、オレがすることできることはたった一つ!この街に愛と愛と愛を振りまくだけだ!以上!!!」 『おおおおぉおぉお〜!!!!!』 演説が終わり、集まっていた町民も散り散りになった頃、ユウの周りには兵士数名が寄り添っていた。 兵1「ユウ将軍、見事な演説でした。」 ユウ「へっ、お世辞はよしてくれ。シェイドみたいに立派な演説はできねえからよ。」 兵1「いえ、本当に見事です。今日の演説で、新王にはユウ将軍が就任されると確信しました。」 ユウ「おいおいよしてくれって。シェイドに勝てるわけねえだろ。」 兵2「とんでもない。私も友人たちに聞いてみましたが、半分以上がユウ将軍に投票すると申しております。ユウ将軍は町民に慕われているのです。」 ユウ「そ……そうか!?その割には町民にバカにされてるみたいだが………」 兵3「それこそユウ将軍をお慕いしているからです。かつてラーハルトの批判をした者は数多くいましたが、ラーハルトを中傷したものはおりませんでした。ラーハルトが町民に慕われていなかったからです。」 ユウ「へ〜……ってことはマジでオレ人気あるの!?」 兵2「はい。私と同様に知人から下馬評を集めたものもおりますが、やはりユウ将軍を推すものが過半数でした。新王は、ユウ将軍のように明るい方がよい、と。」 シェイド「ふっ……ユウ、お前には敵わんな。」 ユウ「ぬあっ!……シェイド!」 シェイド「この者たちの言うとおりだ。……帝国を頼んだぞ……ユウ王。」 ユウ「へっ……へへっ……まだ投票も始まってないのに、気が早いっての。………しかしユウ王か……いい響きだぜ〜v」 さらに数日後、投票が行われ、即日開票により結果が出た。 上級兵1「ご報告します。投票の結果、新王はシェイド様に決まりました。」 ユウ「なにぃ!?間違ってんじゃねえのか!?」 上級兵1「そ、そう言われましても私には何とも………ただ約七割の票がシェイド様に入れられたほどの圧倒的大差ですから、間違えではないかと………」 ユウ「おいこら!兵2!お前の情報全っ然違うじゃねえか!?何が過半数だ!」 兵2「そ……それは……私が聞いたのは私の知人だけですから………」 ユウ「てめえのダチにはたまたまオレに肩入れする奴が多かったってか!?」 上級兵1「ユウ将軍、言葉遣いが荒れております………」 そのとき、ユウの部屋に廊下の噂話が聞こえてきた。 メイド1「やっぱりシェイド将軍でしたわね。」 女兵士1「ま、当然じゃない?」 メイド2「ユウ将軍のお部屋をお掃除するだけでも大変なのに、王になられて城中をあんなふうに散らかされてはたまりませんわ。」 女兵士2「それにユウ将軍って片目隠してて気持ち悪いしさ。」 メイド3「愛と愛と愛なんて、三回も言わなくて結構ですよね。」 女兵士3「私の友達は、全員シェイド様に投票したって言ってたわ。」 メイド4「女性でユウ将軍に投票された方は、いらっしゃらないのではないでしょうか?」 ガーーーーン!! ユウに9999の精神的ダメージ。 今日の運勢が2下がった 今日のおやつが5下がった 今日のやる気が35下がった この後、ユウが再び立ち上がるまで数日を要した。 ユウ「そうか………兵2………お前も女友達いなかったんだな………」 兵2「ユウ将軍もなんですね………」 ◆企画者のコメント◆ ユウが王になったら、どんな国になるんだろうと想像してしまいました。 明るい国にはなりそうですが、彼に統率はとれなさそうですね(笑 しかし、もしシェイドがいなければ、ユウが王になっていたでしょう。 ユウ王の物語も見てみたい気がしました。