*キャラ崩壊注意法発令!  この二次創作小説はあなたのキャライメージを崩壊させる恐れがあります。  キャラ崩壊上等ッ!という方以外は速やかに退去してください。         魔将軍バジルのカレーなる日常                            森カズヤ 「毎度、ありゃっしたー!」 おやっさんの景気のいい掛け声を背中に、俺は店を出た。 おやっさんの掛け声とは逆に、俺の周囲にはどんよりとしたオーラが漂っている。 「くっ・・・もうこれだけか・・・給料日もまだ先だってのに・・・。」 すっかり軽くなったサイフを見つめながら、重い足取りで帰路につく。 いつも辛気臭い曇り空で覆われている魔の大陸でも、 昼時になれば眩しい陽光が雲の間から差し込み大地を照らす。 魔の大陸に住む魔物は基本的に陽の光を嫌うモノがほとんどだが、 何故かこの場には多くの魔物が集まり、大きな行列をつくりあげていた。 そう、俺が先ほどまでいた店は、 <パンドランプのカレー地獄>という名の、毎日行列のできるカレー専門店。 店の名の通り、<地獄のような辛さがウリ>であり、 その辛さはフレイムリザードが口をタラコにして病院に運ばれるほどである。 職人気質なオヤジ、パンドランプの店には、 甘口カレーなどという惰弱なモノは存在しない。 あくまで地獄カレーのみにこだわり続けて早30年の老舗である。 そして、そんな無骨な頑固オヤジの地獄カレーに挑戦せんと、 今日も血気盛んな挑戦者で溢れ返っているという訳だ。 そんな頑固オヤジも、俺にだけは不気味なほどの満面の笑顔を向ける。 それはこの俺様が、泣く子も殺す魔将軍最強のバジル様だから! ・・・では残念ながらない。その理由は・・・。 「ぐー。」 ・・・こいつである。 緑色の美しい体毛に覆われ、大きな長い耳を持ち、 額にルビーのような宝石が埋め込まれている魔獣<カーバンクル>だ。 この魔獣使いバジル様の手駒であり、石化の魔眼を持つ強力な魔獣。 俺様に相応しい強さと美しさを兼ね備えた魔獣だが、その最大の弱点がこれである。 「ぐ、ぐー!」 激しく耳をピコピコ動かしている。憤慨の意思を示しているようだ。 「何?今日はお昼のカレーが50杯しか食べられなかったって?  ・・・すまん、いつものペースで80杯食べられたら、  来週から文字通り道草食っていかなきゃならなくなる・・・。」 朝は120杯、昼は80杯、夜は200杯・・・。 朝、昼、晩と地獄カレーを腹いっぱいに食べさせなければ、 カーバンクルはすぐに不機嫌になってしまうのだ。 カーバンクルは翡翠石のコントロール下にある。 しかし、翡翠石は万能ではない。 対象の精神を自分の精神で塗りつぶすには、 自分の精神の力が相手の精神の力を上回っていなければならない。 たとえ洗脳できたとしても、 相手が本心で望まない命令ほど精神の抵抗が強くなるため、実行させるのは難しい。 さらに、精神とは切り離されたモノである、 本能や集合的無意識による影響はコントロールできない。 このように翡翠石は、 手に入れたからといって簡単に扱えるようなシロモノではないのだ。 だからこそ、その翡翠石の力を自在にコントロール出来る 俺様のような特別な魔物を魔獣使いと・・・話がそれたな。 ようするに、翡翠石のコントロール下にあるからといって、 対象を制限なく完全に思いのままに出来るわけではないということだ。 不機嫌になったカーバンクルをそのまま放っておくわけにはいかない。 以前、カーバンクルの饅頭をつまみ食いした日の夜、 寝ていたら突然部屋の天井が破れ、 上から石化させられた俺の部下達が降って来たからな・・・。 あんな、ばたんきゅ〜、な思いは2度としたくない。 なんとかカーバンクルの機嫌をとらなくては・・・。 より足取りを重くして、俺はヘルズ・キッチンへと帰ったのだった。 ーーー 「はぁ〜い、あ〜んしてくだちゃいね〜。」 「ぐー。」 俺は手作りの特製ビビンバカレーをスプーンでカーバンクルに食べさせてやる。 「おいちぃでちゅか〜?」 「ぐー・・・。」 彼の顔はだらしなく緩みきっていた・・・。 魔将軍としての彼のその強さ、恐ろしさを知っている者が見たならば、 全てが信じられなくなって発狂してしまうか、 この世の真理を追い求めるために仙人になってしまうか・・・ それほどの緩みっプリだった。 もちろん、彼がこんな姿を見せるのは、 カーバンクル等、バジル自慢の魔獣達に対してのみである。 毎日毎日<パンドランプのカレー地獄>のおやっさんのカレーを食べているだけあって、 カーバンクルは舌が肥えている。そう簡単に満足してはもらえない。 最初のうちは、この<午後3時のカレータイム>の度に テーブルごとカレーをひっくり返されたものである。 しかし、パンドランプに毎日通っているのは俺も同じ。 加えて毎日毎日厳しいグルメに鍛えられていれば、イヤでも上手くなるというモノだ。 今ではカーバンクルがきちんと完食してくれるまでの腕前になっていた。 「あ〜ん。」 「ぐー。」 いつもは一皿を0.2秒で平らげるカーバンクルだが、 午後のカレータイムでは優雅にゆっくりと食べるのがこだわりらしい。 だが、カーバンクルが食べようとするとどうしても一口で食べてしまうので、 (舌でペロリと一飲みにすることしかできないからな。) こうして俺が少しずつ運んでいってやっている訳だ。 決して俺がやりたくてやっているわけではない。勘違いするなよな! 「ぐー!」 「あ、はいはいごめんなちゃいねぇ。今あげますからねぇ〜。」 「ぐー。」 ああ、しあわ・・・せじゃねぇよ! なんでこの俺がこんな風にこき使われなきゃいけないんだっつんだよ! 「はーい、お口ふきふきしましょ〜ねぇ〜。」 「ぐー。」 フッ、全く無能な手駒を持つと苦労するぜ。やれやれだ。 そう心の中で愚痴りつつも、彼の顔からニヤけた笑顔が消えることはなかった。 カシャカシャカシャ! 「ッ!?誰だッ!?」 突然部屋の外から機械的な音が響いた。 俺は殴りつけるように勢いよく扉を開く。 しかし、左右を見渡しても廊下には誰もいなかった。 「・・・気のせい、なのか・・・?」 「ぐ〜?」 カーバンクルがピコピコと歩いてきて俺の足にしがみつく。 もう一度、注意深くあたりを見回してみる。 すると、扉の前、足元に何か落ちていることに気付いた。封筒のようだ。 封筒を拾い上げ、中身を調べてみる。手紙が入っていた。 「オマエノ ヒミツヲ シッテイル  バラサレタクナケレバ イマスグ ヘルコロッセオニ コイ                        ヘルテイマーズ      Ps,キレイに撮れたのでおすそ分け致します     」 「ヘルテイマーズ?ヒミツ・・・だと?」 よく調べると、封筒には写真が入っていた。 「んなッ!」 写真の中では、自分でも見たこともないような顔を浮かべた自分自身が、 カーバンクルを抱いてベットで転げまわっていた。 そのアホ面ときたら、自分でも、 いや、自分だからこそ殴り飛ばしてやりたい衝動に駆られるほどだ。 「じょッ・・・じょォとぉゥゥゥゥゥッ!!」 耳まで真っ赤にしたバジルは、壁を思い切り殴りつけて少し気持ちを鎮めると、 カーバンクルを頭に乗せてヘルズ・キッチンを飛び出していった。 ーーー ヘルコロッセオ。 今では魔王軍の演習場や娯楽施設として使用されることが多いが、 太古の昔、ここでは毎日のように、奴隷として捕まった人間同士の戦いが行われていた。 たとえ相手が同じ人間だろうと、同じ国の同志だろうと、 血を分けた兄弟だろうと、生き残るのはどちらかひとり。生き残るために、同志を殺す。 その、喜びとも悲しみとも怒りともとれない感情により展開される悲劇。 それが、太古の魔物の最大の娯楽であった。 余談となるが、ヘルコロッセオの用途が、 ひいては魔物の娯楽文化が移り変わった理由には諸説あるが、 中でも興味深い説が、<人間の文化の移り変わりに影響された>という説である。 そもそも魔物とは、魔王の力によって野生動物が変化したモノや、 邪悪な錬金術によって生まれたモノの総称である。 では、魔王とは何なのか? 魔王の存在は、現存する歴史書の中でも、 最古の文献といわれる書の中で既に確認されている。 魔王は肉体を失っても滅びることはなく、 何らかの<素因>を持つモノの肉体を奪うことにより何度でも復活できる、 精神体のような存在である。 その正体、誕生の秘密は謎に包まれているが、 魔王の正体に関する興味深い説のひとつが、 <錬金術の果てを極めた人間が、何らかの秘術によって転じた存在>であるというモノ。 つまり、魔王は元は人間である、という説である。 この説が唱えられたのにはもちろん理由がある、 ひとつ、<素因>を持つ存在は、魔物や動植物ではなく人間だけであること。 現在魔王の肉体となっているヴェイク、 魔王の力を行使することの出来たクレハ等がそれにあたる。 <魔王>と<人間>には何かしらの関係があることの証といえる。 ふたつ、魔王は側近として、<人の姿になれる魔物>を魔将軍として傍においていること。 そして三つ目、魔物達のほとんどは、自分達を醜いと感じ、 人間の姿を美しいと感じていることである。 美的感覚とは、単なるセンスではない。生存のための武器である。 例を挙げるなら、毒々しい色をしたカエルや虫などがわかりやすいだろう。 自分は毒を持っている、ということを体の色でアピールし、 見る側も、<毒を持っていそうだ>と感じてさけることができる。 このように、生物にとって美的感覚とは、生き残るためには必要不可欠な要素なのだ。 にも関わらず、魔物は自分を醜いと感じ、人間に美しさを感じる。 生き物が他者に美しさを感じるのは、対象が自分に近い存在であるケースがほとんどだ。 近い存在を美しい、良いモノだと感じることで<仲間である>と認識することができ、 遠い存在を醜いと感じることで、害あるモノ、仲間ではないモノとして認識できるのだ。 だからこそ、人は<神>を描くとき、自らに近しい<人>の姿を与えて降臨させる。 これらのことから、魔王は元人間、または人間による影響を大きく受けた存在であり、 魔王によって産み出された魔物は、魔王、つまり造物主へと近づかんと、 人間へと無意識に近づこうとしているのではないか、ということである。 ここで文化の話に戻るが、ヘルコロッセオで血塗られた戦いが行われていた頃、 人間の街でも似たような施設が存在しており、 奴隷やお金に困った人間が命をかけて戦い、 上流階級の人間はそれを娯楽として楽しんでいた時代があった。 だが、そういった文化を「野蛮だ」 「理性が最大の武器である人間種のすることではない」という考え方が広まっていき、 廃れていったのである。 人間を目的としている魔物もまた、無意識に人間と同じ道を進もうと、 文化を移り変えていったのかもしれない。 「フン、血塗られた闘技場を墓場に選ぶとはな・・・  よほど死肉の壁の一部に加わりたいらしい。クックックックック・・・。」 普段ならそれなりにキマるところなのだが、 頭の上のカーバンクルがピコピコと耳を動かして バジルの目を塞いだり離したりして遊んでいるのでイマイチしまらなかった。 ヘルコロッセオの周囲には誰もいない。 今日は特にイベント等も行われていないので、訪れる魔物はいなかった。 ヘルコロッセオは太古から変わらぬその雄大な姿を静かに誇示している。 「どんな罠をしかけてやがるのか知らねぇが・・・  俺様とカーバンクルを簡単にどうにかできると思ったら大間違いだぜ。  その伸びきった鼻をへし折ってカレーの具にしてやる。クックックック。」 「ぐ〜。」 カーバンクルは未知の具を使用したカレーの味を想像しているようだ。 だらしくなく涎を垂らしている。 俺はよだれが髪につかないようカーバンクルを頭から下ろして抱きかかえ、 静かにコロッセオに足を踏み入れた。 かつて奴隷達が使用したであろう選手入場のための廊下を進む。 大昔にこの廊下を進まされた奴隷達は、どんな気持ちでこの廊下を進んだのだろうか? 絶望か、諦観か、それとも在りもしない希望を夢想して己を騙し続けたのか。 そう考えると廊下の染みが、奴隷達の嘆きの顔に見えてくる。 バジルは立ち止まり、床の染みのひとつを凝視した。 よくよく見れば、口を大きく開いて泣き叫ぶ人の顔に見えなくもない。 バジルはじっとその顔をにらみつけた後、足を大きく上げ、力強く踏みつけた。 その顔には、見るモノを戦慄させる、邪悪な笑みが浮かんでいた。 光が見えてきた。 さて、その光は栄光の光か破滅の閃光か。 どちらだろうと、俺の闇で染めつくすまでだ・・・ッ! ーーー 「おぉ〜っとぉ、バジル選手の入・場で〜す!皆さん、拍手でお迎えください!」 うおおおおおおおおおおおおおおおおッ! バジル様〜!頑張ってくだせぇ〜!カッコイイ〜! バジル氏ね!お前が氏ね!ポップコーンとコーラひとつね!痛い、押すな! 卑劣な罠や激しい戦いを想像していたバジルは、 思わず盛大に転倒して顔面で美しい着地を決めてみせた。 カーバンクルはちゃっかり脱出してキレイに着地している。 「バジル選手、入場早々激しいパフォーマンスを披露〜!さすがです!」 「パフォーマンスじゃねぇッ!てか、なんだこれは!?  ソフィア、お前そんなことで何してる!?これはお前の仕業かッ!?」 コロッセオのVIP席でマイク片手に困ったような顔をしているのは、 バジルと同じ魔将軍のひとり、ソフィアだった。 「そんなに一度に質問されても困りますわ、バジル。私は頼まれただけです。」 「誰にだ!?」 「私だ。」 返事はソフィアの横から返ってきた。 バジルの位置からはソフィアの陰になっていて見えなかったが、そこには・・・。 「ガ、ガルドゥーン様ッ!?」 「魔王は働いたら負けかなと思っている。」 ガルドゥーンは決めゼリフ(?)を吐きながらビシッと親指を立ててみせた。 この男こそ全ての魔物の生みの親にして統治者である、 魔王ガルドゥーン・・・その現依代であるヴェイクその人である。 「で、では私をここに呼んだのはガルドゥーン様なのですか!?」 「いや、私ではない。今朝、私の部屋にこのようなモノが届いてな。」 ガルドゥーンは手紙のようなモノをピッと取り出す。 ソフィアは何を言われずともうやうやしくその手紙を受け取り、読み上げた。 まさに阿吽の呼吸である。 「拝啓 魔王ガルドゥーン様  ヘルコロッセオでバジルくんと遊ぶので是非遊びにきてね  来てくれたら大人気ネットゲーム  <モンスターファンタジー]T>のゲーム内通貨を100万ペインあげます  ソフィアちゃんも一緒にきてくれると嬉しいです  よろしくお願いします                                  敬具                             ヘルテイマーズ」 「ネ、ネトゲ通貨に釣られたんですか、ガルドゥーン様・・・。」 バジルの言葉に、 それまでけだるそうな表情を崩さなかったガルドゥーンが激昂する。 「貴様に年中城の最奥に篭っていなければならない  魔王の悲しみが理解できるというのかッ!」 魔王の怒号によって騒がしかった闘技場は一瞬にして静寂に包まれた。 セリフはともかくとして、魔王の放つ怒気は、 精神の弱いモノならそれだけで命を失ってしまいかねないほどすさまじい。 「は、ははぁッ!(でも、そんな理由で凄まれてもなぁ・・・。)」 「(ガルドゥーン様・・・あなたのためなら何徹してでも   レア敵の沸きポイントに張り込み続けますわ・・・。)」 複雑な表情で平伏するバジルを見ながら、 ソフィアは健気な決意を新たにするのであった。 ーーー 「しかし、ガルドゥーン様でないなら、俺を呼んだのはいったい・・・。」 「クォーックァックァックァックァックァッ!!」 バジルのセリフが終わる前に、いろいろと無理のある笑い声が闘技場に響きわたる! 先ほどまで静まりかえっていた闘技場は再び騒々しさを取り戻す。 「貴様を呼んだのは私達だ!魔将軍バジルッ!!」 「ど、どこだ、面を見せやがれッ!」 「あ、あそこだーッ!」 名もなき魔物Aが指差した方向を皆が一斉に凝視する。 コロッセオを照らす照明のひとつの上に、全く同じローブで全身を包んだ、 全く同じ体格、全く同じ身長の5人組が立っている。 サバトに参加するための礼装のような格好で、実に不気味である。 5人組は思い思いにポージングしながら、 「クォックァックォックォッ、あ、やべ間違えた、クァックォッ・・・」 などと強引に不気味な独特の笑い声をあげている。 闘技場の一同は何か言いたそうな顔を浮かべていたが、 彼らの放つあまりにも強すぎる 「全力で関わり合いになりたくないオーラ」の前には無力で、 誰も何も言うことができなかった。 「クォカァーッ!!」 5人は奇声と同時に跳躍し、コロッセオのバジルとは反対側の入場口に着地した。 不気味な5人組の内ひとりが前に出ると、闘技場に響くよう高らかに宣言した。 「魔将軍にして魔獣使いバジルッ!  我々は貴様に魔獣モン(まじゅもん)バトルを申し込むッ!」 「ま、魔獣モンバトルだと・・・?」 「魔獣モンバトル・・・そういえば聞いたことがある。」 「なにィーッ!知っているのか照井ーッ!」 バジルの疑問に答えるように、観客席にいた何故か額に「米」やら「肉」やらと 文字の書かれた魔物がさりげなく解説する。 「うむ、古来中国では(以下略)ということがあり、  それより魔獣や魔物その他を翡翠石でコントロールし戦わせる競技が生まれたんだ!  (民明書房<魔獣モン493ひきゲットだいひゃっか>より抜粋)」 「そうッ!」 前に出たひとりが懐から翡翠石を取り出し大きく掲げる。 少しだけ遅れて後ろの4人も翡翠石を取り出し、同じように掲げて見せた。 「翡翠石!・・・貴様等も魔獣使いか!?」 「クォックァックォッ、そういうことだ・・・。最強の魔獣使いは我らヘルテイマーズ!  貴様のようなマガイモノに大きな顔をされるのは非常に不愉快なのだよ!」 「クッ、クククククククククッ!上等、じょォとォゥッ!  俺様にそこまでのセリフを吐いて五体満足で帰られるとは思っちゃいないよなぁ?  時間が惜しい、さっさと来いよ。  今日はドマヌケ5人組の惨殺パーティを開かなくちゃいけないんだからよォッ!」 バジルとヘルテイマーズNo,1はメンチビームでバチバチを火花を散らし合うッ! 今ここに、最強魔獣使い決定戦の開幕が宣言されたのであるッ!! ーーー 「なお、実況はこの私、魔将軍ソフィア。解説は・・・。」 「全魔物のアイドル、ガルドゥーン様がお伝えしてやる。感謝しろ。」 気付いたら何だかよくわからない展開になってきたが、 まぁ、細かいことはどうでもいい。 俺はこの自惚れたド低脳共を八つ裂きにして 身の程というモノを思い知らせてやれればそれでいいのだ。 「そら、どいつから来るんだ?5人同時でも俺は一向に構わんぞ?  それぐらいが貴様等には丁度いいハンデだろう。クックックックック!」 バジルが下品に指を立てて挑発すると、ひとりが立ち上がって前に出た。 「クォックァックォッ、大した自信だな。では俺から相手をしよう。」 「クォックァッ、ヘルテイマーズNo.5、油断するなよ?」 「誰にいってるのかしら?」 ヴァサッ! ローブを勢いよく脱いだヘルテイマーズNo,5。その正体は・・・。 「ゲェーッ!お、おまえは!?  俺と同じ魔将軍のひとり、サキ!」 サキは長く美しい髪をたなびかせ、色っぽくバジルに流し目をおくる。 「はぁい、ぼ・う・や。今日は特別にお姉さんが遊んであげるわ。」 「ちょっと待てェッ!  さっきまでのローブ姿の時と身長も体格も声も全ッ然違うじゃねぇか!」 「意外と細かいことを気にするのねぇ。  そんなこと、ゆでたまご作品じゃよくあることじゃないの。」 「FREEJAはゆでたまご作品じゃねーよ!」 二人の漫才などとうに慣れっこなソフィアは、二人に構わず実況を開始する。 「おおっと、謎の魔獣使い、ヘルテイマーズNo,5の正体は  なんと魔将軍のサキだったァーッ!  初戦にしていきなり魔将軍同士のドリーム大バトルッ!  これは素晴らしい戦いが期待できそうですッ!」 生真面目なソフィアはどんな時でも全力投球だ。 ガルドゥーンがネトゲ通貨目的で受けた茶番の実況だろうと、 任されたからには全力で取り組む、それがソフィアという魔物だった。 自分が普段おとなしい魔物であることを自覚しているのだろう、 ぎこちなくハイテンションを演じながら実況に取り組んでいる。 「そもそも、お前は魔獣使いじゃないだろうが!」 「まぁねぇ、私はあなたみたいに悪趣味でもないし。だから今日は特別なのよ。  お姉さんが、あなたのレベルに合わせて遊んであげよう、っていうの。」 「へぇへぇ、そいつぁ有難いねぇ。  有難すぎてそのスカしたツラ潰したくなってきちまったよ。プチ、っとなぁ!」 二人を中心にして空気が凍り付いていくような感覚が広がっていく。 魔物の中にはその雰囲気に耐え切れず逃げ出すモノも出始めていた。 残った魔物も、あまりのプレッシャーに、 まるで深海に引きずりこまれたかのように息をすることが出来ずにいた。 そんな中、ヘルテイマーズNo,1は涼しげに二人に歩み寄り、諭すように言った。 「クォクァ、二人とも、今回はあくまで魔獣モンバトル。  戦うのは魔獣のみだ。魔獣使いは後ろから指示だけ出していればいい。クォックァッ。」 No,1の言葉を聞いたサキが肩を竦めるような仕草をした瞬間、 凍り付いていた空気が一気に動き出すような感覚がした。 深海から解放され、魔物達は一斉に呼吸を開始する。 「そうね、あなたならともかく、  そこのかわいいおチビさんをイジめるのは少々気が引けるのだけど・・・。  これも勝負だもの、許してね。」 サキはその膨大な魔力を両手に集中し始める。 するとサキの前の地面から泥のようなモノがあふれ出し、 蛇のような鳥のような歪なカタチを形成していく! サキは翡翠石を掴むと、泥蛇(鳥?)の中にねじ込んでいく。 サキが泥から手をだし、泥を振り払うと同時、泥蛇の目に命が宿り、 バジルを双眸で睨み付ける! 「ギギィィィギアァァァァァァァァッ!!!」 「そのままではアクの強い翡翠石を、  錬金術の秘術・創生の泥を用いてラッピングしてみました。そうね、名づけるなら・・・ <アルケミストのきまぐれ錬金・泥仕立てゴーレムの翡翠石和え>なんてどうかしら?  あなたのお好みに合うとよろしいのですけれど・・・。」 サキはニコリと妖艶な笑みを浮かべながら、軽くスカートの裾を上げてみせる。 「ハッ、お前にしちゃなかなかいいデザインじゃねぇか。  人間よりも魔物に向いてるんじゃないか?お前?」 「お褒め頂き恐縮ですわ。」 「さぁ、ついに両者の準備が整ったようです!改めて選手を紹介致しましょう!  龍の門よりの選手、<ドSないじられ>こと、魔将軍バジル選手ーッ!」 シリアスモード時に不意を突かれて、再びバジルは豪快に地面に突き刺さった。 二回目だけあって、心なしか先ほどよりも完成度が高くなっている気がする。 「誰かドSないじられだッ!」 「私は台本通り読んでいるだけですので・・・。  虎の門よりの選手、<ババァ結婚してくれ!>こと、魔将軍サキ選手ーッ!」 「バ・・・。」 ソフィアの言葉にサキは一瞬だけ眉を吊り上げたが、すぐにいつも通りの笑顔に戻した。 「ソフィアさん。少しお話したいことがあるので、  後で体育館裏まで来てくださいますか?」 「だ、だから私は台本を読んでいるだけなんですってば〜。」 「ソフィア涙目(藁。」 怯えるソフィアを横目に、ガルドゥーンがボソリと呟いた。 「え、え〜、気を取り直しまして・・・バジル選手とサキ選手の戦い!  バジル選手は魔獣カーバンクル!サキ選手は蛇ゴーレムを操ります!  果たして勝つのはどちらなのか〜!?  解説のガルドゥーン様、この戦いをどうみますか?」 「双剣が中央を陣取りながら乱舞するから邪魔でかなわん。打ち上げてやろうか・・・。」 いつの間に持ち込んだのか、ガルドゥーンはディスプレイにかじりついていた。 「ネトゲやってたんですか!?  も、もぅとにかく試合開始ッ!」 「ぐっぐ、ぐーッ!」 シュゴォォォォォォォンッ!!! ソフィアの宣言が終わるとほぼ同時に、闘技場が激しい紅色の閃光と轟音に包まれた。 暴風が唸り、地は抉られ、全てが光へと飲み込まれ消えていく。 サキはとっさに<世のあり方>を局所的に捻じ曲げ、周囲に防壁を作り出す。 世界の<概念>に働きかけ、物理法則を変換することで、 周囲からの影響を最小限に抑える錬金の極致のひとつ。 この秘術を持ってしても、完全にエネルギーの奔流を遮断することはできなかった。 次第に破壊の嵐が収まっていき、紅の世界が溶けていく。 サキが防壁を解除すると・・・。 「あ、あらぁ〜?」 サキは思わずらしからぬ声をあげてしまった。 自分の周囲を除き、闘技場の地面が抉られ、 扇状のクレーターのようなモノが出来上がっていた。 そしてその扇の先には・・・カーバンクル。 ゴーレムの姿は見えない。この様子では、チリも残さず消滅してしまっただろう。 「あ・・・圧倒的ィ〜ッ!  バジル選手のカーバンクル!圧倒的な力の差を見せ付けての大勝ですッ!  今の戦い、どうでしたか?解説のガルドゥーン様?」 「双剣厨がやはり3死した。付き合いきれないんでフレに呼ばれてやったわ。」 「あの爆風の中ネトゲしてたんですか!?  そこまでいくともう尊敬しますよ!!」 攻撃による傷跡はすさまじく、闘技場の半分以上がクレーターとなってしまった。 観客席が吹き飛ばなかったのは、ガルドゥーンが防壁を展開していたからに他ならない。 ネトゲに夢中になっているようで、やることはやっているようだ。 「ふぅ、私の負けみたいね。  さすがに魔獣使いとしてはあなたに一日の長があるみたい。完敗だわ。」 「あ、あぁ・・・。」 「・・・クス。次も頑張りなさい、ぼ・う・や。」 サキはいつも通りの笑みを残し、世界の<裏>へと溶け込んでいった。 いつものバジルであったなら、気に入らないサキの鼻を明かしてやって、さぞご満悦、 というところなのであるが、バジルの顔には勝利の余韻どころか、 むしろ自分が追い詰められているのかような焦りが感じられた。 ーーー ヤバイ。 カーバンクルはカレーをお腹いっぱい食べられなかったことで不機嫌になっている。 さらに、不機嫌なところに自分が望んだワケでもない戦いを強要されたことで、 もっと不機嫌になっている! 本来ならば、翡翠石のコントロール下にあるカーバンクルにここまでの力は出せない。 洗脳による力と、カーバンクルの精神力が反発し合うことで、 カーバンクル自身が本来持つ強さを、大きく押さえ込んでしまうからだ。 だが、今カーバンクルは、大きな力を発現させた! それは、不機嫌になったことにより大きくなった反発する力が、 俺の洗脳力を上回りつつあるということ・・・。 もしこのまま反発力が大きくなっていけば・・・ カーバンクルは完全に翡翠石の支配から脱してしまう。そうなれば・・・。 バジルは先ほどのカーバンクルの攻撃を思い返しゾッとした。 そして、危険を感じたのはバジルだけではなかったようだ。 「クォクァッ!冗談ではないぞ!私はあのようなモノとは戦えない!  クォッ!今更もう後には引けないのだ、おとなしく戦えィ!」 ヘルテイマーズNo,4がひとりでバタバタと暴れている。 「あんなバケモノに勝てるワケがないだろう!  お前ならなんとかなる!いや、私がしてみせる!」 自分で自分と会話しながらバタバタと暴れている様は実に不気味である。 「えぇい、ウダウダ言わずにはやくいかんか!」 しびれを切らしたヘルテイマーズNo.3がNo.4のローブを剥ぎ取る。 ヴァサッ! 「ゲェーッ!お、おまえは!  聖ヘレンズの将軍のひとり、ルイ・スティンッ!?  ・・・とその弟。」 「バジルと聞いて飛んできました。」 「人をアニキのオマケみたいに呼ぶなッ!」 「あぁ〜ッとぉッ!ヘルテイマーズNo,4の正体は  聖ヘレンズの将軍、ルイ・スティンとユウ・スティンの兄弟だったァ〜ッ!  ですが私個人と致しましては二人がローブの中に  どうやって入っていたのかの方が気になります!非常に気になります!  いろいろと妄想せずにはいられませんッ!」 「ソ、ソフィア・・・?」 いつになく興奮しているソフィアにあのガルドゥーン様も若干引き気味である。 「とりあえず、無理、うん、無理、あんなのに勝てるワケないだろぉ〜!?」 ユウは情けない声を上げながらじりじりと後退する。 ユウが一歩下がる度に、ルイがズイっと一歩距離を詰める。 「大丈夫だ。俺が翡翠石でサポートする。  翡翠石によるコントロールは、反発がなければ対象の能力を向上させることができる。  単純に目が4つに増えるようなモノだからな。  まさか、この俺のコントロールに抵抗する気ではあるまい?」 ルイがズズイっとユウに迫る。普段から座りがちな目がさらに座っていて怖い。 いつもは冷静なルイだが、 バジルが絡むとすぐに熱くなって見境がなくなるのが彼の悪いクセだ。 「いや、その、アニキを疑ってるワケじゃねぇんだけどよぉ・・・。  やっぱ、その翡翠石のイメージが悪いっつーか、  自分の頭ン中に別の意思があるのも気持ち悪いっつーか・・・。  うん、やっぱダメメンゴ!」 すばやく身を翻し逃げようとするユウ。 「逃がすかッ!」 マントの端をルイが掴み、ユウの首が「グエッ。」と締まる。 ルイとユウが場外乱闘を起こしそうになったその時・・・。 ガガァーンッ!! ルイとユウの目の前の地面が轟音とともに爆ぜた。 ルイとユウが目を開けると、 降りそそぐ砂塵の向こうにいるヘルテイマーズNo,3とNo,2の前に、 いつのまにかローブで全身を覆った男が二人たっていた。 こちらのローブは簡素なモノで、装飾もほとんどない、実用的なものである。 今の攻撃はこの二人から放たれたようだが・・・。 「茶番はそこまでにしてもらおう・・・。」 ヘルテイマーズNo,3とNo,2が前に出てローブの男の横に並ぶ。 どうやらローブの男達は、No,3とNo,2の魔獣モンのようだ。 「フフフ・・・だがユウは我々レアハンターズの中でも最弱・・・。」 「魔獣ごときに恐れをなすとはレアハンターズの面汚しよ・・・。」 ヴァサッ! 「ゲェーッ!お、おまえは!?  ・・・ってこれ毎回言わなくちゃいけないのか?しかもバレバレだし・・・。」 ローブの下から現れた姿は・・・みなさんの想像通りの方だった。 「レアモノと聞いて(ry。」 「えーと・・・カインとダグラス・・・お前達も俺を狙ってきたのか?」 「妄言を吐くな。俺達はお前などには微塵たりとて興味はない。」 カインはなんの躊躇も迷いもなくきっぱりと答える。 「たとえ嘘でも、いつか狙うけど今回は違うとか言ってくれよ!泣くぞ!?」 予想していた答えではあるが、きっぱりと即答されると堪えるモノである。 「フ、俺らが欲するのはレアモノのみ!アンタを倒せばレアモノを貰える約束でね。  アンタに恨みは・・・ないこともないが、とにかく勝たせてもらうぞ。」 ダグラスはビシッとバジルを指差しながらタンカをきってみせた。 いつものダグラスとはまるで別人のように自信に満ち溢れている。 「あぁん?この俺様とつり合うほどのレアモノだとぉ?いったい何貰うんだよ?」 「かつてピンクパールのイーグルが一時の気の迷いで彫刻家になろうとした時作られた、  異形のバケモノにしか見えない犬(コロン)の置物だ。  全く買い手がつかなかったので1点しかない超レアモノだぞ。」 「お前ら珍しければ本気でなんでもいいのなッ!」 自分の価値はイーグルが生み出した邪神像と同程度なのかと思うと、 バジルは切ない気持ちになった・・・。 「待て!まだ俺とバジルとの戦いがまだ・・・ッ!」 カインに食い下がろうとするルイを、ローブの男が剣を突きつけ制した。 「フン、お前のような腑抜けには任せておけんッ!」 「お子様は故郷のマーマに手紙でも書いてるんだな!」 「お、お前らそういうキャラだっけ・・・?」 レアモノが絡むと人格が変わるヤツはこれだから・・・。 と考えつつバジルはちらりと解説席のガルドゥーンを見る。 と、ガルドゥーンはバジルの考えを読んでいたかのようにギロリと睨み返してきた。 慌てて目を逸らす。 「どうやらルイ選手は棄権するようです。そしてルイ選手に代わって舞台に上がるのは、  ヘルテイマーズNo,3&No,2の中の人ッ!  <レアのためなら神をも屠る>レアハンターズのカイン&ダグラス選手ですッ!」 『アンコモン10枚とトレードしてくれッ!』 カインとダグラスはよくわからない決めゼリフで観客にアピールしている。 「さぁ、レアハンターズのカイン&ダグラス選手にバジル選手どう立ち向かうのかッ!?  どう見ますか?解説のガルドゥーン様!?」 「フン、私は火竜の逆鱗を30枚持っているぞ。」 「もうあなたはずっとネトゲしてて下さい!」 「さぁ、ゆけい!我が忠実なる僕・・・。」 「シェイドッ!」「シオンッ!」 ローブの男達が勢いよくローブを脱ぎ捨てると、 そこから現れたのは聖ヘレンズの王、シェイドと、 聖剣ブルー・ティアーズの主(?)、シオンであった。 しかし、雰囲気が普通ではない。 『ククククク・・・レアモノゲットヲジャマスルモノ、ミナコロス。』 「なんかヤバイことになってる!」 虚ろな目でブツブツと同じセリフを繰り返している。どう考えてもマトモではない。 「フ、<レアモノお持ち帰りモード>の我らに不可能はなし。」 「二人とも強靭な精神力の持ち主だったが、  俺らのレアモノへの情熱には及ばなかったということだな。」 「な、仲間をここまで洗脳するとは・・・主人公側のやることじゃねぇだろ!?」 「なぁにぃ?聞こえんなァ!?」 邪悪な笑みを浮かべるカインとダグラス。もはや彼らはレアに魂を売った悪魔。 その姿は悪役以外の何物でもなかった。 「くっ、カーバンクル!まずは青いガキの方を黙らせるんだッ!」 「ぐー!」 カーバンクルが、ゴーレム戦のようにカーバンクルビームを放とうと、 額の宝玉<ルベルクラク>にエネルギーを集中する。が・・・。 「危ない、カーバンクル!右だッ!」 「ぐ、ぐぐー!?」 シェイドがすばやく接近し、ドラゴンズ・アイを振り下ろす! カーバンクルは距離をとろうと後ろに跳ねるが、既にシオンがまわりこんでいるッ! 「ぐぐ!?」 カーバンクルは軽くビームを発射して空中で軌道を変え、 なんとかシオンの斬撃を回避する。 ギリギリのところでかわすことが出来たが、 このままでは防戦一方、ビームを発射するためのエネルギーを溜めることもできない。 「ちぃッ・・・!」 悔しげに親指を噛むバジルに、カインとダグラスは勝ち誇ったかのような顔を向ける。 「どうした?我々5人同時でもかるーく相手にできるのではなかったのか?」 「いつまでも隠してないでさっさと本気を出してみなよ。  負けた後で<俺が見せたのは実力の30%だけだ>とか言い出すのはナシだぜ?」 ハッハッハッハッハ!ともはや完全に悪役状態の二人。 シェイドとシオン。 シオンは大したことはないが、シェイドの実力は俺らにも匹敵するほどだ。 しかし、二人は翡翠石による強い洗脳下にある。 あそこまで強い洗脳が必要だったということは、かなりの抵抗があったということ。 反発する力のせいで、二人は本来の実力の半分も出せていないハズなのだ。 だが、認めたくはないが、シェイドは強すぎる。 半分以下の力でも防戦に回るしかないほどに強い。 慣れない翡翠石でのコントロールのせいだろう、たまにスキは見せるものの、 シオンがそれをカバーしてしまっている。 翡翠石のコントロールこそなっちゃいないが、戦術に関してはプロということか。 自分の弱点を理解し、カバーする方法を知っている! どうすればいい・・・どうすれば・・・。 「ぐー!」 「ッ!?しまった!?」 思案のために気がそれた瞬間、シェイドが間合いにカーバンクルを捕らえてしまった! あれは・・・よけられないッ! 「カーバンクルゥーーーーッ!!!」 ガキィィィィンッ!! だが、ドラゴンズ・アイがカーバンクルに届くことはなかった。 「な・・・ユウ・スティンッ!?」 「あっぶねぇ・・・なんとか間に合ったな。」 ユウがシェイドの攻撃を受け止めていた。 「情けないな、バジル!所詮貴様はその程度の男だということか!?」 「ルイ・スティン・・・何故助けた!?」 「勘違いするな、お前を助けてなどいない。  無能な飼い主のせいで傷つく魔獣があまりにも憐れだったのでな。  それに・・・レアに目が眩んだ阿呆共にも、  少し灸をすえてやらねばいけないようだし、な・・・。」 ルイはキッとカインとダグラスを睨みつける。 「裏切る気か・・・ルイ!」 「裏切るのではない。外道に堕した仲間の過ちを正そうというだけだ。」 「おのれルイ!」 睨み合う両者にバジルが割って入る。 「おい、勝手に話進めてんじゃねぇ。  俺はお前の助けなど必要ない、はやいだけの男などいても邪魔なだけだ。」 「何ソレ、セクハラ?セクハラなのかこのワカメッ!」 「フン、ユウははやいだけでなく短くもあるぞ(気が)。」 「ちょ、なんでアニキまで一緒になってんの?イジメ?イジメですかコレ!?」 いつになく挑発的なルイにバジルは少し驚いた。 「フン、ではなおさらいらんな。そんな男は生きている価値もない。」 「キッツーッ!」 「だが言ったハズだぞバジル。お前を助けるのではない。  俺は仲間を力ずくで叩き起すために戦うのだ。貴様はそのための道具にすぎん。  ・・・せいぜい、利用させてもらう。」 今こいつは何と言った?俺を利用する?この俺を?ルイ・スティンが!? 「・・・クッ、クックックックックックッ、ヒァーッハッハッハッハッハッハッ!!  これだから・・・これだからお前は面白いッ!  いいだろう、お前に利用されてやろうじゃないか・・・。  だが上手く扱え?いつ貴様の喉元に喰らいつくかわからんぞ、この俺はな・・・。」 二人はしばらく静かに睨み合っていたが、何か合図するでもなく、 同時にその視線の矛先をカインとダグラスに向けた。 「なんと、なぁんと!  魔将軍のバジルと聖ヘレンズ将軍のルイがドリームタッグ結成ィィィッ!  これはなんとも萌える・・・じゃなかった、燃える展開ですッ!!」 顔を真っ赤にしたソフィアの興奮が、声に伝わったかのように実況にも熱が入る。 「これはマズイな、ダグラス・・・。」 予想だにしなかったカインの言葉に、ダグラスは顔をしかめる。 「む、何故だ?シェイドとシオンならば例え翡翠石に操られていようとも、  魔獣とユウごとき片付けるのは造作もないと思うが?」 「わからないのか?ダグラス。バジルとルイ、二人は因縁あるライバル同士だ。」 その言葉を聞いてダグラスはハッとする。 「そう、因縁のライバル同士がドリームタッグを結成した場合、  そのバトルではほぼ100%勝利するッ!  ヤツラは実力の差を<勝利フラグ>で補ったのだッ!!」 「な、なんだってー!?」 ダグラスのは驚きのあまり顔がナワヤになっていた。 「フ、そういうことだ。  ドリームタッグが結成早々やられてしまっては興冷めもいいところだからな・・・。  もはや貴様達は空気を読んで負けるしかないのだ!」 「笑止ッ!レアハンターがレアアイテムを前に背を向けることなどありはしないッ!  レアアイテムのためなら我らは喜んでDQNにもなろうッ!」 カインとダグラスは、シェイドをシオンを自分達の手前まで下がらせた。 『レアを我らにッ!』 『レアヲ ワレラニ!』 カインとダグラスの掛け声と同時に、シェイドとシオンが弾丸のように飛び出す! 「ユウ、シオンを抑えろ!」 「アイアイサーッ!」 「バジルッ!」 「俺様に指図するんじゃねぇ!カーバンクルッ!」 「ぐぐー!」 ユウはシオンへ、カーバンクルはシェイドへと向かっていく。 まずは二人を分断、シオンを先に黙らせる作戦である。 「くっ、シオンだけではマズイ・・・カイン!」 「わ、わかっている・・・が!」 カインは全力でシェイドの足を止めるよう力を送る。 シェイドの足がかなり強引に止められた瞬間、 シェイドの鼻先をカーバンクルのビームがかすめていった。 「チッ、残念。もう少しで今よりもっと美形に整形してやれたのによ。」 「くっ・・・。」 「ヘヘッ、サシに集中できさえすりゃあ・・・。」 シオンの攻撃を紙一重でかわしながら、ユウはシオンへの距離を徐々に詰めていく。 「い・た・だ・き・・・。」 シオンの大振りをしゃがんでかわし、懐へと入り込む! 「マァスッ!!」 ドムッ! ユウの両手掌がシオンの腹部にクリーンヒットする! カウンター気味にまともに喰らい、シオンは受身もとれずに吹っ飛んでしまった。 「うぁ〜りゃりゃぁ・・・しまった、アニキからの攻撃意思を考慮するの忘れてた・・・。  メンゴ!恨むならダグラスのおっさんを恨んでくれよぉ〜?」 「ユウ!油断するな!」 「ふえ?」 ユウが振り向くと、既にユウの眼前にシェイドの刃が迫っていた! 「ぐっぐぐー!」 カーバンクルがドラゴンズ・アイにビームを当て、剣撃の軌道をズラした。 「どぅわっちぃ!」 カーバンクルが軌道をズラしたおかげで、 ユウはなんとかシェイドの攻撃をかわすことができた。 「ド、ドキがムネムネしたぜ・・・。」 「おい、勝手にくたばるなよ。俺の手駒としての役目を果たしてから死ね。」 「いつからお前の手駒になったッ!」 「残るはシェイドひとり・・・いかなシェイドといえど、  洗脳の影響下にある状態でユウと魔獣を同時に相手にするのは難しいだろう。  ・・・おとなしく負けを認めろ、カイン。」 「俺様は慈悲深いからな。今ならカレー500杯で許してやるぞ?」 確かに絶望的な状況だった。 カーバンクルはバジルの洗脳下にあるようなので、 本来カーバンクルが持っている力の全てを発揮できていないようだが、 ルイとユウはお互いを信頼し合い、ユウの弱点をルイが上手くカバーしている。 その力は2倍・・・いや、10倍にも膨れ上がっているだろう(ゆで理論的に)。 それに対し、こちらはシェイドを強引に洗脳したために、 戦闘力を大幅に押さえ込んでしまっている。このままでは・・・このままでは・・・ッ! 「ぐぐ!」 「どうすんだよ、大将!?」 シェイドを取り囲み、カーバンクルとユウがじりじりと距離を詰める。 「(こ、こ・・・こけにしやがって・・・。   しかし・・・しかし!ルイ・・・このどたん場に来て・・・   やはりお前はレアハンター失格だ・・・クククク・・・   <アイテムは役に立ってこそ>という人間の考え方をする・・・   <充実感に欠ける>とか<簡単に手に入ったら興ざめ>だとか・・・   使用期限切れのおくすりにも匹敵するそのくだらない物の考え方が命取りよ!   クックックックッ・・・このカインにそれはない・・・。   あるのはシンプルなたったひとつの思想だけだ・・・たったひとつ!   <レアモノをゲットする>!それだけよ・・・それだけが満足感よ!   過程や・・・!   方法なぞ・・・!)   どうでもよいのだァーーーーッ!!!」 ゴオオオゥンッ!! 突如シェイドを中心として、強力な力の嵐が発生するッ! 「まさか・・・ドラゴンズ・アイの力を暴走させる気かッ!?」 ルイの言葉に、バジルが焦りの色を見せる。 「なんだと・・・!?そんなことをしたら・・・。」 「先ほどの魔獣の攻撃など比ではない・・・この街もろとも全てが吹き飛ぶぞ!」 実況席のソフィアも、ただならぬ状況にあることを理解した。 「こ、これは大変なことになってまいりましたァーッ!  シェイド選手のドラゴンズ・アイの力が暴走すると、  辺り一体が吹き飛んでしまうようですッ!  バジル選手、ルイ選手、これを止めることができるのかッ!?  果たして私はこんなところでのんきに実況をしていていいのか〜ッ!?  どう思われますか?解説のガルドゥーン様?」 「私はネトゲをやっている。一生やっている。私に構うでない。」 「拗ねてしまっています!  ガルドゥーン様、私の言葉に拗ねてネトゲを一生止めないつもりですーッ!」 「ちぃッ!カーバンクルッ!」 「ぐぐ!」 「そう簡単には捕まらんッ!」 シェイドはドラゴンズ・アイの力を暴走させながら、闘技場を逃げ回る! 「ぐ、ぐぅ。」 逃げることに集中したシェイドには、もはやビームは当たらない! ならば接近戦とばかりに、ユウが飛び出した! 「残念だけど、はやさで負けちまったらアイデンティティに関わるモンでね!」 「ユウ、確かにお前のスピードは大したものだ。  だが、洗脳されているとはいえ、シェイドを捕らえられるほどではないッ!  自惚れるなァッ!!」 シェイドは、自分を捕らえようとするユウの腕をくぐるようにかわし、逃げようとする。 「確かにな。だけどな、今の俺はひとりじゃねぇッ!」 「そういうことだ。」 なんとユウは、自分の真後ろにいるシェイドを的確に掴んでみせた! ルイがシェイドの位置を確認し、 ユウに伝えコントロールすることによって出来た絆のなせる技であるッ! 「くッ!・・・ルイ、貴様ァーッ!!」 「今だ、やれェーッ!」 ユウはシェイドを羽交い絞めにし、カーバンクルへと向けた。 動けないシェイドにビームを打ち込ませる算段らしい。 「なッ、貴様も一緒に吹き飛びたいのか!?」 「なんだ・・・お前、俺の心配してるのか?」 ユウは予想しなかった言葉に驚いた。バジルは顔を赤くして反論する。 「んなッ・・・そ、そんなワケがないだろうッ!  もし仕留めそこなった時、手駒が減っていると面倒だからであってだなぁ・・・!」 「バジル、ユウなら大丈夫だ(多分)。遠慮なく全力で撃ちこめ。」 「ア、アニキ、それは俺の力を信頼しているんだと解釈していいんだよな・・・?」 「もちろん信頼しているさ。  お前はここぞという時は必ず俺が驚くほどの力を発揮してくれる。  ・・・安心して肩を並べることのできる戦士だ。」 「きゅ、急に素直に褒めるなよ・・・照れるじゃねぇか。」 ルイとユウ兄弟の言葉を聞いて、 バジルは急に自分の中で何かが冷めていくのを感じていた。 「・・・信頼、だと・・・。」 「何をしている。バジル、はやく撃てッ!」 「ッ!んなこたぁ言われなくてもわかってんだよ!  カーバンクル!カーバンクルビームッ!!」 グアッキィィィィッ! しかし、ビームがシェイドに届くことはなかった。 「くっ、ドラゴンズ・アイの力がビームを打ち消している・・・。」 「ちぃぃィッ!」 ルイとバジルの顔に焦りが生まれる。このままシェイドを止められなかったら・・・! 「バジル、お前の魔獣はまだまだ余力を残しているハズだ。  サキとの戦いで見せた力は、この程度ではなかったろうッ!?」 「・・・。」 「バジルッ!」 「黙れッ!」 バジルは珍しく激昂した。 その顔には、いつもの彼が見せるような余裕はもう欠片も存在しなかった。 「・・・。」 「(ルイ・スティンの言うとおり、カーバンクルの力を解放することは可能だ。   しかし・・・もし、カーバンクルが翡翠石の洗脳下から解放されたら・・・。)」 「バジル・・・。」 「くっ・・・。」 バジルは、自分でもよくわからない感情に襲われた。 それが何なのか理解できず、ただ怖くて、悲しくて、悔しくて、拳を握りしめた。 「お前は、自分の仲間すら信用できないのか?」 「ッ!?・・・信用・・・信頼・・・だと?俺が・・・信頼?フン、バカな・・・。」 バジルは誰も信用していない。 今まで、自分の力だけで生きてきた。他人は全て敵だった。 今までずっとそうしてきた。そしてこれからも・・・。 「少なくとも、あちらはお前を信頼して指示を待っているように見えるがな。」 「翡翠石の力でコントロールされているからにすぎない!  いい加減その煩い口を閉じろッ!耳障りだッ!」 ルイはバジルの激昂を正面から受けとめた後、すっ、とカーバンクルを指差した。 「お前には、アレが洗脳されている目に見えるのか?」 「なに・・・。」 カーバンクルはバジルをずっと見つめている。 指示を待っている。洗脳によるコントロールではない。 自分自身の意思で、バジルを、バジルだけを待っている・・・! 「ぐ!」 「・・・カー、バン・・・クル・・・。  ク・・・ククククク・・・ハァーッハッハッハッハッハッハッハッハッ!!!  そうか、そうだったか・・・。翡翠石を通して伝わってくるぞ、お前の気持ちが・・・。  ペットは飼い主に似ると言うが・・・お前もそのクチだったとはなッ!  わかってるなァ?わかってるじゃねぇか!!そう、俺もお前と同じ気持ちだぜ?  あのボケナスをブッ倒してやりたいってなァーーーーーッ!!!」 「ぐ、ぐ、ぐ、ぐ、ぐ、ぐーーーーッ!!!」 伝わってくる、カーバンクルの気持ちが。 伝わっていく、俺の気持ちが。 翡翠石を通じて、俺の力がカーバンクルへ流れ込んでいくのを感じる。 だが、不思議と不快ではない。むしろ、心地よい・・・。 これが・・・これが・・・。 「カーバンクルッ!夢想しろ。アイツをブッ倒した自分の姿をッ!  あの気に入らないスカした顔が絶望に染まったビジョンをッ!!  笑えるだろう?笑えるよなァ!?  圧倒しろッ!踏みにじれッ!!己の力で全てを蹂躙しろォォォォォッ!!!」 カーバンクルは、自らの力とバジルの力を<ルベルクラク>に集中し、 一気に放出するッ! 「ぐっぐぐーーーーッ!!!」 それは、サキとの戦いで見せた紅の閃光ではなかった。 紅の閃光と黒き闇が交じり合い、血色の混沌が解き放たれるッ! ピシ、ピシピシビシッ! 「バ、バカな・・・ドラゴンズ・アイにヒビを入れるだとッ!?」 「うあ、ヤベッ。」 ユウがすばやく離脱する。 カインはありったけの力でドラゴンズ・アイの力を解放しようとするが、 血色の世界はシェイドの全身を飲み込んでいくッ! バチバチィィッ!! 「ぐ、ぐあァッ!」 血色の世界はシェイドを経由し、カインにもその侵食を伸ばしていた。 カインはたまらず翡翠石を放り投げる。 「お、おの・・・れ・・・!逃げるぞ、ダグラス!」 「お、おお・・・!」 カインは逃げようと振り向くが、その瞬間何かにぶつかってよろめいた。 「くっ、な、なに・・・あ・・・。」 カインの前には、シオンが今だかつて見たことも無いような物凄い形相で立っていた。 後ろを振り向くと、シェイドが普段通りの顔で、 しかし明らかに怒気をまとって立っていた。 「カイン・・・。」 「ダグラスさん・・・。」 『ちょっと体育館裏まで来い・・・。』 『あ、あああ・・・・ああああぁ〜・・・・。』 その後、彼らの行方を知る者は、誰もいなかった・・・。 ーーー 「これで彼らも、少しは頭を冷やすだろう。」 ルイはすばやく剣を抜くと、バジルに突きつける。 「バジル、次に会った時こそが・・・貴様の最後だ。」 バジルはディアボロスの剣先をしばらく見つめていた。 やがて、ニッ、といつもの不敵な顔を取り戻すと、 自分も抜刀しディアボロスに打ち付けた。 「フン、その言葉そのままそっくり返してやる・・・とでも言って欲しいのか?」 ルイはいつも通り無表情な顔でバジルを睨んでいたが、 剣を収めるとユウを連れて去っていった。 バジルには、ルイの顔が笑っていたように感じられた。 ーーー 「さぁて・・・そろそろ決着をつけようじゃねぇか。」 バジルはキッとヘルテイマーズ最後のひとり、No,1を睨みつける。 ヘルテイマーズNo,1は、この戦いがはじまってからほとんど動いていない。 不気味なほどに静かに佇んでいた。 「そうだな・・・もはや前座はいるまい。最終幕だ。  はじめよう、混濁たるフィナーレを・・・。」 ヘルテイマーズNo,1は、ついにその正体を明らかにする・・・ッ! ヴァサッ! 「ゲェーッ!・・・なんて言う必要はないよな。  こんなくだらねぇことを仕組むヤツはお前しかいねぇ。  だよなぁ、キリトッ!」 ローブの下から姿を現したのは、魔将軍のひとり、キリトであった。 「やれやれ、風情というモノを解せない人ですねぇ。  こういう時はわかりきっていたとしても空気を読んで、  <な、なんだってー!>と言うモノなのですよ?」 キリトは天使のような笑顔を向けながら言った。 ルイの無表情さは、能面のように感情を表に出さない無表情さだが、 キリトはまた違う意味で表情がなかった。彼の顔から笑顔が消えることはない。 笑顔以外の表情を見せないため何を考えているのかわからない、底の知れない男であった。 「なんとぉーッ!最後に残されたヘルテイマーズNo,1の正体は、  ロ○ット団並みのエンカウント率とは○れメタ○並みの逃げ足に定評のある  魔将軍キリトだったァーッ!」 「ご紹介に与りました魔将軍キリトです。どうぞよしなに。」 さりげに酷い(?)紹介をされているにも関わらず、 キリトは気にも留めていない様子で丁寧に頭を下げた。 「悪いが、お前の笑えない冗談に付き合っていられるような気分じゃねぇ。  何のつもりでこんなことをしたのか知らないが、さっさと潰させてもらう。」 「ふう、余裕を持てない人は可哀想ですね。  魔物生、ゆとりがなくては楽しめませんよ?」 やれやれ、とキリトは両腕を大げさに広げてみせる。 「ゆとりの塊みたいなヤツに言われたくねぇよ。」 「やれやれ、本当に風情も何もない人ですねぇ。  いいでしょう・・・ではお見せしようではありませんか。  私の最後にして最高傑作・究極の魔獣をッ!」 キリトは、パンッ!と両手をつけると、呪文の詠唱を始める。 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!! 光が迸り、まるで地震が起きたかのような轟音を発する! 「これは・・・空間に干渉する禁呪かッ!?」 バジルの疑問に答えるかのように、空間の軋みが激しさを増していく。 そして・・・。 カッ!!! 閃光が爆発し、周囲は光に包まれた。 徐々に光が収束していき、そこに現れたのは・・・。 「い、犬・・・?」 どこからどう見ても、何の変哲もない子犬だった。 「はい、私の最高傑作、<キメラ・かませ犬>。名前をバジルと申します。」 「・・・は?」 「だから、かませ犬のバジルです。」 「アンッ!」 バジル(犬)はバジル(魔物)に唸りながら吠え立てた。 体は小さくても気だけはかなりの大きさらしい。 「さぁ、いきなさいバジルッ!」 バジル(犬)はカーバンクルへ猛然と駆けていき、するどい犬パンチの連打を浴びせる! 「ぐー・・・。」 しかし、カーバンクルにはじゃれついているようにしか見えなかった。 「ああッ!もっと頑張りなさいバジル!」 「ぐー?」 カーバンクルがバジル(犬)と遊んであげようと手を伸ばすと、 バジル(犬)は怯えて逃げ出してしまった。 「こらバジル!敵を前に逃げ出す者がいますか!」 カーバンクルが近づくと、バジル(犬)の恐怖は頂点に達したようで、 降伏のポーズを取りつつ失禁してしまった。 「情けないですよバジル!あぁ、そんな格好ではしたない!  あなたには羞恥心というモノがないのですか、バジルッ!」 「なぁ、キリト。」 「はい、なんでしょう?」 「もしかして、これがやりたかっただけか?」 「はい、その通りですよ。」 「消し飛べェーーーッ!!!」 こうして魔将軍キリトは、血色の奔流の中へ消えていったのだった。 ーーー 「はぁ〜い、あ〜んしてくだちゃいね〜。」 「ぐー。」 俺は手作りの特製ビビンバカレーをスプーンでカーバンクルに食べさせてやる。 「おいちぃでちゅか〜?」 「ぐー・・・。」 いろいろと面倒なことがあったが、 キリトからもらった(奪い取った)お金のおかげで、 カーバンクルのカレー代にも当分困ることはなさそうだし、 まぁ、結果オーライというヤツか。 「あッ、こらバジル(犬)!カーテンを噛むんじゃない!」 「クゥーン。」 彼の顔は温かだった・・・。 魔将軍としての彼のその強さ、恐ろしさを知らぬ者が見たならば、 その目には心優しい若者の姿が映っているだろう。 もちろん、彼がこんな姿を見せるのは、 カーバンクルやバジル(犬)等、バジル(魔物)自慢の魔獣達に対してのみである。 フッ、本当に無能な手駒を持つと苦労するぜ。やれやれだ。         魔将軍バジルのカレーなる日常                完 ヘルズ・キッチンの一室。深夜、黙々と机に向かう人物がいた。 「フフフ・・・今日もまた新しいコレクションが増えました。  勉強不足ですよバジル。写真というモノは簡単に焼き増しできるのです。」 コンコン、とノックの音が静かに響く。 「開いてますよ。」 部屋の主の了解を得て、ドアは音も立てずに静かに開いた。 「はぁい、キリト。私の分もちゃんと焼き増しできてる?」 「もちろんですよサキ。こちらがあなたの分です。」 キリトは封筒をサキに手渡す。 サキは封筒を受け取ると、さっそく中身を確認した。 「ありがと。・・・クスクス、何回見ても面白い顔ねぇ。」 サキは全ての写真に一通り目を通すと、封筒にしまった。 「で、今日のこと、全部あなたの計算通り・・・ということなのかしら?」 「さて、いったい何のことでしょうかね?」 サキは人の顔を見れば、その人間が何を考えているか、大まかに知ることができる。 しかし、サキの目をもってしても、 キリトの笑顔から真意をうかがい知ることはできなかった。 「ホント、バジルと違ってあなたはかわいくないわねぇ。」 「それはお互い様ではありませんか?サキ。」 「あら、失礼ね。これでもモテるのよ?人間にはね。」 「これは失礼。魔物である私にはあなたの魅力は高尚すぎるようだ。」 言って、二人はクスクスと笑いあった。 しばらく笑いあった後、キリトが静かに口を開く。 「正直、私はあなたを信用していません。  ですが、あなたは唯一<私と同じ趣味>を持つ方だ。  そういう意味では、私はあなたをとても大切に思っていますよ。  その気持ちに嘘はありません。  ひとつしかない<遊び道具>を分け合わなければいけないのは残念ですが、  価値観を同じくするモノがいないことほど寂しいモノもないですからね。」 「あら、分け合う必要なんて無いわよ? <二人で仲良く遊べば>いいんですもの。」 サキの言葉に、キリトは少し意外そうな顔をするが、すぐに元の笑顔を浮かべて言った。 「・・・フフ、違いありません。」 魔将軍バジル、その受難の日々はまだまだ続く・・・。         魔将軍キリトのバジルいじり日記                完 ◆企画者のコメント◆ バジルとカーバンクルの関係がついに明らかに! …とはいえ、カーバンクルがやけに可愛くなっておりますが(笑 彼に対しての愛をひしひしと感じる作品に仕上がっていますね。 バジルがよりいっそう、ハジけちゃってます。