“パニュール・ピニョール”、ガイア世界を代表する酒の名である。その味は好みが分かれる、いやむしろ万人向きではないとされる。 しかし、それ故にごくわずかしか生産されず、大変希少な酒である。 ラーハルト:「・・・。 それで、その話は私とどのような関係があるのでしょうか?」 いつものように、現状を報告しに来たラーハルトに、魔王ヴェイクは突然パニュール・ピニョールの説明を始めた。 ヴェイク:「なんだ、わからんのか? つまり、俺は今話した酒を試したいと言っているのだ。 だが、大変入手しにくいらしい」 ラーハルト:「そこで、聖ヘレンズ城下町に顔を出してもおかしくない私がその酒を探して来る、という訳ですね?」 ラーハルトはため息をついた。 しかし、断るわけにもいかない。 しぶしぶ了解した。 ***聖ヘレンズ城内*** ラーハルト:「カイン将軍、ここにいたのか」 カインが自室に戻ろうと城内を歩いていると、前方よりラーハルト最高指令官がやって来た。 どうやらカインに用があるようだが、彼のほうから来るのは珍しかった。 ラーハルト:「実は貴公に頼みたいことがある。 パニュール・ピニョールという名の酒は知っていると思うが、私の大事な知り合いがその酒を飲みたいというのだ。 しかし、数が少ないと聞いている。 貴公なら何か知っていると思ったのだ」 カイン・ヴァンスは、若くして聖ヘレンズ国の四大将軍の一角を担う実力者だが、彼を知る者は彼のもう一つの一面も知っていた。 それは、彼が“マニア”ということである。 つまり、彼は“レア”な物には目が無いのだ。 カイン:「パニュール・ピニョールですか? たしか、一本持っていたと思います。 これから部屋に戻ろうと思っていたのですが、ご一緒しますか?」 ラーハルト:「そうか、持っていたか。 ならば、そうしよう。 しかし、私がもらってもいいのか?」 カイン:「はい。 将軍に任命される際、祝杯用に用意していたのですが、結局酒場で祝杯を上げたものですから」 カインの部屋に行くと、そこにはすでに先客がいた。 ユウ:「お! カイン、遊びに来たぜ!」 ユウ・スティンである。彼もまた若くして四大将軍の一角を担い、将来を有望視されている。 が、持ち前の陽気さが災いして、周りからひどい扱いをされている。 カイン:「遊びに来た、と言われても何も出ないぞ。 それに、先約がある」 ユウが「なんだろう?」と言うような調子で首を伸ばしてカインの後ろを窺うと、ぎくりとした。 ラーハルト:「ユウ将軍、貴公はここで何をしているのだ?」 ユウ:「げ、ラーハルト! なんで、カインと一緒にいるんだ!?」 カインは妙だと感じた。 この間まで普通に接していた二人が、ラーハルトは嫌悪感をあらわにし、ユウは居心地悪そうにしている。 だがすぐに、ぴんと来た。 ユウが、何かへまを犯したに違いない。 カイン:「ユウ、今度は一体何をしでかしたんだ?」 カインは、半ば呆れながらユウに尋ねた。 しかし、答えたのはラーハルトだった。 ラーハルト:「ユウ将軍は以前私の部屋に用があって来たときに、大事なチェスの駒を壊したのだ」 ユウ:「で、でも、もうそれは弁償しただろ。 そんないつまでも根に持たれたら堪んないぜ! だいたいだな〜・・・」 ラーハルト:「貴公は普段からどこか抜けているのだ。 それが直る気配が無いことに、腹を立てているのだ」 ユウの長話が始まる前に一喝して止めてしまった。 ユウの扱いは手馴れたものである。 ラーハルト:「さて、カイン将軍、例の酒はどこにある?」 ユウ:「例の酒?」 カイン:「パニュール・ピニョールのことだ」 ユウは再びぎくりとした。 顔は真っ青になり、冷や汗が流れていた。 これほど狼狽するユウも珍しかった。 ラーハルト:「? どうした、ユウ将軍? 悪いものでも食べたのか?」 ユウ:「い、いや〜、どうもあの酒は苦手で〜」 ラーハルト:「ふむ、まあ私もさほど好きというわけではないが・・・。 しかし、それほど苦手なのか?」 ユウは、「ま、まあ」と答えながらも、なぜか目を合わせようとしなかった。 ユウ:「あれ? そんなに好きじゃないんなら、なんでその酒がほしいんだ?」 ラーハルト:「ああ、私の知人がその酒を試したいといってな、断れる相手ではないからな。 そういえば・・・」 ここでラーハルトは、カインがいまだに戻ってこないので、呼びかけた。 ラーハルト:「カイン将軍、どうした? まだ見つからないのか?」 やがて、暗い顔をしたカインが戻ってきた。 カイン「すいません、ラーハルト司令。 なぜかパニュール・ピニョールが無くなっているのです」 ラーハルト:「なに、どうして無いのだ?」 カイン:「どうも、誰かに取られたようです。 俺の他のコレクションが数点無くなっています。 おそらく、この間の魔獣の森での任の間に、誰か忍び込んで盗んだのかもしれません」 ラーハルト:「ほう、この城で、将軍の部屋から窃盗を試みるとはな。 まあ、犯人も覚悟の上でやっただろう。 さて、どのような罰がいいかな?」 と、ここでユウがやっと落ち着きを取り戻したのか、意見を述べた。 ユウ:「なあ、ラーハルト、いくら将軍の部屋で事が起こったとはいえ、あまり大ごとにしちゃまずいだろ? 将軍の信頼に関わる」 ラーハルト:「ならば、どうすると? 罪人は罰しなければならん。 それが法律というものだ」 カイン:「そうだぞ、ユウ。 俺の大事なコレクションが盗まれたんだ。 死刑じゃもの足りん。」 ユウ:「カイン、落ち着けって。 そうじゃなくて、だからここは内密に調査をするんだ。 まあ、最高司令官様は内密に行動するのは向いていないから、俺とカインの二人で犯人を捜そうと言っているんだ」 ユウの意見を聞き、二人はしばらく考え込んだ。 カイン:「まあ、俺としては悪くない。 犯人を自分の手で捕まえたいからな」 ラーハルト:「そうだな、今はその段階でも構わんだろう。 すでに、カイン将軍の任務終了からおよそ三日。 その物自体がいまだに存在するかどうかわからん」 カインは、ラーハルトの最後の言葉が不吉なものに思えた。 ラーハルト:「まあ、どちらにしても、今貴公から酒を手に入れることはできないことは確かだ。 他をあたるとしよう」 カイン:「すいません、ラーハルト司令。 お役に立てなくて」 ラーハルト:「なに、気にするな。 貴公の被害に比べれば、私のことなんて微々たるものだ」 そう言い残し、ラーハルトはさっそうと、肩を落としながら、カインの部屋を出て行った。 カイン:「犯人捜し、と言ったが、当てでもあるのか?」 ユウ:「いや、特に無い」 ユウはきっぱりと言い切った。 カイン:「当てがあるわけではなかったのか。 では、どうやって探す気でいた?」 ユウ:「そんなの、俺様の愛と愛と愛で〜・・・。 おい! カイン、どこに行くんだよ?」 いずこかへと歩き出していたカインを呼び止めると、踵を返してユウに詰め寄った。 カイン:「ユウ、真面目に考えろ! 俺のコレクションが盗まれたんだぞ!」 ユウ:「頼むから落ち着けって」 ふと、二人の言い争いに、一人の男が割って入った。 聖ヘレンズ国最強の剣士、シェイド・ハーベルトだった。 シェイド:「二人して何を騒いでいるのだ」 カインは、事のあらましをシェイドに話した。 シェイド:「カイン、部屋に鍵を掛けなかったのか? それなら、盗られても相手を一方的に責めることはできないぞ」 カイン:「まさか将軍の部屋を荒らす奴が城内にいるとは思わなかったから」 シェイド:「しかし、城内にスパイがいないとは限らん。 奴らはこちらの隙を常に窺っているぞ」 ユウ:「奴らって? シェイドは何か知っているのか?」 シェイド:「たとえばの話だ。 それにしても、将軍の部屋が物色されるとはな。 私も気を付けたほうがいいかも知れん」 ユウ:「まったくだぜ。 物騒な世の中になったもんだ」 シェイド:「そういえば、犯人はよりにもよってパニュール・ピニョールを盗んだのか? やはり、売却目的か?」 ユウ:「やっぱりシェイドはあの酒の味を知っているんだな」 シェイド:「当然だ。 何度かジェラルド師にいただいた」 カイン:「師匠と? 驚くほどのことではないが、初耳だな」 シェイド:「ああ、たとえばお前との稽古を終えたあとに一緒にしたこともある」 カイン:「そのときのことはぜひ聞きたいが、今は目の前の事件を考えたい。 シェイドは、俺が任務に当たっていた数日前、怪しい人は見なかったか?」 シェイドはここしばらくの記憶を呼び起こしていった。 やがて、ゆっくりと答えだした。 シェイド:「怪しい人影はおろか、特に大した事は起こっていない。 強いて言うなら、お前が魔獣の森に出発したころに、ラーハルト司令がユウのことを叱りつけていたぐらいだ」 おそらく、ユウがラーハルトが大事にしているチェスの駒を壊したときのものだろう。 カインとユウはその場でシェイドと別れた。 しばらく、城内にいる兵士やめいどにそれとなく聞き込みをしたが、怪しい人物は誰も見ていなかった。 いったん休憩しようということで、城の中庭に出ると一人の女性がいた。 リナ:「あら、カイン、それにユウも。 二人そろってどうしたのですか?」 リナはいつものように凛とした様子で、二人の事を尋ねた。 カインとユウは、リナが同じ将軍ということも考えて、詳しく説明した。 リナの顔は驚きの表情に変わっていったが、話を中断することなく、最後まで二人の話に耳を傾けた。 リナ:「すごい人がいるものですね。 よりによって、カインからコレクションを盗むなんて」 ユウ:「なんとなくだけど、ずいぶん感情のこもった言葉だな」 リナ:「ええ、もちろん。 私は以前、ヴェイク将軍の下にいたことがあるのですから」 ユウ:「そういえば、ヴェイク将軍もレア物好きだったな」 リナ:「そうですね。 そして今は亡きジェラルド将軍も。 なんで、この国の将軍にそういった人種が多いのかしら」 二人はついついカインの方に目を向けてしまう。 カイン:「? 二人ともどうした? 俺の顔に何かついているのか?」 そして、二人は同時にため息をついてしまった。 リナ:「それにしても、ラーハルト司令の知人も物好きですね。 パニュール・ピニョールを試したいなんて」 ユウ:「お、やっぱりリナも飲んだことがあるのか?」 リナ:「ええ、ヴェイク将軍と一緒にお食事したことがあって、そのときに」 リナは少し顔を赤らめながら、うれしそうに答えた。 リナ:「そういえば、カイン。 ラーハルト司令が例のパニュール・ピニョールを欲しがっているのですね。 だったら、ダーク参謀が持っているかもしれない知れません。 彼はお酒に詳しいようですので」 カイン:「そうか、それではダーク参謀を探そう。 情報をありがとう」 ユウ:「サンキュー、リナ」 二人は、リナに別れを告げると、ダーク参謀を探した。 カイン:「ユウ、今までの聞き込みでダーク参謀見かけたか?」 ユウ:「いや、俺は見てねーけど? どこに居んのかね〜」 ふと、廊下の先、ラーハルト司令の部屋より男が一人出てきた。 ダーク参謀である。 カイン:「ダーク参謀! 探しました。 ラーハルト司令に何か御用でしたか?」 ダーク:「ああ、カイン将軍、それにユウ将軍。 今ちょうどお二人の話をし終えて出てきたところです。 話は窺っておる。 カイン将軍、とんだ災難でしたな」 カイン:「ええ、まあ。 実はダーク参謀にお会いしようとしたのはその件に関してです」 ダーク:「パニュール・ピニョールを持っているかどうかかな? 実は幸運にも最近一本入手しての、まあ自分が飲めないのは残念だが、ラーハルトに恩を売っておいて損は無いからの」 ユウ:「じゃあ、ラーハルトに関しては解決したって事か?」 ダーク:「あとは、お二人が犯人を捕まえるだけだ。 期待してるぞ」 そう言ってダークは二人と別れた。 とりあえず、一段落ついたらしいので、ユウの部屋で休むこととなった。 しかし、ユウの部屋に着くとすでに二人も先客がいた。 ユウ:「シェイド、リナ、なんで俺の部屋にいるんだ! カインと違って、鍵は掛けたはずだぞ!」 ルカ:「ルカが部屋の鍵を開けたダニ。 ユウしゃんよりもずっと信頼できる二人ダニ」 ユウ:「くぅ〜、猫にバカにされた」 ルカ:「ルカはれっきとした聖魔ダニ」 カインは、一人と一匹をほっといて、シェイドとリナに訪ねた。 カイン:「二人してユウの部屋にいるなんて珍しいな」 リナ:「シェイドがカインの部屋で起きた窃盗事件について、しっかりと話し合うべきだと主張してね」 シェイド:「将軍の部屋から窃盗などあるまじき行為だ。 犯人を捜すのみならず、これからの方針も決めるべきだ」 カイン:「これからの方針?」 シェイド:「今回は、お前のコレクションが盗まれる程度だったからいいが、この人物が誰かの暗殺を企んでいたら?」 リナ:「もし、王やラーハルト司令、そして私たち将軍が暗殺されれば、大変な事態になります。 シェイドは内側にも目を向けるべきではないかと考えているようです」 ユウ:「でも、具体的にどうするんだ? 疑ってばかりだと、俺たち将軍への信頼もなくなるぜ」 いつの間にやらルカとの喧嘩を終えてきたユウが話に参加してきた。 カイン:「とりあえず、今は警戒レベルでいいのでは? それにしてもシェイドは今回いやにぴりぴりしているように感じるな」 リナ:「そうですね。 いつも冷静沈着ですけど、今回はいやに慎重ですね。 何かあったのですか?」 シェイド:「いや、特にそういうわけではないが」 三人ともシェイドが何か隠しているように感じたが、どう切り出してよいかわからなかった。 それは、彼が他の三人の将軍と比べて一線を画する強さを持ち、まさに無敵と言って過言ではなかった。 にもかかわらず、彼がここまで警戒する相手がいるというのは考えたくも無いことだった。 ユウ:「まあ、でも、今回の犯人はシェイドがそこまで警戒するほどは無いだろ」 カイン:「ユウは犯人に心当たりがあるのか?」 ユウ:「い、いや〜、捜査を始める前にも言ったけど、心当たりなんて無いよ」 それでもカインはユウの言うことが信じられなかった。 ユウが何か知っているような気がしたのだ。 と、そのとき、部屋のどこかにいたルカがやって来た。 額に何か紙のような物を乗せている。 ルカ:「ユウしゃん、これなんダニ?」 その額にある紙を覗き込んだユウの顔が、真っ青になった。 他の三人も紙を覗き込もうとしたが、ユウがそれを遮ってしまった。 リナ:「ユウ、その紙は何? 何かの書類?」 ユウ:「な、なんでもない。 本当になんでもない」 ユウは引きつった笑みを浮かべながら、その紙を取ろうとした。 が、一瞬早く、カインがその紙を取り上げた。 ユウ:「げっ!」 ユウはカインに背を向け、こっそりと部屋を出ようとした。 しかし、カインはすぐに腕を伸ばし、ユウの肩をつかんだ。 カイン:「ユウ、ここに書かれている、『パニュール・ピニョール、他数点、買い取り証』とはなんだ? まさかとは思うが、このパニュール・ピニョールというのは俺のものじゃないだろうな?」 ユウ:「カ、カイン、あ、あの、落ち着いてくれ。 今説明するから」 カイン:「ほう、話は聞いてやろう」 ユウ:「実はラーハルトのチェスの駒、あれものすごく高くてな。 とても俺の手持ちの金じゃ払えなくて、それでつい。 あ、で、でも、いつかちゃんと返す予定だったんだぜ。 ただ、返すときに言おうと思ってな。 だから、あの、許して」 「てへっ」という感じでユウは許しを請う。 だが、 カイン:「話は終わったか、ユウ」 ユウ:「ま、待て、カイン。 聖剣ファルコンを抜いてどうするんだ!?」 カイン:「こうするのさ」 カインは構えた。 その構えは、ほぼ間違いなく、聖ヘレンズ国に伝わる奥義につながる構えである。 ユウはとっさに、他の二人を探した。 シェイドならカインを止められるだろうし、リナもいれば確実だからだ。 しかし、二人とルカは、いつの間にか部屋の外、戸を開け、廊下から様子を見ていた。 助ける気は無いようだ。 ユウは決意した。 ただでやられるわけにはいかない。 こちらも奥義で対抗しようとカインと向き合った。 それがいけなかった。 今のカインはもはやシェイドを越えかねないオーラを身にまとっていた。  それを悟った瞬間、頭の中で、ユウの今までの人生が走馬灯のごとく浮かんだ。 そして・・・、 カイン:「光の前に消え失せろ! これが奥義・光の翼だ!!」 部屋の中が光に包まれた。 そして、爆音のごとき衝撃音が響き渡った。 あとには、ユウの屍が残されていた。 カイン:「平和な時代を・・・必ず・・・」 カインはその言葉を残し、ユウの部屋を後にした。 リナ:「シェイド、今の“光の翼”、ヴェイク将軍が私に見せてくれたものに迫るものがありました」 シェイド:「ふっ、腕を上げたな、カイン」 シェイドはやや満足した様子でその場を後にし、リナもそれに続いた。 そして、残ったルカは、 ルカ:「ユウしゃん・・・、今までありがとうダニ」 ***魔王城ヘルズ・キッチン*** ラーハルトが城の中を歩いていると、前方に二人の人影が見えた。 キリトとバジルだ。 ラーハルト:「何だ、お前たちか」 キリト:「おや、ラーハルト、その手に持っているのは何ですか」 ラーハルト:「ヴェイク様の命令(わがまま)で手に入れてきた、パニュール・ピニョールだ」  キリト:「ヴェイク様が?」 キリトは少し考え込むようにうつむいた。 バジル:「くくく・・・、つまりぱしりを任されたわけだ。 ご苦労だな」 ラーハルト:「そうだな、どこかの魔獣使いよりはしっかりと任をこなすと思われたのだろう」 バジル:「ああ、何だと!」 キリト:「まあまあ、バジル。 実際あなたはどこか自分勝手なところがありますからね。 そういうところは気をつけないと」 バジル:「ちっ」 ラーハルト:「それで、何を考えていたのだ」 キリト:「いえ、もしその酒を思い出してから頼んだのでしたら、少々厄介ですね。 媒体となったヴェイク元将軍の意思が勝ってしまうかもしれません」 ソフィア:「それなら大丈夫でしょう」 彼ら三人の下に、腕に大きな包みを抱えた、一人の女性がやって来た。 キリト:「それはどういうことですか?」 ソフィア:「以前、ヴェイク様が退屈になされていたので、少し私が外の世界を話したのです。 そのときに、お酒にも触れ、パニュール・ピニョールのことも話したからです。 希少ということも話したので、それで興味を持たれたのでしょう」 ラーハルト:「つまり、貴公が話したせいで、私はおつかいをさせられた、ということか」 ソフィア:「もしそうなら、申し訳ありません」 キリト:「しかし、もし希少という言葉に反応したなら、やはり問題ですね。 ヴェイク元将軍は、レアな物に目が無いと聞いたことがあります。 少なくとも警戒して損は無いでしょう」 バジル:「くくく・・・、ただの人間が魔王様の魂に打ち勝つことなどあるわけが無い。 まったく、何を心配しているやら」 ラーハルト:「貴公もどこか抜けているところがあるな。 曲がりなりにも魔王の媒体に選ばれた男なのだぞ、警戒するのは当然だ」 バジル:「貴様!」 キリト:「バジル、そんな簡単に相手の挑発に乗らないでください。 ソフィア、ヴェイク様のことですが、他の部分ではほとんどその兆候が見られません。 やはり、注意はしておくべきでしょう」 ソフィア:「そうですね、万全を期しましょう。 でも、もしそうなら、ヴェイク元将軍はどうやらよほど、レアな物に執着心が強かったようね」 ラーハルト:「魔王の魂を凌駕するほどにか?」 この一言に、他の三人はおろか、ラーハルト自身も寒気がした。 人間の欲は、時としていかなる脅威にもなりえることを理解した。 気まずい雰囲気を打破するために、キリトはソフィアが先ほどから抱えている包みを尋ねた。 ソフィア:「修復が終わったので、魔王ヴェイク様にお渡しする剣です」 キリト:「ああ、それでしたか。 それならば、我々四魔将も立ち会うべきでしょう」 四魔将が玉座に入ると、魔王ヴェイクはすでに到着を待っていた様子だった。 ヴェイク:「ソフィア、やっと例の剣の修復が終わったそうだが?」 ソフィア:「はい、ヴェイク様。 そして、こちらがその剣です」 ソフィアが包みを解くと、果たして、一本の剣が出てきた。 ソフィア:「七大聖剣が一つ聖剣ファルコンと対をなす剣、闇剣ファルコンです」 ヴェイクはその剣を手に取り、しばらく眺めていた。 ソフィア「? ヴェイク様、どうかされましたか?」 ヴェイク「いや、いまさらだが、この剣は“レア”だと思ってな」 四魔将:「!!?」 ◆企画者のコメント◆ ヴェイクがレア物好きなところや、ラーハルトがチェス好きなところなど、 かなりマニアックな部分が表現されていますね。 ラーハルトとヴェイク、カインやユウとラーハルトの日常会話など、 ゲーム中では見れない光景も新鮮で面白かったです。