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あの人の沸点 - 自由男 2006/11/27(Mon) 14:52 No.8

あの人の沸点 投稿者:自由男 投稿日:2006/11/27(Mon) 14:52 No.8
あの人は優しかった。
だから、私はあんなことが起きるとは思っていなかったのです。

あの人は厳しさの中にも優しさを秘めている人でした。

「どうしたカイン!そんな太刀筋ではとてもじゃないが戦闘にはでれんな!!」
「な、なんの!」
部下に指導している時、あの人はとても厳しかった。
でも、あの人は怒ってはいない。叱っていたのです。
それは、誰一人死んで欲しくないがゆえの厳しさ。
優しいからこその厳しさ。
あの人はそんな人でした。
あの人は料理が好きでした。

私もよくあの人に料理を教えてもらったものです。
「リナか・・・。これからクッキーを焼くのだが、お前も一緒に作るか?」
「は・・・はい。」
エプロンはちょっとアンバランスな気もしましたが・・・。
あの人はそんな人でした。

あの人はレアなものが好きでした。けれど・・・

「きゃあ!」
ガシャン!!
使用人の女性があの人の壺を割ってしまった時です。
あの人が初めに発した言葉は
「怪我はなかったか!?」でした。
「も、申し訳ありません!ヴェイク様が苦労して手に入れられた壺を・・。」
彼女は青ざめた顔をしていました。でも・・・
「いいんだ。」あの人が発したのはその一言だけでした。
「でも・・確かこの壺は南クロス城の王子が作らせた品で、世界に数個とか・・。」
「確かにこの壺は世界に数個だ。でも君は、世界に一人しかいないだろう?」
・・・少しだけ、ほんの少しだけなぜか気に障りましたが・・。
レアなものが好きでも本当に大事なものはわかっている人。
あの人はそういう人でした。
だから・・・あんなことが起きるとは本当に思っていなかったのです。
いえ・・・ある意味そういう人だったからなのかもしれません・・。

「カイン!あそこに置いてあったプリンを食べただろう!?」
すさまじい剣幕で部下の青年にくってかかるあの人。
「すいません!珍しいものだったので・・。」
「あのプリンは私が集めた貴重な食材を入れて作ったのに・・・。」
怒ってました。とても怒っていました。
叱るのではなく本当に怒っていました。
「ゆるさん!!光の・・・」
「くっ・・。あ!ユ、ユウ将軍!いいところに!!」
「お!?なんだなんだ!?」
「翼ぁ!!」
閃光とともに飛んでいく一人の銀髪の青年。
彼を盾にして逃げた青髪の部下。
それを追うあの人。
その日聖へレンズ帝国に未だかつてあったことのない惨劇が起こりました。


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