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まっぱに捧ぐbyジュイ - ゼロ 2006/11/27(Mon) 15:01 No.19

まっぱに捧ぐbyジュイ 投稿者:ゼロ 投稿日:2006/11/27(Mon) 15:01 No.19
オレの名はジュイ。
自分で言うのもなんだが超一流の戦士だ(戦死にあらず)。

……そんなオレだが今は必死の逃亡劇を繰り広げている。
たまに後ろに見える《赤い》物体にとてつもない悪寒を憶える。

……なんでこんなことになったのか……
……発端は……そう、今からほんの数十分前だった……


………………
…………
……


「……ヒマだ……」
グラスに入った液体を飲み干すと共に言葉を吐き出す。
……そう、オレは今、恐ろしいくらいヒマだった。
《DCC》に雇われてはいるのだが……仕事がない。
……いやまあ……最初はあったけどさ……
調査に行った後、バッチリ迷っちゃったりしたから……
……最近はずっとお留守番(泣)

しかも報酬はスズメの涙ときた(すごく少ないって意味だ)。
……まあ、衣・食・住におやつと昼寝が付いているから不満は無いが……
……金が無けりゃあ遊びにも行けねぇ。
いやまあ……金があったって雇われてるんだから勝手に外出は出来ないんだが……
……くそ、自棄酒(やけざけ)でもしたいぜ!
……あ、さっき飲んでたのはミルクだぞ。
仕事中(することも無いが)に酒なんて飲まねえよ。

「う〜ん……」
伸びをする……本格的にヒマだ。
趣味の読書もあらかた読み切ったし……そこ、意外だと思っただろ?
良いじゃねえか、オレが読書したって。
……けど読むのが早いうえに、面白いと寝る間も惜しんで読むから……
すぐに読む本が無くなるんだよなあ……
おんなじ本読んだってしょうがないし(物語なら少しはましだが)。


……と、いうわけで……オレが今からやることも当然のヒマ潰しなのだ。
オレの前には……風呂。
風呂の中には……ここ、DCCのリーダー……ディア。
仕事の後の一風呂らしい……
……結論、覗くべし!

ガラッ

ひゅん!

……え〜……今、オレの前を鋭いモノが通った……つーより……切り裂いた?


………………
…………
……


……つーワケでオレは今、赤髪を振り乱して追い駆けて来るディアから逃げている。
……ディアのヤツ……格好はバスタオル一丁のくせに手にはしっかり……刀。
(う〜ん……マジで斬られたらかなわん)
「まて! 考えたらオレ、お前の裸は見とらんぞ!」
いきなり斬り付けられたし(なんで風呂に刀が……)
「そういう問題じゃないだろうが!」
あ、やっぱし……
「じゃあ謝るぞ。もう地面に額擦り付けて」
「あんたは絶対にそれじゃあ懲りないだろう? だから一度、痛いめにあわせる!」
きゃあああっ!
ヤバイはマズイは生命がピンチだわ!


………………
…………
……


「おおっ! この壷は!」
俺の名はカイン・ヴァンス。聖へレンズ帝国 四大将軍の一人だ。
今居るここは《花の都 エル・デ・ルスタ》、この大陸では二番目に大きな街だ。
任務で近くまできたのでよっていくことにした。
なにかレアな品が手に入るかもしれないからな。
かくて品定めをしていると……後方がなにか騒がしいのに気付く。
「……なんだ?」
後ろを向けば……誰かに追いかけられている男が……って、あの白髪は!?
「ジュイ! ジュイじゃないか!」
「おお! カイン、久し振りだな!」
俺のそばで止まるジュイ……なぜか足踏みしたままだが。
「今までなにをしてたんだ?」
「いやまあ……色々と……って、積もる話はさて置いて!」
……確かにジュイの背後に誰かが迫ってくる。
「……とりあえず逃げるか?」
「そうしてくれると非常に助かる」


………………
…………
……


「……で、なんで逃げてるんだ?」
隣で走ってるカインが聞いてくる。
「ふむ。語ると長くなることながら……」
「……ああ」
「ちょっと風呂を覗こうとしたら……あ、テメ、なんだその軽蔑の視線は!」
「……お前が一方的に悪いんじゃないか! しかも全然長くない!」
「まあ、そういう意見もなきにしもあらずだな」
「大人しく捕まって制裁を受けてこい!」
「いやじゃー! ぜっっったい殺されるー!」
あのディアの目は……本気だ。
「墓は用意してやる」
「薄情者ー! オレとお前の友情はその程度だったのかー?」
「罪を償わせるものまた友情だ」
「正論だー けど、いやじゃー!」
「……ところでジュイ。お前やたら足速くないか?」
見るとオレとカインの間に差が出来てきてる。
「そんなにとばしてねえけど?」
「俺は全力だ! お前はどこまで非常識なんだ!」
「多分、頭のてっぺんからつま先まで」
「全部か!? しかも自分で言うな!」
「……お前等、人を無視してなに談笑している!?」
後ろを見ればディアが刀を振るって街路樹を切り倒したところ……なに!?
「コラー! 自然は大事にしろー!」
「そういう問題じゃない! なんで街路樹があんなにデカイんだ!?」
……カインの言う通り、斬られた木はやたらめったらデカかった。
「……樹齢何年だろ?」
「それよりもこっちに倒れてくるのを気にしろー!」
……ああ、そういやあこのままだとこっちに倒れるな。
オレは逃げ切れるけど……カインは無理だろうし……


………………
…………
……


……そういえばなんで俺は一緒に逃げてるんだろう?

そんな疑問が頭をかすめたが……今はそれどころではない。
(くっ……かくなる上は《光の翼》で……)
吹き飛ばすか……と考えていたが……
(……ジュイ?)
ジュイの気配が変わったので見てみると……
(……足?)
頭が足に……いや、ジュイが上下逆さまになっていた。
そしてその足が大木に触れて……

ドオンッ!

……大木を横に蹴り飛ばしていた。
「な、ななななな……」
いくらなんでもそれはないだろう……と思っていると。
「ふう、やれやれ」
……ジュイは平然としていた。
「おーまーえーはー……常識というものが無いのか!?」
「無い!」
「いばるな!」
「ふっ……戦士たるものこれくらいできねば……戦場では生き残れん!」
「嘘をつけ!」
「剣を振るってりゃあいい、お前等剣士とは違うんだよ」
「あ! お前それ問題発言だぞ!」
……なんて二人で問答していたが……
追ってきてた人のことを思い出して見てみる。
……今更だが彼女が……そう、女だと気付き。
そして……バスタオル一枚だと気付いた。
……辺りにはなんだか黒山の人だかりが出来ている。
……追ってきていた彼女はあまりの事態に呆然として……なっ!
バスタオルが落ちていく!

ファサ

……と、音を立ててバスタオルが地面に落ちる。
そこには……

「じゃすと・あ・も〜めんと!」

……訳わかんない言葉を言いつつ、
彼女に自分のマントを羽織らせているジュイが居た。
……速い、すでに人間の速度じゃない。


………………
…………
……


……あたしは……目の前の事が信じられずに不覚にも呆然としてしまった。
そして……体に巻いていた布が解けるのを感じる。
「なっ!?」
とっさに声は出た。
けど、体は動かない。
こんな公衆の面前で全裸を晒すわけには……
そんなことが頭をよぎった時、あたしの体には違う布が巻いてあった。

「……ふう、ヤバかった……」
隣で今回の当事者のスカポンタンが額を腕で拭っている。
今あたしの体に巻いてあるのは……そいつのマントだった。

「ジュイ! スゴイじゃないか!」
そのスカポンタンのロクデナシの所に青い髪のボウズが来る。
……どっかで見たような……
「フ、フ、フ……オレの身体能力は一般人など軽く凌駕してるのだ!」
「それは充分知ってるが……だが、ほんとにスゴイな」
「ああ……我ながらスゴイと思うぜ……
あの瞬間、全ての感覚か異常に鋭くなったからな……
元々、視覚や聴覚に嗅覚なんかも人並み外れてるんだが……
あの時は全てが止まっているように鮮明に見えたからな……」
……ちょっとまて。
「おい、あんた」
「ん、なんだ?」
「鮮明ってことはあたしにマントを掛ける前も……」
「バッチリ精密に事細かく♪」
「……やっぱり死ねえええぇっ!」
「ぎゃー!」


………………
…………
……


……かくて、俺は何故かは知らないがジュイと一緒に逃げるはめになってしまった。
「ジュイ! お前なら力ずくで彼女を止められるだろ!?」
「えー……オレ丸腰だぜ?」
「素手でも強いだろうが!」
「けどさー……やっぱ全面的にオレが悪いワケだし?」
「なら大人しく捕まれ!」
「いや、それはなんだか危険な香りが……」
「と言うより、悪いのが分かってるんなら覗くな!」
「いや、それは男のロマンなんだ!」
「人様に迷惑掛けるロマンなんて捨てちまえ!」
「いやしかし……人間美しいものを見たいのは当然の感情だと……」
「美術品でガマンしとけ!」
「もちっと艶かしいのが良いんだ」
「ワガママ言ってる場合か! 死ぬぞ!」
「それはそれで本望かもしれん」
「だったら一人で死ねー!」

……その後、俺はなんとかそこから離脱。ジュイは……まあ、逃げ切っただろう。


………………
…………
……


……かくて、《命懸けの鬼ごっこ》という最高の暇潰しは無事? 終了した。
ディアにはちゃんと謝って許してもらった。
……今はボコボコにされた顔を氷で冷やしてるところだ。

教訓
《美を求める者には死の影が付き纏う》

……皆さんは決して真似しないように。


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