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FREEJIA〜NightoftheBlueMoon〜 - ゼロ 2006/11/27(Mon) 15:00 No.18

FREEJIA〜NightoftheBlueMoon〜 投稿者:ゼロ 投稿日:2006/11/27(Mon) 15:00 No.18
「……《魔獣の森》に……ですか?」
「そうだ。本来ならばシェイド将軍に行ってもらいたいのだが……
生憎君以外の将軍は他の任務で城を離れているのだよ、カイン・ヴァンス将軍」


【ガイア暦1656年】
【ヴィッツア大陸 聖ヘレンズ帝国 聖へレンズ城】


「魔の森の調査でしたら俺一人でも十分かと……」

この日、聖へレンズ帝国 最高司令ラーハルトより
四大将軍の一人《カイン・ヴァンス》に与えられた任務……

「いや、今回の任務は調査ではない」

彼……カインの人生に少なからず影響を残した任務。
それは……

「……ある、一人の人間を探してほしいのだ」

………………
…………
……

【魔獣の森】
近年、『魔獣が居る』……と噂される森である。
故に、普通人間が出入りすることは少ない。
……そう、《普通》の人間ならば……


『《赤髪の鬼人》……そう呼ばれているそうだ』
(赤髪の……鬼人……)
『元は《南クロス大陸》に居たそうだが近年こちらに渡って来たらしい』
(魔法大国 南クロス大陸……)
『南クロス大陸の出身らしいが……魔法は一切使わず、剣技のみで戦うそうだ』
(…………魔法の国生まれの剣士、か)
『その剣技は凄まじく……一人で100の兵士を同時に斬り殺したと云われる』
(……眉唾ものだな。いくらなんでもそんな馬鹿な……)
『愛用している武器は赤い異常なまでの長刀だそうだ』
(大き過ぎる武器は逆に使い辛い筈だが……)
『その男と異教徒共が接触したとの情報が入った』
(異教徒……《カオス》……)
『よって、その男と接触、拘束し、真相を聞き出す。もし、抵抗するようなら……』
(………………)
『迷わず……殺せ』
(……一人の人間にそれ程危機を感じる必要が有るのか?)

ガササッ!

「……なんだ!?」
考えを中断し、音のした茂みに注意を向かわせる。

ドサッ!

「……何かが……倒れた?」
茂みの中を覗くカイン。
「!?  ……魔獣……しかも地獄の猟犬ヘルハウンド……なぜここまで?」


《ヘルハウンド》
通称『地獄の猟犬』と呼ばれる魔獣である。
複数で行動し、その俊敏な動きと強靭な顎の力で獲物を仕留める。
正しく『猟犬』たる魔獣である。

……しかし、普段は森や洞窟の奥など暗い場所に潜み、夜間に複数で狩りをする。
本来ならば日の落ちる前の、
しかも森とはいえ入口付近になどは居ない魔獣である。
……そう、本来ここに居るべきではない魔獣なのである。


「致命傷を負っている……一体誰が……」
手掛かりを得ようと近ずくカイン。すると……

カッ!

「グルガアアアァ!」
最後の力を振り絞ったのか、ヘルハウンドが目を見開き、飛び掛って来た。
(し、しまった!)
完全に油断していたカインはとっさに迎撃する時間も無く、なんとか身を守る。

……ゴスッ!

……目蓋を閉じ、視界を遮断している為、状況は分からないが……
(なにか……にぶい音が聞こえた……)
好奇心&状況確認の為、目蓋を開けるカイン。
……目を開いたカインの目に最初に飛び込んできたのは……

……白、
視界いっぱいに広がる、白くなびく《何か》だった。
(白い……毛?)
視界をめぐらすと見えるのは絶命したヘルハウンド。
……そして、白毛の生物。
《それ》は声を発する。
「……大丈夫か?」

………………
…………
……

「いやあ、悪かったな。一匹仕留め損なっちまって。
……にしても一人で調査たあ……大変だねえ」
「まあ……仕事ですから。貴方こそ一人で何を?」
「オレも仕事、さ♪」
……カインと会話している白髪の男。
先程ヘルハウンドを素手で殴り殺したが……人間である。
外見は中肉中背で体全体をマントで覆っており、ザックを背負っている。
白髪の長髪を無雑作に束ねた……気の良さそうな男だ。
「おっと、自己紹介がまだだったな。オレはジュイ、旅の戦士だ」
「俺はカイン・ヴァンスっていいます」
「ほう……カイン……《ヴァンス》か……」
「……聞いたことがあるんですか?」
「いやいや、ここ最近はこの国には寄ってないから……お前のことは知らないさ」
「……そうですか」
一応は四大将軍の一人である自分を知らない……それも充分に疑わしいが……
(……やはり怪しいな……少し様子を見るか)
一応は任務だ。警戒を怠るわけにはいかない。
「ああ、因みにオレの性は無いんだが……便宜上《クロス》って名乗ったりしてる」
「南クロス大陸出身なんですか?」
ふと、カインの頭に恐ろしいモノが浮かんだが……無視する。
「多分な。孤児だったからよく分かんねえんだが」
「あ……す、すいません」
「おいおい気にするなよ。今は家族だって居るし……構わねえさ」
「結婚してるのですか?」
そういう風には見えないが……
「いやいや、色恋沙汰には疎くてねえ……女は結構好きなんだが」
自分の言ったことに苦笑するジュイ。
「じゃあ、家族って……」
「弟が一人な……っても赤ん坊の頃からオレ一人で育てたんだがな」
「それじゃあ……弟さんも……」
「まあ孤児だったわけだ」
「……俺も孤児だったんですよ」
「ほう、それは奇遇だな……ま、孤児同士お互い仲良くしようぜ。
そんなかしこまった口調じゃなくて良いからさ」
「分かりま……分かった」
「はっはっは……と、そろそろ日が暮れるな……休む場所を探そう」

………………
…………
……

(彼が《赤髪の鬼人》なのだろうか……しかし、白髪なんだし……)
寝床を決めカインは焚火の準備をしつつ考えている。
(それに悪人には見えないし……なにより嘘をついている風には見えない……)
「……よ、火ぃ着いたか? って見りゃあ分かるわな」
カインは考えを中断し見上げる。
「魚……か?」
「おおよ。やっぱ固形食糧なんかより新鮮な方が美味いからな♪」
手際良く木串をさしていくジュイ。
「手伝だおうか?」
「いいよ。それより後ろ気をつけろ」
「!?   《閃光》!」

ズバア!

振り向きざまに放ったカインの技が何かに当たる。
「ヘルハウンド!?」
後ろには多少手傷を負ったヘルハウンドが一体。
そして……赤くこちらを睨む眼光が数対。
「……どうやらさっきの奴の仲間みたいだな。
……仇討ち……つーよりは食料確保か」
魚を焼きつつ話すジュイ。
「……一……二……三…………五匹か。ジュイ、手伝ってくれ」
カインにとっては倒せない数ではないが一度に相手をするのは辛い。
「まあ、魚が焼けるまでの暇潰しってとこか」
のっそりと腰を上げるジュイ。
「……来る!」
『グルガアアアァ!』
二人に飛び掛るヘルハウンド!
「「《閃光》!」」
ズバア! 二人同時に技が炸裂する!
二人の技は一体ずつ敵の息の根を止める。
「ジュイ、《閃光》を使えるのか!?」
「イヤ、さっきお前のを見てパクった」
こんな時でも飄々と答えるジュイ。
「パクったって……いや、それよりその剣!」
「ん、これか?」
ひょい、っとジュイが持っている剣を見せる。
「それは……《聖剣ファルコン》!? な、何故?」
「いや、これはファルコンの模造刀だ。第一、本物はお前が持っているじゃないか」
……そう、この世界に七本在ると云われる『聖剣』。
その内の一本、『聖剣ファルコン』は彼、カイン・ヴァンスが所持していた。
「ま、んなことよりも……こいつ等を片付けねえとな」
残り三匹のヘルハウンドが二人に飛び掛る!
「オレに任せとけ」
三匹の間に飛び込むジュイ!
「ジュイ! 三体同時は無理だ!」
たが今から助けようとしても間に合わない。
カインに出来るのはジュイが退いてくれることを願うだけだが……

ズバア……

……ジュイは退かなかった……
そして……その場に赤い……血の花が咲いた……

ブシュウウウ……

「……《血散花斬》」
ズタズタに切り裂かれたヘルハウンド達が咲かした……赤い、花。
その血の噴水の中ジュイは……
「……腹減った……」
髪を赤く染め……居た。

………………
…………
……

「美味い! やっぱ焼きたてが最高!」
「ああ……そうだな……」
二人で焼き魚を頬張るジュイとカイン。
「どした? ……ああ、さっきので食欲無くしたか?」
「……ああ」
「でも食っとけよ。体がもたねえぞ」
「……ああ、分かってる」
カインは……心ここに在らず……といった感じだ。
(ジュイ……やはり彼が……)
赤髪の鬼人なのか?
そう、本人に聞きたかった。だが……聞けない。
(もし……彼がそうなのなら……闘わなければならないかもしれない)
だが彼……ジュイとは闘いたくない……
実力の面で考えても勝てるかどうかは不安がある。
だが、それよりも……
(彼を倒してしまいたくない……)
それは友情を感じていたのか……あるいは尊敬の念か。
自分でも理解出来ない感情に彼は悩まされていた。

………………
…………
……

「なあ、カイン」
食後、睡眠をとろうとしていたところを呼ばれる。
「……なんだ?」
目を開けて答える。
「綺麗な月だぜ……」
言われて空を見上げるカイン。
そこには月が輝いている。
「蒼くて……冷たい……良い色だ……全てを流してくれるような、さ」
月を眺めるジュイの横顔……それにカインは一人の男を重ねた。
(……師匠?)
似てもいない顔付きだが……何故か、そう……思えたのだ。
そしてその横顔が口を開く。
「月って言やあ……あの、髭オヤジはどうしてる?」
「髭オヤジ?」
当然ながら自分の知り合いにそんな名前の人物は居ない。
「その剣を前に持ってたヤツさ。剣を譲ったってことは……引退したのか?」
「師匠と知り合いなのか!?」

カインの師匠《ジェラルド・ヴァンス》
《聖剣ファルコン》の前所持者であり、聖へレンズ帝国の将軍であった男である。
そして、カインの剣の師匠であり……育ての親でもある。

「まあな……10年くらい前に暫くの間一緒に居たんだ」
「そう……か……」
「あのオヤジ……
 良いヤツなんだがな〜んか腹立つんで髭オヤジって呼んでるんだ」
くっ、くっ、くっ……とジュイは笑いを含む。
「『今度会ったらテメェより強くなってる』って約束したからさ。
……まあ、あいつも歳だろうけどな。一応会っておきたいんだが……」
「……師匠は……8年前に味方に裏切られて……」
「……死んだか……なんとなくそんな気はしていた……らしくない最後だな」
フゥ……と溜め息をつくジュイ。
「そんな言い方はないだろう!」
カインはジュイに向かい怒りをあらわにする。
「……事実だろう? それに剣士である以上は……いつか……死ぬ」
「だが……」
「……お前は剣士というものをなんだと思っている?
 人を守る存在か?
 それもまあ……間違ってはいない。
 だが、『剣』という存在は……殺すためのものなんだ。
 どんなに正当化しようとも命を奪う道具に違いはない。
 それを使うのが……つまり、命を奪うのが剣士なんだ。
 命を奪う者が……命を奪われたところでなんの不思議もない」
「だけど! ……師匠は剣士である以前に……人間なんだ!」
カインは必死で反論するが……
「……そして人間は動物だ……動物もまた、弱肉強食に生きる」
……ジュイはあくまで調子を崩さずに語る。
「だけど……それでも……人間なんだ……」
カインは……自分の手が震えるのを感じていた。
「わーってるよ……理屈じゃあ割り切れないことくらい……
……ま、今度 墓参りでもしてやるさ」
「……ああ、そうしてやってくれ……」
「酒でも供えてやるかね……って、あのオヤジ、酒は嫌いだったっけか」
くっ、くっ、くっ……ジュイの冗談も今は白々しく聞こえた……

………………
…………
……

「……ジュイ。一つ聞きたい」
「あん?」
魔の森を進むカインとジュイ。
「お前は……」
意を決して尋ねるカイン。
「……赤髪の鬼人なのか?」
「……なんだ、それ? オレは見ての通り白髪だが?」
飄々と答えるジュイ。
「いや……知らないのなら構わない……」
(そうか……違うのか…………良かった)
カインの安堵は他人が見ても気付く程だった……ジュイは気付かなかったが。
「その奇人とやらを調査してるのか?」
「ああ……ちなみに奇人じゃなくて鬼人な」
「ふーん……っと、そろそろオレのターゲットが居るみたいだな……」
「ターゲット?」
「ああ……お前は離れてな」

少し進むと視界が開けた……そこには……
「し、死体!?」
数は百にも上ろうか……無数の人間の死体が蠢いていた。
「死体、じゃねえよ。生ける屍(ゾンビ)だ」
そう、蠢いていたと称した通り……その死体達は……動いている。
「だ、だがこんな所に……しかもこれほどの数が……」

《生ける屍(ゾンビ)》
死した人間の遺体が生への執念、恨みなどで動きだしたもの。
だが生前の知識や思考能力は欠落しており、
また、生命活動が停止しているため、肉体は腐敗していく。
理由は不明だが生きているものを無差別に襲う。

「まあ……普通はこんなとこにたむろしてないわな……」
「じゃあなんで……」
「普通じゃねえってこった……ヤバっ!」

ズザア……

背後からの不意討ちを避ける二人。
「あっちゃー……囲まれてやがる」
十体程のゾンビ、それが二人を背後から襲い……同時に退路を塞いだ。
「……ジュイ、変だぞ。普通ゾンビはこんなに統率はとれてないし頭も悪い」
ジュイと背中合わせになり、百体程のゾンビに牽制するカイン。
「だから普通じゃねえっつーの。おそらくは指揮官みたいのが居る筈だが……」
「死霊術士(ネクロマンサー)か!?」

《死霊術士(ネクロマンサー)》
幽霊(ゴースト)や生ける屍(ゾンビ)を操る術士。
どのような方法で操っているかは不明。
基本的に合法な存在ではない。

「うんにゃ……違うな……
 ネクロマンサーはこんなに大量には操らない、統率しにくいからな」
「それじゃあ一体!?」
「人を治めるのは人なのが自然だ……ならこの場合は?」
「!?  ゾンビがゾンビを操るというのか!?」
「いや、ゾンビにんな知恵はねえ……ゾンビにゃあな!」
声と共に石飛礫(いしつぶて)を投げるジュイ。

ボスッ!

飛礫は一体のゾンビの頭を貫き倒す。
(凄い力だ……)
倒れたゾンビの後ろには……
「な!? ぶ、武装したゾンビだと!?」
……先程述べた通り、ゾンビには知恵がない。
故に道具を使ったりなどはできないのだが……
「剣士の格好をしたゾンビなんて……聞いたこともない!」
「……いや……だからゾンビじゃねえって」
「それじゃあ、あれで人間だとでも言うのか!?」
カイン曰く武装したゾンビ……
……そいつは体の数ヶ所が破壊されており、人間ならば間違い無く絶命していた。
「その二つしか頭にねえのか! 食人鬼(グール)だよグ・ウ・ル!」
「……ぐーる?」

《食人鬼(グール)》
ゾンビの特異変種と云われる魔物。
ゾンビとの違いは生前の想いや知恵、知識をある程度有しているということ。
だがその記憶などを保つためには生物の……特に人間の肉を食さねばならない。
人とは相容れぬ存在である。

「……つーわけだ。わーったか?」
「大体」
そのグールが……カインを見る。
「テ・イコ……クヘイ……コ…ロセ」
その命令によりゾンビ達がカインを狙う。
「な……なんでグールが帝国兵を狙うんだ!?」
「……帝国兵に殺されたからだろ……」
ぼそり、とジュイが語る。
「こいつは……生前は《カオス》のメンバーだったんだ」
「異教徒か!?」
「ああ。……しかし一人で帝国に挑み……戦死した」
「…………」
「だが、その恨みによってグールとなり……仲間を集め、帝国を滅ぼすつもりだ」
「……いくら数が多くてもゾンビでは……」
「まあ、無理だろう」
「でも、なんで……」
「それ以上は考えられないんだ」
「……憐れだな」
気の利かない言葉であったが……今はそれしか思い浮かばなかった。
「……俺はこいつをこれ以上苦しませずに楽にしてやるのが今回の仕事だ」
「そうだな……手伝うよ」
ゾンビ達は命令のせいなのか……
手に手に近くにあった石や棒切れなどを持って襲おうとしている。
「……つーか……こいつら全滅させないと逃げるに逃げられん」
「よし! 二人で協力して……」
「いや、バラバラに戦おう」
「なぜだ!? 協力しないとこんな数……」
「俺は一対多数が得意なのさ」
そう言ってジュイは背中から剣を抜く。
赤い……長刀を。
「いくぜ……赤」

シャンシャンシャンシャンシャン……

「刀が……鳴いている……妖刀か!?」
「ああ……こいつは妖刀・赤(せき)」

シャンシャンシャンシャンシャン……

妖刀・赤……その長さは2メートルを超える。
「そんな長い刀を使えるのか!?」
「まあな……俺に仕えない接近武器はねえ」

シャンシャンシャンシャンシャン……

「……早く血を吸いたいだぁ? ちったあ、だぁってろ」

シャンシャンシャンシャンシャン……

メキ!

「……うるせえよ」
ジュイは赤の柄を握り締める。

ミシミシミシ……

シャン……

「……そう、それで良いんだよ。大人しくしてろや」
「……ジュイ……その刀……」
カインは不安げに赤を見る。
「ああ……なんでも精神を乗っ取るとかなんとか……俺にゃあかんけーねえけどな」
ニッ、と笑ってみせるジュイ。
「それより……そこの十体くらいのは頼んだぞ」
「……分かった。けど、終わったらそっちを手伝う」
「……上等!」

ダッ!

二人は別々にゾンビに飛び掛る。

………………
…………
……

「あるべき場所へ帰れ!!」
……最後のゾンビを《天空昇》で倒したカイン。
「よし! こっちは終わった! ジュイ、大丈夫か!?」
振り向いたカインが見たのは……
「ハアアアアッ!」
ゾンビに囲まれながら無傷で刀を振るう男と……
……五十体近くの倒れたゾンビだった。
(こ、この短時間であれだけの数を!?)
カインは呆然としつつ、その剣技に見入ってしまう。
……それはカインの知るあらゆる剣技と違った。
敵の中心部に入り込み、近くの敵から片っ端に斬りまくる。
本人は常に高速で動き回っており、敵の攻撃を受け付けない。
もし、当たりそうな攻撃があらば……
「ウオオオオオッ!」

ザス!

刀がゾンビに食い込む。
斬り裂くではない、食い込んだのだ。

「リャア!」

ジュイはゾンビが食い込んだままの刀を振るい……
自分に当たる攻撃をしようとしていたゾンビに叩き付ける!
ゴキャア
と、嫌な音と共にその二体は動かなくなった。
「まだまだあああ!」
そんな無茶な動きをしつつ、防ぎようのない攻撃は紙一重でかわしている。
防げるかどうかなどと考えている時間はない、
ただ感覚で防ぐと避けるを使い分けているのだ。

バキイ!

……不意に鈍い音が響き……
「……ヤバッ!」
……あまりに無茶な使い方をした為だろう。
妖刀・赤が……折れている。
「……おい!?」
あまりの間抜けな事態にカインは我に帰った。
ジュイは折れた剣先も掴んでゾンビの群から出ると……

ザスッ!

……近くに倒れていたゾンビに剣先を突き刺した。
「なにをやって……!?」
……カインは我が目を疑う。

ズズズズズズ……

……赤が……刀が……血を吸っているのだ。
ジュイが折れた部分をくっ付けると……
……まるで何事もなかったかのように刀は修復される。
「相変わらず便利だが……悪趣味なヤツだぜ」
治った刀を片手に再びゾンビの群に飛び込むジュイ。
瞬く間にゾンビの数が減っていく。
「……す……凄い……」
あまりの凄さに我を失って見入るカイン。
……後ろからゾンビが近寄っているのも気付かずに。
「……な!?」
やっと気付く……が、遅い。
ゾンビは尖った太い棒の先を突き刺してくる。

ブシャア!

……赤い……血が飛び散った。
「いっ……てえだろ! このヤロウ!」
ジュイの左拳で殴られたゾンビはぶっ飛び……動かなくなる。
カインは呆然と見ていた……右腕に穴の開いた男を。
「ジュ……ジュイ! 大丈夫か!?」
自分をかばった男の傷を見るカイン。
「まあ……命に別状はねえよ。……右腕がうごかねえけど」
……ジュイは右利きである。当然、刀を持っているのも右腕である。
「すまない……後は俺がやる!」
残り三十といったところか……そのゾンビの群にカインが立ち向かう。
「おい、別に左腕でも剣は使えるぞ」
「いや、無茶はしないでくれ。これくらいは俺でも相手できる」
「……わーったよ。お前こそ無茶するなよ?」
「ああ、大丈夫だ」
カインは自信満々にそう答えたが……
(……とは言っても……これだけの数を相手にするには……あれしかないか!)
傷の治療をしだしたジュイを後ろ目で見た後、カインはゾンビ達に向かい……
「いくぞ!!」
剣を振りかぶる!
「光の翼でとどめだ!」

カッ!

……光が消えた時、ゾンビは既に全滅していた。
「ひゅ〜う♪ それが《光の翼》か……スゲエ威力だな」
口笛を吹きつつ感嘆の声を上げるジュイ。
「……傷の方は大丈夫か?」
カインは剣を収めジュイに近付く。
「まあな。これでも医学の心得があるから……治療も早かったし」
実際、腕の傷はほぼ完璧な処置が施されていた。
「そうか……本当にすまない」
ジュイに向かい頭を下げるカイン。
「おいおい、俺の仕事にお前を付き合せちまっただけじゃないか……謝るなよ」
決まりが悪そうにジュイが鼻を掻く。
「テ……イ……コク……ヘ……イ…メ……」
「なっ!?」
「……ほう……しぶといな……」
……グール、それはいまだに動く。
「ニンゲンヲ……ゴミノヨウニアツカウテイコク……ノテサキメ……」
「…………」
「キサマラハ……イズレホロビル……カナラズダ!」
……その言葉を最後に……人ならざる者は動きを止めた。

………………
…………
……

「いや〜おつかれさん。これで俺の仕事も終了だ。つーわけで、まあ飲め♪」
「……いや、飲むのは構わないけど……なんでお茶?」
カインは自分の手の中にある緑茶を見下ろして呟く。
「まだ、森の中なんだから酒はマズイだろう?」
「いやまあ……そうだが……けど何故にお茶?」
「オレが好きだから♪」
「……そうか」
とりあえず茶を啜る……美味い。
「因みにミルクも好きなんだが……すぐ傷むから旅には持ってけねえんだよな」
自分の茶を啜りつつジュイはぼやく。
「あ、緑茶がイヤなら麦茶や烏龍茶、飲んだことはないけどウコン茶もあるぞ」
「……紅茶は?」
「……イヤ、あれは匂いがどうも……」
……変にこだわるヤツである。
「まあ、なんにせよこれで報酬がもらえるぜ」
「……こんな大仕事を一体誰が?」
帝国以外にこんなことを頼むのは……カインにはひとつしか心当たりがない。
「悪いが秘密だ。そういう契約だからな」
「……そうか……しかし、今回の報酬は一体いくらになるんだ?」
これだけの大仕事を一人で引き受けたとなればその報酬は莫大な筈である。
「ん〜? いや、大したことないぜ……〜〜ペインだ」
「なっ! こんな大仕事でそれぽっちか!?」
ジュイが言った金額はカインの予想や相場を大きく下回っていた。
「まあ、金目的じゃあないから良いんだが」
「……他の目的って?」
上手くいけば《カオス》の情報を引き出せるかもしれない。
……と、いうよりは単なる好奇心で質問をするカイン。
「いや、その依頼をもってきたヤツが女なんだが……
 キツイ感じがするけど結構美人だったんで……」
「……引き受けた、と」
「ま、そういうこと♪」
「……女に利用されないようにな」
「それくらいは心得ているさ♪」
……どうだか。

………………
…………
……

「ふう……ごっそさん」
「……お前って料理も上手いのな」
食後の談笑中。
「ま、一人旅してたからな」
「……してた? ……ああ、今は弟がいるんだっけか」
「まあな……とんでもねえバカなんだが……ま、結構使えるヤツさ」
「……使えるって……」
「最近の稼ぎはあいつに任せっきりなんだ
……ま、今回はオレの趣味の単独行動だけどな」
「……どういう兄弟だよ……」
とりあえず……カインは汗が浮かぶのを感じていた。

………………
…………
……

……夜。
二人はいまだに談笑していた。
「……ははは……ん?」
ふと、ジュイの胸元にアクセサリーを見付ける。
「ん? ……ああ、こいつか?」
今までマントの下に隠れていた《それ》を取り出すジュイ。
その形状はロザリオに似ていた……が、
「……悪趣味だぞ」
……そのロザリオには小さな女性が磔にされていた。
「そうか? ……かもな。けど、これだって逸話付きの一品なんだぜ」
「なに!? レアなのか!?」
カインの目の色が変わる。
「……なんか本性だしたか? ……まあ良い。
 ついでだからその逸話とやらを話してやろう」
ジュイはそのロザリオを眺めつつ……
「……昔……ありきたりな出だしだな。
 この世界のどこかの大陸にある聖魔が現れました。
 その聖魔は不思議なことに美しい人間の女性の姿をしていました。
……しかし、その聖魔は人間を襲い苦しめたのです。
 そこで各地の英雄が集まりその聖魔を倒そうとしたのです。
……だけど、その聖魔は自分の身体を像に変え、死なないようにしました。
 英雄達はその像を十字架に磔にして、
 その聖魔が蘇ることがないように封印しました。
……しかし、その十字架はある日に消え去ってしまったのです」
ジュイが語るのを止める。
「……それは……実話なのか?」
「……さあな……実話だろうと眉唾だろうと……俺には関係ないさ」
フッ……とジュイは笑みを浮かべ……
「だがまあ……そこらの古道具屋で見つけたモノだ……多分嘘さ」
「……もし、本当だったら?」
「別に、特にどうともする必要がないだろう……
……まあ、美人だしな。それはそれでお得さ」
……危険とは思わないのだろうか。
「……ところでお前の口調変わってないか?」
「おっと……いけねえいけねえ……マジメな口調は似合わねえからな」
くっくっくっ……とジュイは苦笑し、
「まあ、んなことはどうでも良い……それより大事な話がある」
不意に真面目な顔付きになるジュイ。
「……なんだ?」
ついカインも真面目になる。
「……帰り道……分かるか?」
「……は?」
こうくるとは予想していなかった……
「いや〜実はオレってば方向音痴で……」
「で、でもここまで来たんじゃ……」
ここは森のかなり奥になっている。なかなか辿り着けるところではないが……
「目的があると簡単に行けるんだが……気付けば戻れなかったり」
「……よく今まで旅してられたな」
……まったくだ。

………………
…………
……

「おおっ! 出口だ! なんとか生還できたぞ!」
「ふう……まあ、帰りは楽だったな」
現在二人は森の出口に到着していた。
「……あ! お前の任務とやらはどうなったんだ?」
今更だがジュイが気付く。
「……良いさ……見付からなかったってことで」
「なんか……迷惑かけたか?」
「いや……楽しかったよ」
これは本心だった。
今まで色々な人間を見てきたがこういったタイプは始めてだ。
なんというか……掴み所がない。
「悪いな……今度酒でも奢るから」
「……なら、パニュール・ピニョールを頼む」
「あいよ……変な名前の酒だな、おい」
「ああ……だけどレアだ」
「……お前……レア物好き?」
「な、なぜ分かった!?」
……わからいでか……
「レアねえ……オレも刀剣を集めてるんだが……」
「レアなのがあるのか!? ……というかあの赤いのもレアだ!」
「落ち着けって……今度落ち着いたら見せてやるよ」
「ああ、楽しみにしてる!」
そうして二人は森を出ていく……

………………
…………
……

「……カイン」
森から出ると……一人の男が立っていた。
「シェイド将軍!? なぜここに!?」
「……お前の援護に来た……その男か?」
ジュイを睨むシェイド……ジュイは相変わらず飄々としているが。
「いえ……彼ではないと思います。《鬼人》は発見できませんでした」
「……念の為にその男にはついて来てもらおう」
「シェイド!?」
驚愕するカイン。
「……カイン。我等将軍は情に流されてはならないのだ」
「あー……どうでも良いが……オレはついていく気はねえぜ」
ジュイはいつでも飄々としているのだろうか……
「……我々に逆らうのか?」
「オレってば命令されるのキライなんでね……
 ついでに神だの王だのもキライなんだよ」
「……王を侮辱するか」
「お望みとあらば悪言雑言の限りを尽くすぜ」
「……良かろう……今ここで私が裁いてやる」
剣を抜くシェイド。
「でっきるかな〜?」
ジュイも左腕で赤を抜く。
……右腕はいまだに治っていない。
「ふ、二人共止めろ!」
「……カイン。黙って見ていろ」
「お前の初敗北のシーンをかい?」
「……その言葉……すぐに後悔するぞ」
シェイドは最早完全にジュイを仕留めるつもりらしい。
「……オレは人生で後悔しないように生きてるつもりだけどね」
ジュイは飄々とした態度ではあるが……
その瞳に鋭いものがあるのをカインは気付いていた。
(こ、この二人が全力で戦えば……俺では止められない)
自分の非力さを恨むカイン。
「……ゆくぞ」
「こいよ……返り討ちになりたきゃな」
そして……戦いは始まる。

………………
…………
……

「「ハアアアッ!」」
二人の剣が激しくぶつかり合う。
……おそらくこの大陸では最強クラスの戦いだろう。
(現在この大陸最強の将軍、シェイド・ハーベルト……なかなかのもんだな)
ジュイはいまだに笑みを浮かべたままだ。
一方、シェイドは……
(バカな……これほどの強さとは……いったい何者なのだ!?)
自分ほど強い者はそうはいない……シェイドはそう思っていたが……
(こいつが……その例外か!?)
シェイドはこの男に最大限の注意をはらう……
そして戦況は……僅かながらシェイドが勝っていた。
カインにはその理由が二つ挙げられる。
(やはり左腕では限界がある……それにあの長刀は一対一には不向きだ)
……だが、本来有利であるはずのシェイドは焦りを感じていた。
(隙がない……いや、全ての隙を私への誘いにしている)
迂闊に攻めれば手痛い反撃を受ける……
その為、シェイドは有利でありながら勝利できない。
(ならば……隙を作らせる!)
「はあぁぁぁぁっ!」
《天空昇》を放つシェイド。
(この攻撃ならば……なにっ!?)
……ジュイの行動はシェイドの予想外だった。
《天空昇》は下から上へと斬る攻撃である。
その時に起こった衝撃で相手のバランスを崩すことも可能だ。
だが……それをまったく逆の動きで相殺するなど誰が予想できようか。

ギィイイン!

お互いに剣が弾かれる。
「まあ……さしずめ《奈落降》とでも名付けるか」
ジュイはその予想外をあっさりとやってのけた。
(しかし……流石に辛いな……)
……ジュイとて自分の不利を悟っているのだ。

カチン

……ジュイが妖刀・赤を鞘に収める
「……なんのつもりだ?」
「なあに……こっちでお相手するのさ」
ジュイは腰から剣を抜く……その剣は……
「ど、ドラゴンズ・アイ!?」
……カインが驚愕の声を上げるのも無理はない。
《聖剣 ドラゴンズ・アイ》、これもまた七大聖剣のひとつであり……
シェイド・ハーベルトの愛剣でもある。
「くだらん……そんな偽物で私を倒せると?」
「……偽物じゃあないさ……本物でもないが……」
「……訳の分からんことを」
「まあ、言ってみれば聖剣であり、ドラゴンズ・アイでもあるが……
 本物のドラゴンズ・アイではない……ってとこかな」
「……戯言を」
「ま、試してみようぜ」

「ハアアアアッ!」
二人の斬り合いが続く。
(バカな……この切れ味、強度……本当にドラゴンズ・アイなのか!?)
……ジュイの言う通り、その剣は紛れもなくドラゴンズ・アイそのものだった。
「……どうだ? 本物……っぽいだろ?」
「……どういうことだ?」
「教えてやろうか?」
憎たらしい笑みを浮かべるジュイ。
「この剣は本物のドラゴンズ・アイじゃあない。こういうこともできるしな」
言ったその場で……みるみるその剣はファルコンへと姿を変える。
「他の剣の姿を模す剣なのさ。姿だけな。
……だがその剣を知っている人間は能力まで同じと思い込んでしまう。
……それがこの剣……《聖剣 オルタナティブ》の能力だ!」
「「聖剣だと!?」」
二人の上げる驚愕の声に満足しつつ、ジュイは笑みを浮かべる。
「果たして……お前らはこの剣の本当の姿を拝めるかな……っと」
言ってジュイはシェイドの頭上へと飛び掛る。
「なにを……!?」
その時……シェイドの……いや、カインの目にも……月が見えた。
「「《月光》!?」」
ジェラルドの……二人の師匠の剣技を……目の前の男が放つ。
「……《蒼月》」
蒼い月の下……シェイドへと剣が振り下ろされる。

ギィイイイン!

……シェイドは動けなかった。
……だが、剣がシェイドを捉えることもなかった。
「「カイン!?」」
二つのファルコン、それがぶつかり合う。
「くっ……うあああっ!」
シェイドへの攻撃を受け止めはしたが……耐えられず弾け飛ぶカイン。
「「カイン!? 無事か!?」」
二人の呼びかけに対し、カインは……
「あ、ああ。大丈夫だ……」
その言葉に二人は安堵しつつ……
「……よくもカインをやってくれたな」
「勘違いするな。お前が《弱い》からカインが庇ったんだ」
「キサマ……許さん! この戦いに終止符をうつ!! 光の……」
「遅い! 全てを滅ぼせ! 《破壊の翼》!!」
そして……《光の翼》に酷似した技が放たれる……
しかし、その威力は《光の翼》の比ではなかった。

……カインが目を開けた時、目の前には大きなクレーターがあった。
「なっ!? シェイド! ジュイ! 無事か!」
……するとクレーターの中で何かが動く。
「シェイド!」
「……心配するな……無事だ」
ぼろぼろになりながら立ち上がるシェイド。
『ほう……よく無事だったな』
「ジュイ!」
どこからともなく声がする。
「キサマ……どこにいる」
『いやあ……威力を上げ過ぎて自分まで吹っ飛んじまってなあ……
 悪いが勝負はここまでだ』
「キサマ……逃げるのか」
『ああ、逃げる。無茶してもオレに得はないからな』
くっくっくっ……と笑い声がして……
『んじゃあ、二人共、また会おうぜ』
……そして、声はしなくなった。
「……シェイド」
「……カイン、戻るぞ。」
「ああ……」
「戻ったら……特訓に付き合え」
「……特訓?」
「そうだ……今回のような醜態を晒すわけにはいかん。
 将軍とは……他の兵士の見本とならねばならないのだ」
「ああ……分かった」
……そうして……二人は城へと向かう。
(……ジュイ。……また、会おう)

………………
…………
……

……墓地。
ジェラルドの墓の前にカインは居る。
「師匠……先日、師匠の知り合いと会いました。
……師匠の所にも来たみたいですね」
……墓前には幸せを呼ぶ花《ワイルドストロベリー》と、
レア酒《パニュール・ピニョール》が添えてあった。

………………
…………
……

「……ああ、良い月だ……蒼くて冷たい良い色をしている」
……独りの男が月見酒をしている。
「……そうだな。このまま、ここに留まるかな……DCCの世話になるのも良い」
……また一口、酒を飲む。
「……しかし……この酒あんま美味くねえぜ、カイン……」
……男は独り月を見る。
……月を見るのは……独りでは……ない。

〜END〜


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